第23話 本人確認(前編)
《祝! 通算百話めっ!!》
毎日投稿18日目
第23話をお送りします。
おかげさまで、通算百話目となります!
これほどまでに長く書き続けられるとは、正直思っていませんでした(汗
これからも拙作をよろしくお願いします。
「コウキさんを取り戻す? エダちゃんは何を言ってるんだい、あの愛らしい夫婦をアタイらの事情に巻き込むわけにはいかないだろ」
呆れるようなスクルドさんの声が、私の眠っていた寝室に木霊した。
「あの……、スクルドさん。本気で言っているのですか?」
念のため、確認を取ってみる。
「本気もなにも……。エダちゃんこそ本気かい? そりゃあ、この森を熟知しているコウキさんは頼りになるだろうけど。あの新婚夫婦を危険なミーミルの泉に連れて行くのは賛成しないね」
「……」
どうやら、本気も本気。大本気らしい。
私の頭脳がこの会話の情報を入れ込み、激しく回転する。最初は人格の変わってしまったコウキを警戒して演技をしているのかとも思ったが、どうやらそうでもないらしい。
なんだか悲しみを通り越して、怒りが芽生えてきた。
私の頭の中で線が一本、プツリと切れる。
一体誰の許可を得て、私達の絆をこれほどまでに無茶苦茶にしているのか。
もう分かった、理解した。
アイツは、敵だ。
あの見た目に惑わされるな。あの、ヘイズという女こそ[森の魔女]だ。
あのいかにも人畜無害そうな顔の裏には、私達の絆をズタズタにする醜悪な笑顔があるはずだ。
魔の森で暗躍する、魔女の化けの皮をはがしてやる。
「……そう、ですね。すみません、また一人で抱え込もうとしていたみたいです。だめですね、私はホントに」
「まあ、その意気込みだけは有りがたく買わせてもらうわね。ありがとう、ウルズのために真剣になってくれて」
そう言って笑ってくれるスクルドさん。
私も表面上は笑顔を取り繕った。……あくまで、表面だけは。
(でも自分が大切な人ぐらい、自分の力で助け出してみせろと。……そう言ってくれたのも貴方ですよ、スクルドさんっ!)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
昨日、ヘイズさんが私達のために用意してくれた衣装を着て、私は一階へと続く階段を降りていった。
一階の大広間である食堂とリビングを兼用した空間には、皆の楽しそうな笑みがある。偽りとはいえ、ちょっと安心してしまう。私の気を失ってしまった一晩で、特に何かあったというわけではないらしい。
少なくとも身体的な意味では。
「申し訳ありません。お邪魔して早々、ご迷惑をお掛けしました」
私が深々と頭を下げると、ヘイズさんとコウキさんが笑顔で視線を向けてくる。
「良かったわ~、元気になったみたいね。この家に入った途端、気を失ってしまったから大変だったのよ」
……なるほど、今のシナリオは、そうなっているのか。
「まあ、本調子に戻ったのならそれが一番さ。さてさて、俺は今日も森の恵みを頂いてこようかな。なんせ幾ら食料があっても足りないみたいだからね」
コウキの笑いまじりな視線が、ヴェルちゃんとパンちゃんの食卓に向いている。どうやら朝ごはんは果物だったらしい。この二人の食欲には、流石のこの女も想定外だったようだ。隣の席ではPTの最年長であるスクルドさんが、苦笑しながら両手を合わせて拝んでいる。もちろん、謝罪のポーズだ。
しかし相棒の視線が妙にパンちゃんの皿にだけ、注意深そうに向けられているのは何故だろうか。
「エダちゃん、だっけ? 申し訳ないけど、朝ごはんが無くなっちゃってさ。これから取ってくるから、もう少し我慢できるかい?」
そう言いながら、外行きの外套がかけてある柱に近づいてゆく。どうやら食料を補充するために出かけるようだ。私はこれはチャンスだとばかりに食いついた。
「あの、もしお邪魔でなければ私にもお手伝いをさせて頂けませんか?」
その言葉にコウキを初め、みんなの視線が突き刺さる。
「え、でも。昨日、倒れたばっかりだろ? もう少し休んでいた方がいいって。朝ご飯だって食べてないし」
「そうねぇ。いくら明るくなったとはいえ、森はまだまだ薄暗いわ。心配ねぇ」
形ばかりの新婚夫婦が、心配そうな声を上げているが私の決意は変わらない。
「無理を言ってすみません。ですが、私達にもこの地を訪れた目的があります。そのためにも時間を無駄にはできません。この先の森がどうなっているのか、自分の眼で確かめてみたいのです」
二人は困ったような表情を浮かべて、スクルドさんの方へ無言のお伺いを立てている。どうやら止めてくれとお願いしているようだ。だが、スクルドさんの返答は私を擁護するものだった。
「本当なら無理をするなと言いたいところだけどね。その子の頑固っぷりは、誰かさん似さ。コウキさん、悪いんだけど見てやってくれないかね?」
「……えっ」
てっきり止めてくれるものだと思っていた、最年長のお姉さんが発した言葉にコウキが驚いている。
反論を口にされる前に、私は窓際に干されていた戦装束を着込み始めた。驚いたことに昨日洗ったであろう装束がもう乾いている。こんなところだけ都合の良い世界だ。
あとの手荷物は[収納の奇跡]で仕舞いこんでいる。私の荷物はこれで全部だ。
「さあ、行きましょう!」
返事を待つまでもなく、私は玄関の扉に手をかけた。
もしかしたら、魔の森までも変異しているかもしれない。
そう考えた私の心配は、どうやら杞憂だったようだ。あいも変わらず、魔の森は薄暗く侵入者を拒んでいる。それでもコウキは勝手知ったる庭だと言わんばかりに、先導役を買って出てくれていた。
「大丈夫? 歩くペースは早くない?」
私の身体を気遣ってくれているのか時折、後方の私を振り返ってくれる。だが、その声はやっぱり他人行儀だ。
「問題ありませんよ。むしろ、外の空気を吸えて気分が良いくらいです。これでも私、やんちゃっ子なんですよ?」
「ははっ、まあ子供は元気が一番だよね」
冗談だと思われたのか、軽く笑われてしまった。これまでの旅を思えば、私がたがか散歩程度で疲れるわけも無いと分かっている筈なのに。
けど、これは丁度良い会話のキッカケを作ってくれたものだ。今度は私から話しかける。
「コウキさんとヘイズさんは、何故ここに住まわれているのですか? 失礼ですが、ここは少々……」
「不便だって?」
「……はい。平原の方であれば畑を耕して野菜を作ることも、小麦を栽培して収入を得ることもできるかな、と」
もしかしたら、怒らせてしまったかもしれない。私が恐縮して小さな声で「すみません……」と言うと、相棒は笑って手を振った。
「まぁね、エダさんの意見は至極もっともだと俺も思う。でもね、この国の食料事情で言うならわざわざ俺達が作らなくても問題ないんだ。むしろ、作らない方が良いとまで言える」
「……? なぜ、でしょうか。食料は沢山あって困るものではないと思いますけど」
この会話に概視感を覚える。
「この国の農産業はね、あくまでドワーフ鍛冶師達の副業的な扱いだ。それでもムスペルスヘイム大陸の中部から南部にかけては、大穀倉地帯となっている。そこの地域の収穫だけでも国民が食べるには十分な量だ。この意味が分かるかい?」
この会話、たしかコウキと出会ったばかりの頃の、ユミルの大将の食堂で……。
「ジュヨウとキョウキュウ。の話でしょうか?」
「おっ、流石だね。流通する商品なんていうのは、買う人と売る人のバランスが大事なのさ」
そう言って笑う顔に、私は懐かしい思い出を映し出していた。
これは私とコウキがユミルの食堂で、ウェイトレスをしていた時のお話。
当時の大将は大雑把な性格で、とにかく客の食いたい料理は何でも出すという方針の人だった。だがその為には毎日、様々な食材を買い込む必要がある。消費する頻度が高い食材から低い食材まで、全てだ。その結果、廃棄になる食材もまた多かった。
そんな大将のやり方に、コウキのメスが入ったのだ。
営業が終わった厨房裏で、コウキは昏々とジュヨウとキョウキュウの大切さを大将に説いた。
大多数の人が頼む人気のメニューと、一部の人しか頼まないメニュー。
それは田舎では大抵が[安価=人気メニュー][高価=一部の人から人気のメニュー]という構図になる。貴族のようなお金持ちが居ないのだから当たり前だ。
その一部の人だって、そうそう高いメニューを毎回頼めるわけでもない。それでも食堂のメニューに載せている限りは、食材を備蓄しておかなければならない。
つまりは、わざわざ高い食材を買っておきながら廃棄となるケースが多かったのだ。そんな食堂の経営方針に、発達した異世界の知識を持つコウキが激怒したのは言うまでもない。
多くの人が求めるメニューを多く作り、数少ない人が求めるメニューは消えてゆく。それが効率の良い飲食店経営の仕方だと、コウキは声を大にして説いた。
初めは一部のメニューが無くなって、不満の声を上げる人も確かにいた。だが今まで廃棄していた高級食材の費用を安価な食材に当てることもできたので、自然と人気メニューの価格帯も下げることができる。
こうして「安くて美味いユミル食堂」の名は、次第に周辺の街にも広がっていったのだ。
この理論はミズガルズ大陸でも画期的な考えだとして、この世界の商人達の間で爆発的に広まった。当の発案者であるコウキは、商人達から逃げ回っていたけど。
「俺のいた世界では当然の知識だからね。もちろん、美味い食事であることは絶対条件だ。半分以上は大将の実力だよ」
そんな風に、当時のコウキは苦笑していた。
なんだかんだと言って、相棒もウェイトレスを楽しんでいたのだ。「今度は希少価値のある商品を扱う際の取引の仕方を……」などと呟いていたが、それ以上は何が何やらついていけなかったので聞いていない。
説明が長くなってしまった。
けど、この「ジュヨウとキョウキュウ」の話を聞いて私は確信した。この人は間違いなくコウキ本人だ。この短期間で、こんな隣の大陸の辺境にまで情報が届いているはずがない。
「だから、俺達はこの森に住み始めたのさ。多少は不便だけど、二人だけなら生きていくことはできる。面倒なしがらみもないしね」
「素敵です、愛のなせる奇跡ですねっ! ちなみに、以前はどこに住まわれていたのですか? 出会ったキッカケは?」
まるで恋に憧れる少女のように演じながら、得られる情報を出来るだけ聞きまくる。本来なら失礼な行為なのかもしれないけど、コウキは私を子供だと言った。なら子供に許される権限を最大限、活用しない手はない。
「え~、恥ずかしいなあ。えっとね、…………えっと。…………あれ?」
さあ、化けの皮が剥がれてきましたねっ。
私の相棒を取り戻すまで、あともう少しですっ!
最後までお読みいただき有難うございました。
今回のお話は、かなりドキドキしながら投稿しています。
需要と供給のくだり、もし間違っていたら指摘してください(汗




