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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第2章 ドベルグル皇国
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第22話 偽りの団欒

毎日投稿じゅうななにちめっ!

第22話です。ゆっくりとした進行ではありますが、毎話ていねいに書いていきたいのでお付き合い頂けたら幸いです。

2000文字で一話書いてる人マジすごいです。逆に。

「ひゃああああぁぁぁ……」

「こらっヴェル! ちゃんと身体洗ってから入りなさいっての!!」


 舞い上がる湯気の中で、湯船に浸かったヴェルちゃんが歓喜のため息を漏らした。それと同時にスクルドさんの大声が風呂場に反響する。セッパ姉妹は、このお風呂をかなりお気に召したようだ。

 その気持ちは十分に理解できる。まさか、魔の森の中で入浴ができるとは考えもしなかった。しかも数人は一度に入れるであろう大きな湯船に、たっぷりと暖かいお湯が張られている。ヴェルちゃんでなくとも安堵のため息が出るのも当然の話だ。

 そもそも生まれてこの方、このような豪勢なお湯の使い方など経験した覚えがない。いったいどれほどの大量の薪を使ってお湯を沸かせたのだろうか。そもそも、この近くにこれほど大量の水が汲める川があるのか。

 謎はいっそう、深まるばかりだ。


 ごろごろ……。


 私の胸の中には泡まみれとなったパンちゃんが居る。ジャーリ家のメイドにして私の幼い頃からの付き合いであるピッカのお陰で、パンちゃんは身体を洗われるのには慣れているみたい。こうして石鹸で毛を洗っても、気持ち良さそうに喉を鳴らしながら瞳を閉じている。ちょっと重いけど。

 こういう時は、わが子の成長を喜ぶのが正しい母親なのだろうか?


(早くウルズちゃんとトキハちゃんを治して、パンちゃんのお母さんも探してあげたいな……)


 この旅が道中で、パンちゃんが熊人族であることが判明した。いや、あくまでその可能性が高いという話ではあるけど。どちらにせよ、今も本当のお母さんがこの子を探しているかと思うとやるせない気持ちになる。


 でもまずは、魔の森で消えてしまった相棒(コウキ)を探さなくては。


 やらねばならない事は、とても多い。こういう時、相棒ならどう私に言ってくれるだろうか。

 すぐさま脳裏に一つの言葉が浮かんでしまい、思わず一人笑いをしてしまう。出会ってからまだ一年もたっていないけど、その代わり濃密な時間を共に過ごしてきた。そんな私だから相棒の言葉なんて簡単に想像できる。


(そうですね。まずは、目の前のことに集中するとしましょうか!)


 そんなふうに自分の中で結論づけた私は、パンちゃんの顔にかからないよう、ゆっくりと泡を洗い流した。



「あらあら。やっぱり元が良いと、どんな衣装でも可愛らしく変身しちゃうわね~」


 風呂上りの私達を見て、ヘイズさんは穏やかな微笑むを浮かべながら喜んでいる。

 これまでの旅の疲れを洗い流した私達は、食欲を刺激する臭いに連れられて食堂にたどり着いている。さすがにこれまで着ていた服を着る気になれなかったので、ヘイズさんからお借りした洋服に袖を通していた。


「フリルのついた服なんて初めて着たので……、少々恥ずかしいのですが」

「そうかい? アタイも初めてだけど新鮮で楽しい気分になるね」

「う~~、可愛いけど長袖は動きにくいっすー」


 私を含め、三者三様の意見が食堂に飛び交う。

 これは明らかにヘイズさんの趣味なのだろう。普通に考えれば、明らかに小さな女の子が着るべき可愛らしいデザインの服ばかりだ。

 だけど厚意で借りている服に文句を言うわけにもいかない。多少は恥ずかしい気持ちが残るが、我慢するしかないだろう。


「それっよりっ、ごはんごはん~。良い臭いっすねぇ」

「オンっ!」


 私達のPTの子供組は、まだまだ色気より食い気の方が旺盛なようだ。さっそく湯気の立つシチューが並んだテーブルの席に着いている。って、パンちゃんは椅子に座れないでしょ!?

 慌ててパンちゃんを椅子から降ろす。その代わりヘイズさんが、野菜のたくさん入ったシチューを床に置いてくれた。


「パンちゃん、待て! 皆が「いただきます」してからでしょ?」

「……」


 私の言葉の意味を理解したのか、パンちゃんは涎を垂らしながら必死に我慢している。


「ごめんね~。もう一人、食後の果実を取りに森にいっちゃった人が居るのよ。そろそろ戻ってくると思うんだけど……」


 ヘイズさんの言葉とほぼ同時に、玄関から物音が聞こえてくる。どうやらその「もう一人」が帰ってきたようだ。


「ただいまー」

「あっ、帰ってきたみたい。グッドタイミングねっ!」


 なるほど、こんな立派な家に一人暮らしかと思ったら旦那さんがいらっしゃるのですか。この方の旦那さんなら凄い人が来るのだろうなと、思わず身構えてしまう。


 けど、私の予想は。本当に予想外な方向へと裏切られた。


「あれっ、お客さん?」


 なぜなら、玄関から入った来たのは男性ではなく、ヘイズさんと同じ女性だったからだ。


 しかも、しかも……。


「ええ、森で迷って困っていたそうだから泊まってもらおうかなって。いいかな?」

「確かに。最近はここらも物騒だから、そうした方がいい。お手柄だね、ヘイズ」

「でもでも、物騒なのは本当なんだから貴方も気をつけなくちゃダメよ?


 ――――――――――コウキ」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「コウキっ!?」


 ガタンッ!


 すでに食事のテーブルに着いていた私は、突然の相棒(コウキ)の登場に驚いて立ち上がってしまった。驚いているのは私だけじゃない。スクルドさんも、ヴェルちゃんも。瞳をまん丸にして、私の相棒を見つめていた。

 だが当の本人は、一体何が起こったのか理解できないかのように、ポカンとしている。


「あ、はい。俺がコウキですけど……失礼ですが、何処かでお会いました?」


 …………えっ?


 カランっ。


 私の手から、木で作られたスプーンが滑り落ちる。


 今、彼は。私に対して、何と言ったのだろう。


 いや、聞こえた。聞こえたはずだ。コウキは、私の相棒は。


 私に対して「何処かで会いましたか?」と、言ったのだ。


「なぁに? コウキったら、こんな可愛いお嬢さんと何処で出会ったの?」


 遠くから、ヘイズさんのからかい声が聞こえてくる。


「いやぁ、申し訳ないけど覚えてないんだよなあ。もしかして、ヘイズが今教えたんじゃないのか?」


 コウキの気まずそうな声が、近いはずなのに遠く聞こえる。


 もうそこからは何も聞こえない、聞きたくない。 私の心が現実を認めるなとばかりに、意識を奪ってゆく。


 コウキ。――――どうして?


 そこから先は、私の視界はもう真っ暗で。


 何もかもが理解できなかった。




 気付いた時には、次の日の朝が来ていた。

 誰かに寝室まで運んでもらったようで、私は真っ白なシーツに包まれたベッドの上で、ゆっくりと身体を起こす。どうやら、相棒の言葉が余りにショックで気を失ってしまったらしい。

 もう、情けないったらない。

 窓から外を覗けば、朝日の光と鳥達による大合唱の総攻撃だ。これほどの歓待を受けたのなら重い目蓋を開けざるをえない。まったくもって憂鬱な朝だ。昨日の出来事が夢なら、どれほど幸福な現実なのだろうか。


 だがその現実は、私の逃避を許してはくれない。


 思考を停止するな私、考えろ。

 ベッドに腰を下ろしながら、目覚めたばかりの脳を叱りつける。

 この事態は前回の、ミズガルズの一件のように力で解決できる問題じゃあない。何せ、今回の相手は私の相棒(コウキ)なのだ。まさか殴りつけて正気に戻すわけにもいかない。


 ……ん? あれっ? 意外と名案?

 まあ、その手段は最後にとっておこう。相棒が更に記憶を失ってしまってはまた一手間だ。


 それより、なぜこのような状況に陥ったのか。そちらの問題を解決する方が建設的だ。

 私は昨日起きた異変を一つひとつ、頭の中で検証していった。



 コンコン。


 しばらくの間、思考の海に潜っていた私はドアのノック音で現実へと戻って来た。


「エダちゃん、起きているかい?」


 この堂々とした、それで居て女性らしい高い声色。声の主はスクルドさんだ。今の状況も大事(おおごと)だが、この家で一泊してしまったのも問題だ。これでミーミルの泉までの猶予は僅か明日、一日しかないことになる。

 その事に関しても相談しなければと丁度、思っていたところだった。


「起きていますよ、どうぞ」


 私がそう返事を返すと、ドアが静かに音を立ててスクルドさんが入ってきた。


「うん、もう大丈夫なようだね。体調が悪いならちゃんと言いなよ? 突然倒れてびっくりしたんだからね」

「申し訳ありませんでした。コウキの反応が意外すぎたので、つい……」


 あの時のコウキは、まるで私を知らないかのような口ぶりだった。

 天上の神々が降臨した姿である宝珠竜のコウキが、精神攻撃を受けるとは考えづらいのだけど……。いや、案外とコウキはヌけているところもある。疑いたくはないが、ヘイズさんのなんらかの力で魅了されている可能性だって無きにしも非ずだ。


 そんな考えを巡らせていると、いつの間にかスクルドさんの顔が私の目の前に映った。


「――ひゃあ!?」


 ビックリして、ベッドにひっくり返ってしまう。


「そうやって、額にスジを集めてばかり居るからこんな事になるんだよ! ……安心しなよ。ミーミルの泉までは、此処から多く見積もっても半日で着く。今日一日ゆっくりして、明日早朝に出発だ」


 それは朗報だ、さすがスクルドさん。トラブル続きの旅だったけど、それを見越しての道程を組んでくれていたのだ。


「それなら、今日一日をゆっくり使ってコウキを取り戻せますね。希望が沸いてきました!」


 あの優しいヘイズさんが敵だなんて思いたくもないけど、そもそも、この家自体が怪しいのだ。あの熊人族の猟師達が一晩の宿に使う程度だった小屋が、この立派な有様だ。

 怪しいにも(ほど)がある。


 それでも希望を捨ててはいけない。


(出来るかもしれない策がある。でも、出来ないかもしれない。なら、やってみて駄目なら次の策を考える。……でしたね)


 お風呂場で思い返した言葉をもう一度、私は自分の心に刻み付ける。

 原初の巨人に変化した戦乙女ヒルドに立ち向かう時、コウキが私に言った言葉だ。当時の私は、その楽観的な発言で希望を得た。なら今度は私の番というわけだ。


 ふわふわのベッドから重い腰を上げて立ち上がる。

 もう一度、立ち上がろう。やれる事があるならば、やれるだけやってみよう!

 私の身体に新たな活力が駆け巡る。


 そんな私に、再び冷や水を浴びせたのは。先ほどの私の言葉に対するスクルドさんの返答だった。


「コウキさんを取り戻す? エダちゃんは何を言ってるんだい、あの愛らしい夫婦をアタイらの事情に巻き込むわけにはいかないだろ」

最後までお読み頂きありがとうございました。

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