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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第一部《ミズガルズ編》第1章 ユミルの街
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第8話 異世界という現実

第8話をお届け致します。


今までは異世界旅行的な気分だったコウキ君。

ですが、この異世界も紛れも無い現実なのだと思い知らされます。


皆さんは殺人現場を見たいですか?

私は絶対にゴメンです。


今回は [R15指定] のお話になります。

納得して頂ける方のみお読みください。


2019.5.1改稿

「そんな! パンちゃんのお母さんを討伐するなんて、出来る訳ないじゃないですか!」


 その日の夜、村長宅で囲炉裏を囲みながら事情を話した俺に彼女は開口一番、悲鳴に似た怒号を発していた。


「声が大きい。パンちゃんが起きちゃうだろ」


 部屋の隅にはパンちゃんが体を丸めて眠っている。昼間の移動が疲れたのだろう。部屋が暖かくなった途端、眠りこけてしまった。


「す、すみません。で、でも……」


「気持ちはわかる。でも実際に家畜の被害は出ているし、討伐しなきゃブオリ村の人達は何時までも村に戻る事ができない」


 正座した膝に置いた両手を固く握り締めたまま、彼女はあまりの事態に体を震わせている。


「なあ、魔物化した動物を元に戻す事はできないのか?」


 一縷の望みを託してはみたが、そんな事ができるならば彼女はここまで苦しまないだろう。

 周りに重苦しい空気が立ち込める。

 村長さん達も部屋の片隅で眠るパンちゃんを横目にしながら答えを出せずにいた。


「とにかく、もう一度ブオリ村に行ってパンちゃんのお母さんを探しましょう。もしかしたら魔物化したのは別の熊かもしれません!」


 確かに今のところ状況証拠しかないのは確かだ。

 どちらにしろ、もう一度調べてみなくてはいけないだろう。俺の鼻ならパンちゃんの毛に付いていた臭いから判別可能だ。


「村長さん。パンちゃんをこの村で預かってもらっても良いでしょうか。人に危害を加えないのは見ての通りです」


 もし、この子の母親を討伐しなくてはいけなくなったら……。

 俺の想いを汲み取ってくれたのだろう。パンちゃんを完全に信頼してくれているとは言い難いのだろうが、ルオホ村の村長は頷いてくれた。



 翌日、改めてパンちゃんをルオホ村に預けると俺達は再びブオリ村に向けて出発した。

 今回は一度目のように一日掛けてゆっくりと移動していられないし、する気もなかった。

 村が見えなくなった頃合を見計らって道を外れ、人気のない場所に移動する。服を脱ぎ、頭に巻いている布を取り払い、額の[竜宝珠]をあらわにすると彼女の前に跪いた。

 彼女の手が俺の額に触れた瞬間。

 俺は竜の姿に変身した。


「こちらのコウキ様にお会いするのは久しぶりですね」


 こんな状況ながらも彼女は微笑んで、俺の竜の姿を見つめてくれる。


「そうだな。普段は人の姿の方が都合いいし。でもあんまり女性の体でいると、心まで女になりそうで怖いよ」


 服を脱がなきゃいけないのも恥ずかしいし。

 彼女の微笑みに気持ちを落ち着かせたお陰か、軽口くらいは言えるみたいだ。


「急ごう。この姿ならお昼前にはブオリ村に到着するはずだ」


「はい。必ずパンちゃんのお母さんを救いましょう!」


 彼女を背に乗せ、尻尾に力を籠める。[跳躍飛翔]の準備だ。

 尻尾をバネ状に丸め込み姿勢を低くすると背に乗った彼女が首筋に抱きついてきた。

 彼女の体から緊張が伝わる。鎧の着けていない箇所からの柔らかい感触に、俺まで変に緊張しそうになった。


「コウキ様? どうなされたのですか?」


「……なんでもない! さあ、いくよ!」


 邪な意識を奥に引っ込め、俺は大空に向かって全力で跳躍した。



 前回はブオリ村まで丸一日掛けての道程だったが、今回は体感時間でだが二時間程で到着した。相変わらず村民全員が避難したブオリ村は閑散としている。俺は村の中央広場に羽根を広げて着地すると背中から大きな吐息が聞こえてきた。


「お疲れ様、しばらくここで休んでるといいよ。俺は山の様子を見てくるから」


 [跳躍飛翔]を覚えた直後から俺はこの移動手段に改良を加えている。特に背に人を乗せる場合は羽根を上昇中は折りたたみ、逆に下降中は大きく広げる。さすがにパラシュートのような減速効果までは望めないが、ある程度までは落下スピードを抑える事に成功した。

 それでも毎回、大空に向かって上昇と下降を繰り返す緊張感と不快感は完全には無くならないので、背に乗る彼女にはかなりの負担だろう。

 それにこれから行く山中にまともな着地点があるとも思えない。彼女に怪我をさせないためにも単独で偵察に赴くのが正解だと判断した。


「……分かりました。ですが、本当に十分注意してください。生息区域を特定できたら、今度は私も同行します。決して一人で先走らないように……いいですね?」


 彼女は同行したそうではあったけど、自分の体の事も分かっているのだろう。複雑な顔を見せながらも同意してくれた。

 俺は彼女の言葉に頷くと尻尾に力を籠める。俺としては強靭な竜の肉体のお陰でそれほど疲れもない。昨夜パンちゃんが現れた方角の山中に向かって、再び大きく飛んだ。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 この世界の山は俺の元いた世界とは違い、殆どが人の手が介入していない原生林が広がっている。

 それでも薪であったり、山の恵みを分けてもらう為に通る山道は所々に見受けられた。

 実際問題、この広い山々の中から一匹の魔獣を見つけるのは殆ど不可能に近い。砂漠の中から一粒の米を見つけるようなものだからだ。

 それでも俺にはパンちゃんのお母さんを見つける唯一と言っていい手段を持っていた。


 臭いである。


 パンちゃんの体毛から臭ってきた、腐肉のような強烈な臭い。あれは間違いなく魔物化した母親に寄り添っていたために移ったものだろう。

 まるで麻薬探知犬にでもなったかのような気分だった。

 それでも上空で吹きつける強風のせいで探りにくいので、しらみ潰しに着地した箇所の臭いを調べていったのだが。

 少なくとも数日は難航するだろうと覚悟していた俺だったが、意外にもその日の夕刻前に俺は有力な情報を手に入れるチャンスが巡ってきた。


「あれは……山小屋……か?」


 ブオリ村から山二つほど越えた山中にポツンと立つ山小屋が見えたのだ。おそらく山仕事の中継点として利用されているのだろう。粗末ではあるが頑丈そうな小屋だ。

 上空の強風に流されながらも確かな腐臭が、あの山小屋から俺の鼻に飛び込んできていた。

 俺がその山小屋に向かって降りていくと予想以上異臭が、まだそれなりの高度であるにも関わらず鼻に付いた。


「なんだこれ。鼻が曲がりそうってのはこんな臭いを言うのかよ」


 現代社会ではまず嗅ぐ事のない強烈な異臭に、思わず羽で鼻を覆い隠す。

 昔の汲取り式トイレを清掃するバキュームカーが来た時の臭いより何倍も酷い。その臭いに、一刻も早くその場を離れたくなった俺だったが、有力な情報がこの山小屋にあるのは間違いなさそうだ。

 必死に鼻を押さえながら山小屋の扉を開いた……そこには。



 この世の地獄が、いや、この世界にあるはずがない程の地獄が広がっていた。


 人間の死体が転がっていた。

 いや正確に言えば、人間の死体だったモノが転がっていた。既に人間としての形は見る影もない。


 人肉が、内臓が。

 それぞれがバラバラに赤黒く変色しながらも、辛うじて原型を保っている。その合間に見えた固形物が漂白したかのような白さで目を引いた。


 人骨だ。


「げ……。うえっ……」


 そのあまりの惨状に、すでに消化されたと思っていた朝食が逆流しそうだった。

 ハラワタを食い散らかされ、食べ残しの腸だろうか? 細長いモノが部屋のあちこちに散乱しており、手足は既にない。

 部屋中が真っ赤なというより、黒く変色してしまった血が壁にもべったり張り付いている。唯一食べられずに放置されている血まみれの頭部が四つ、俺が小屋の扉を開けたことにより家の中を転がりだした。穴の開いた頭蓋骨の中からポロポロと小さな幼虫が零れ落ちる。……ウジムシだ。


(こいつ等、この服、この装備。村長の家にいた冒険者の4人組だ!!)


 俺は、そのあまりのスプラッタな光景に、口を開く事もできずに後ずさってしまった。

 山小屋から少し離れた所で周りを見回す。周りは人が分け入るのも困難なほどヤブが生い茂っており、奥まで見渡す事は不可能だ。


「なんだよ……これ」


 俺は言い様のない恐怖心に襲われた。

 映画でしか見た事のないような惨状と、何時あの光景を作り出した犯人が現れるか分からないと思うと身の毛がよだつ。


「うわあああああああああああああああああああああああああ!!!」


 元日本人の俺にはとても耐えられない状況に、気が付けば彼女の待つブオリ村に向かって一目散に逃げ帰っていた。



 ブオリ村に全速力で逃げ戻って来た俺は、彼女と別れた中央広場にドスンと大きな音をたてて着地した。いつもなら周りを気遣って静かに降りるのだが、そんな事も出来ないほどに気が動転している。


「コウキ様! お帰りなさいませ。お疲れでしょうし、直ぐに夕食にしましょう……か?」


 俺の着地音で気づいたであろう彼女は、水筒を片手に村長の家から出て来て労をねぎらいに来てくれたのだろう。

 が、俺の尋常じゃない様子に気付いたのか慌てて駆け寄って来る。

 何があったのかと片手を出してくれた彼女に、俺は竜の頭を擦りつけ人間の姿に戻っていた。

 人の温もりが恋しかったのだろう。思わず彼女の胸に飛び込んでしまう。


「あ、ア。アアア……ああああっ……」

「コウキ様?」


 事態が飲み込めない彼女だったが、俺の体が震えている事に気付いたのだろう。

 彼女の胸に飛び込んだ俺をやさしく抱き締めてくれた。

 あそことは違い、ここには人の温もりがある。これまで張り詰めていた緊張感が一気に霧散する。俺の意識は彼女の心配する顔を写しながら暗くなっていった。



 目を覚ますと、視界に木造家屋の天井を支える梁が見えた。

 耳には囲炉裏で弾ける薪の音。体には暖かい火の温もりが伝わってくる。

 どうやらここはブオリ村の村長の家らしい。おそらくは彼女が気を失った俺を運び込んでくれたのだろう。ゆっくりと上半身を起こした。

 傍らを見ると彼女が俺に寄り添うようにして眠っている。今まで看病してくれていたのだろう。その優しさが身に染みるようだった。

 俺が体を起こした振動で目が覚めたようで、目を擦りながら体を起こす彼女の姿にようやく帰ってきたんだという実感が沸いた。


「おはようございます。お腹が空いていらっしゃいますよね? 雑炊を温めてありますので……。ってきゃあああああ! お鍋を火に掛けたままでしたあああ!」


 見ると鍋の端から汁が吹きもれて囲炉裏の火にこぼれている。

 慌てて囲炉裏の火から雑炊の入った鍋を取り上げる彼女の動きに、俺は思わず笑ってしまった。


「笑うなんて酷いです……」


 ふてくされたような、その表情がなんとも愛しい。


 その手には暖かい雑炊がある。

 この場の暖かさに心まで癒されるようだ。

 そして、その温もりに涙が止まらなかった。


 俺はあの山小屋で見た光景を彼女に伝えた。

 山小屋に入ると、四人の冒険者が食い散らされていた事。

 俺の元いた世界は平和で、あんな光景なんて見る機会があるはずもない事。

 この世界の厳しさを痛感した事。


 彼女は俺の一言一句を静かに、そしてしっかりと聞いてくれた。

 そしてすべて聞き終えた上で俺を抱き締め、耳元で囁いてくれる。


「明日、コウキ様が見つけた山小屋に一緒に行きましょう。正直、私にとってもかなり衝撃的な現場だとは思います。平静でいられる自信なんてありません。ありませんが……」



 ――1人では無理でも、二人でなら乗り越えられますよ。きっと――



 この時の彼女の笑顔はきっと、生涯忘れないだろう。

 二人でなら大丈夫。彼女と二人でなら、なんとか乗り越えられるかもしれない。

 俺は自分を、そう思う事で奮い立たせた。


「そう、そうだな。正直、まだ怖いけど。もし、エダがあんな惨状になるかと思うと怖くて。怖くて堪らないけど…………………………。エダと一緒なら、君と一緒なら」


 泣き笑いだが、ようやく笑顔を見せる事ができた俺に。彼女が、少し嬉しそうに笑った。


「始めて呼んでくれましたね。エダって」


 確かに今までは「エダさん」って呼んでいた。もしくは名前を呼ばないような会話を無意識にしていたのだろう。


「ご、ごめん。つい……」


 咄嗟に謝罪してしまう俺に、彼女は顔を横に振る。


「うれしいんです。やっと信頼して頂けたかと思うと。これからはエダとお呼び下さい。コウキ様」


 囲炉裏の火は俺達の体をゆっくりと暖めてくれている。今日の火は昨日よりも一層気持ちよく、暖かく眠れる気がした。



 翌朝。

 なんとか平静を取り戻した俺は、もう一度あの惨劇の会った山小屋を目指すべくエダを背に乗せ飛び立つ。エダも完全装備で緊張した面持ちだ。

 なんだかんだ言って緊張しているのは彼女も一緒なのだ。


 そういえば……。


「俺だけ呼び捨てさせて、エダは[コウキ様]のままなの?」


 わざと軽い調子で訊ねると、固い顔から一変。百面相をし始める

 俺の言葉に、エダは慌てて何やら「コウキ様は竜神様ですから呼び捨てなんて恐れ多い……」などと必死に言い訳をしていたが、俺はそれを許すわけがなかった。

 一悶着の末、二人だけの時だけは[コウキ]と呼んでもらえる事になった。こちらだけ呼び捨てでは気分が良くない。


「その代わり、公の場や他の方がいらっしゃる時は様をつけますからね!」

「はいはい」


 お陰で気分が軽くなった気がする。本当に、この転生した世界で彼女に出会えたのは幸運だったのだ。

 変な所で拗ねるエダを背に乗せ、俺は微かに笑いながら大空に向かって跳び上がった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 その後、山小屋に到着した俺達が見たのは俺が昨日見た光景とは別のものだった。

 確かに部屋の壁には血の跡が生々しく残ってはいたが、四人の冒険者の死体が綺麗に消え失せていたのだ。

 あの部屋中に散らばったハラワタも、腹の中が丸見えになっていた上半身も、四人分丸まる残っていた頭部も。その一切が消えていた。

 念のため数日の間、ブオリ村と山小屋を往復して様子を見たが魔物がやって来た痕跡を見つける事は遂にできなかった。

 ルオホ村に戻った俺達は村長さん達に事情を説明すると、確かに山で狩りをする為に建てた山小屋である事が判明した。

 しかし凄惨な事件があった小屋を今後使用することはできないとの事で、安全が確保され次第取壊しとなった。

 エダの話ではしばらくの間、王都から派遣される騎士が村に配備されるらしい。

 村の人々は騎士の到着と同時に帰還する事になりそうだとも。


 完全には事件は解決できなかった事は悔やまれるが、パンちゃんを何時までも預けておく訳にもいかない。

 今後は王都の騎士に任務を託す事にして、俺達と一匹はユミルの街への帰途についた。



 この事件は、今まで楽観的だった俺の異世界探訪が紛れも無い現実なのだと、強烈に印象付ける切欠となった。

 日本とは違う、人と魔物が命をかけて争う世界。


 俺はこの世界で、生き抜くしかない。


 生き抜くしかないのだ。

処女作とはいえ、遅筆でどうしようもないです(汗

ストックがなくなったら、どのくらいの間隔で投稿できるんだろう?


評価、感想頂けましたらテンション上がって早くなるかもしれません(笑)

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