0.プロローグ
ひさしぶりに書きました!初めてのVRMMOなので少し不安ですが、反応があればまた続きを書きたいです。
また今回は現実の要素が多目にしていますが、基本的に現実の話とゲームの話を織り混ぜて書く予定です。
夜明けを伝える鶏達の鳴き声が市街地に響く頃、紫色の空には一つの影が飛んでいた。それは鈍く輝く銀色の鱗を鎧の如く全身に生やし、トカゲに似た体格ではあるがそのサイズは桁違いに大きい。前肢には蝙蝠に似た翼を持ち、長い尾はレイピアの先のように鋭い。影は陽が少しずつ昇るにつれ、その姿をはっきりと現していく。
━━━「ドラゴン」だ。正確には飛竜と呼ばれている種だ。もちろん現実にいるのではない。ゲームの中で敵モンスターとして存在、設定されたCPUだ。ワイバーンは太陽の光を全身に浴びながら、翼を雄々しく翻して堂々と飛んでいる。その姿はまさに空を蹂躙する賊であった。
だが、その賊の背には何か小さなものが付いている。━━少年だ。彼が背に跨がってワイバーンを操っていたのだ。彼はその手に絆を握りながらゆっくりと首に近付き、慣れた手つきで腰に付けた袋から肉をワイバーンに与えると、姿勢を傾けて円を描くように旋回しはじめた。
これは彼が毎日しているモンスターの訓練である。彼の名前はクロメ。このVRMMO「セイクリッド・エアリスⅢ」にて猫型獣人族の高ランカーであり、スキルが高い盗賊兼テイマーとして熟練プレイヤー達に重宝され、名の知られた人物であった。
やがて陽は紫だった空は金色に染まり始めて、海に一筋の光の橋を掛ける。それを合図にして彼は訓練を終えると、ワイバーンを上昇させて雲の上へと向かった。そして太陽が完全に現れるのをゆっくりと待つ。現実では決して見られないであろう景色をゲームで見る事が彼の日課であり、彼にとっての一日の始まりであった。クロメはスゥ……ハァ……と深呼吸をすると、口の周りに手を当てて朝日に向かって力強く叫んだ。
「おはようございまぁぁぁぁぁす!!」
太陽への挨拶を言い終えると、彼は満足げな表情を浮かべ、ログアウトするべく地上へと降りた。
━━ピピピッと耳に残る不快な電子音が部屋中に聞こえはじめる。僕は左手でゴーグル型ヘッドギアを外して、右手を伸ばして時計のアラームを止めた。今の時間は6:45………少し寝すぎたかもしれない。すぐに布団から抜け出すと、急いで洗面台に向かって顔を洗い、寝癖を直して、急いでキッチンで朝食の準備をする。
僕の家は僕と兄さんはいるけど、両親が海外でお仕事をしているからいないんだ。だから朝食は基本的に僕か兄さんが作る。今日は僕が作る日なんだけど……一体何を作れば良いのかな。焼き魚か三色丼にでもしようかな。
冷蔵庫を空けて見てみると卵やハムはあるのだけど、ネギの千切り1パックくらいしか野菜があまりない。多分野菜が嫌いな兄さんを一人だけで買い物に行かせているせいかな。今度からは僕も行ってあげないと駄目みたいだね。
僕は冷蔵庫の中から鶏の挽き肉、玉子、ネギの千切りを取り出すと、棚から調味料を選んで三色丼を作りはじめた。
━━7:12、出来上がった三色丼をテーブルの上に並べていると、大きな欠伸をしながら兄さんが起きてきた。
「おはよう悠斗」
「おはよう兄さん、とても眠そうだね。食べる前に顔を洗ったら?」
「うん、分かった。……ふぁー……ふぅ」
……最近の兄さんはいつも眠そうな感じ。仕事が忙しくなってきて疲れてるのかな?
「兄さん、ちょっといいかな?」
「あぁ?どうしたんだ」
「その……さ、兄さん最近ずっと疲れた顔してるよね。お仕事が忙しいの?」
「え、俺疲れた顔してたか?」
「うん、心配するくらい」
そう答えると、兄さんは恥ずかしそうに頭を掻きながら口を開いた。
「……あぁ、この前店の宣伝代わりにインスタに俺と拓也のツーショットを上げたら、急に女性の客が増えてきてな。まだ使えない下の連中の教育もあるしで結構大変な事になってんだ」
兄さんのお仕事は床屋さん………じゃなくて美容師さん。どっちも同じようなモノだと思うんだけど、何が違うのかな?
「ふふふ。兄さんと拓也さんってイケメンだもんね」
「そうか?……まぁ、嬉しいっちゃあ嬉しいけど、もうめんどくさいからインスタはやらねぇ。……そういや、今日から学校だよな。夏休みも終わったし、ゲームは少なくしてちゃんと勉強しろよ」
そう言うと兄さんは空っぽになった丼ぶりに「ごちそうさま」と手を合わせて、また自分の部屋に戻っていった。……さて、僕も食べ終わったら学校に行く準備をしないとね。
━━7:45。ランドセルを背負って家を出た僕は、登校班の集合場所である近くの公園に向かった。僕達の学校はここから歩いて20分くらいの場所にあって、そこに行くまでは登校班の皆と一緒に行くんだ。最近は変な人が多いらしいからね。
「おはようございます。堺さん」
「おはよう悠斗君」
堺さんはいつも登校班に付き添ってくれる近所のお姉さん。時々家に来てご飯を作ってくれる優しい人だ。
「悠斗君、夏休みの宿題は終わったの?」
「はい。大体3日で終わらせました」
「立派ねぇ。うちの弟は夏休み中ずっと遊んでばっかりだったから、昨日は家族全員でやらされたわ」
「あははは、大変でしたね」
「大変よ。でも終わったから良かったわ。悠斗君もお兄さんには迷惑をかけちゃダメよ?」
「分かってますよ!……さて皆も集まったみたいですし、そろそろ学校に行きましょうか」
━━8:23。職員室から学級日誌を持って教室に行くと、教室の中は生徒達の声が響いていた。まだ夏休み中のテンションが抜けきってないみたいだね。そう考えながら僕は教壇に日誌を置くと、そのまま席に座ってランドセルの中から教科書と宿題を取り出す。その最中、後ろの席の女の子が話かけてきた。
「悠斗君おはよう!」
「鈴子ちゃん、おはよう。元気だった?」
「うん、風邪もひかなかった!あのね、今日から転校生が来るんだって!」
「転校生?」
会話を止めて教室中の声に耳をすませると、声に転校生というワードが多く出ているのに気づいた。どうやら皆、その転校生の話をしているみたいだ。ざっと単語を集めると、その転校生は「女の子」で「外国人」で「金髪」らしい。
「外国の女の子なんて初めて!悠斗君も楽しみだよね?」
「うん。一体どんな子なんだろう」
そう思いながら時計を見ると長針は25分の方へと動いていた。それと同時に生徒達の声を遮るようにチャイムが鳴り始め、喋っていた生徒達は大人しく自分の席へと戻る。教室のドアが開いて藤山先生が入ってきた。普段は山口先生っていう若い男の人なんだけどどうしたんだろう。
「皆さん、おはようございます」
「「「おはようございます!!」」」
「皆さん元気が良いですね。今日は担任の山口先生が風邪で休んでいるので、私が代わりに来ました」
なんだ風邪だったのか。あの先生好きだから何かあったのかって心配しちゃったよ。そう思っていると後ろにいた鈴子ちゃんが手を上げて喋りだした。
「先生、転校生はどこにいるんですか?」
「あら、やっぱり知っていましたか。では説明することもないでしょう。セエレさん、入ってください」
教室中の視線がドアへと集まる。そしてドアをゆっくりと開けて、例の転校生が入ってきた。━━その姿を見た瞬間、僕は胸に大きな衝撃を受けたような感じがした。━━いや、実際に受けた。……多分一目惚れって奴だ。
彼女は俯きながら教壇の横に立つと、蚊の鳴くような小さな声で自分の名前を言い始めた。
「セエレ・リシャール……です。……よろしくお願いします」
その姿はまるでゴシックドールが人と同じ大きさになったかのようだった。髪の色は金髪……確かブロンドっていうのかな。薄い綺麗な金色で、目は琥珀の天然石を埋め込んだように輝いて……ない。ハイライトがなくて……なんか不安とか恐怖とかが滲み出ている感じ。来たばかりだからかな?
「セエレさんは遠いフランスという国から来ました。お父さんが日本人だということで、少しだけなら日本語も話せるそうなので、皆さんも積極的にお話ししてあげてくださいね」
「「「はーい」」」
「セエレさんの席は………あぁ、悠斗君の隣ですね。悠斗君、彼女の事は任せましたよ」
……ヘァ!?僕の隣だって!?そ、そのなんていうか、僕はまだ心の準備が出来てなくて……でも、ここでちゃんと答えないと、男らしくないよね。
そう考えた僕は席を勢いよく立つと、彼女に向かって
「は、はい!分かりました。彼女は僕が守ります!」
僕がそう言い放つと、教室中から笑い声が聞こえてきた。な、何言っているんだ僕は。これじゃあまるで……その、こ、告白みたいじゃん。
しかしセエレさんは表情をまったく変えずに、まるで何もなかっかの如く僕の隣に座った。言った方の僕は恥ずかしさと嫌われたかもしれないという恐怖で汗が止まらなかったのに。
俯いて赤くなった顔を隠していると、隣に座っていたセエレさんがこちらを向いて囁くように話しかけてきた。
「悠斗、君………よろしく」
「あ、あぁ!セエレさん、よ、よろしくお願いいたします!」
何故か敬語で答えてしまった。さっき言った事が頭から離れない。だって冷静になって考えてみてよ。あれじゃあ、どう見ても変な奴じゃん。いや、今の対応もそうだけど、セエレさんにそう思われたくない。
「セ、セエレさん。さっきの事、だけど、突然、変なことを言ってごめんね」
「……変なこと?私、何とも思っていないから」
な、何とも思ってないぃ?……あぁ、駄目だぁ。絶対嫌われたわぁ僕。
僕は机に頭をくっ付けながら、朝の会が終わるチャイムが鳴るまでひたすら待っていた。
━━でもこの時の僕は知らなかった。彼女との出会いが、僕の運命を大きく変える事になるなんて。
次回からは「セイクリッド・エアリス」の解説と主人公のゲームの中の生活を書く予定です。
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