王のお目覚め。
世は弱肉強食の世界。
この世界には“魔王”と呼ばれる7人の王様がおりました。
・傲慢の王
・嫉妬の王
・憤怒の王
・怠惰の王
・強欲の王
・色欲の王
そして、暴食の王
暴食の王を除く6人の魔王は領土拡張や飢饉、権力など...何かある度戦争をしておりました。
それに困った人類は“勇者”を送り込み、魔王の国を破壊して行ったのです。
その勇者は“破滅の勇者”と呼ばれ、人間社会にまで手を出し始めました。
それを自らの命を犠牲にして止め、さらに魔王たちの戦争を止めたのも
暴食の王だったと言われています。
★
私は普通の家に生まれ、普通に育って、平均的な成績で.....唯一の特徴と言えば無駄に運動神経がよかったことか。
そんな私、秋野 志那は普通の人だった。
なぜ“だった”なのかと言うと、今は違う。
これが、異世界転生ってやつなのか…と感心している最中である。
志那はもともと感情を表に出ない、所謂ポーカーフェイスってやつ。
志那本人が望んだ訳では無いが、自然とそうなっていたので仕方がないと割り切っている。
何がどうやら、子どもの姿に戻っていた。髪色は違うけど。鎖骨までの髪の長さは同じだった。
見たところ、10歳未満な感じ。
落ちていたバスタオル(?)しか着用しておらず、足は素足。
芝生の上に寝ていたので外傷は見られない...かな?
(ずっとこんなとこにいても仕方ないか…。)
と、志那は辺りを歩き出す。
と言っても周りは木に囲まれていて、どこを目指していいかも分からなかった。
(はて、困ったものね。)
遭難した時に1番怖いのは食力の枯渇、つまりは餓死なのだが、お腹はすいていなかったのが幸いした。
思考能力も正常。内傷も無さそうである。
《主様は『暴食の王』により空腹感及び、満腹感は感じません。》
おっと、貴方はどちら様で?
《私は、主様の手助けを致すスキル、『天才的頭脳』であります。》
なるほど。
ところで『暴食の王』ですって?
何かしらそれ。
《この世界における最恐と称される魔王達、七柱の一柱が『暴食の王』、つまり主様です。》
おぉ、答えてくれるのか。
つまり私はこの世界の魔王に生まれてしまった ということ?
《答えはYes。お察しの通りでございます。》
なんかめんどくさそうね。
まぁ、とりあえず“王”なら好き勝手できそう。
そう思い、志那は歩き出す。
王なら、男っぽい方が威厳があるわよね。
“男口調で生きていこう”と思った志那であった。
最初に見かけたのは、洞窟だった。
志那には恐怖心というのはあまりなく、むしろ好奇心の塊だった。
それが吉と出るか凶と出るか は、本人にもわからないのである。
(『暴食の王』と言われても、あまり分からないんだよな。)
《はい。それは私が補助いたします。》
あれ、そうなの。それは大助かり。
なんて言うか、魔法とかも使えたりするのか?
《はい、主様。答えはYesです。》
小さい頃憧れていた魔法が使えるとは、素晴らしい。
と、志那は感心していた。
『天才的頭脳』の手助けが貰えるのなら安心。
志那はすでに『天才的頭脳』に信頼を寄せていた。
じゃあ“あれ”も倒せるのか?
志那の言う“あれ”とは、志那の少し先を動く大きなコウモリである。
《答えはYes。その後に『暴食の王』で捕食しスキルを奪うことも可能です。》
有能ね。『暴食の王』も。
魔法はどう使えばいいのかしら。
蛇口をひねる感覚など聞くけど...?
《頭の中でイメージして頂ければ補助いたします。》
うん。有能すぎる。
イメージなら得意よ。
「動きを止めろ。『束縛樹』。」
すると突如地面から6本の茨の蔓がはえ、意思があるかのようにコウモリを捕らえる。
コウモリは暴れて脱出を試みるが、叶わず...
「喰らえ。『暴食の王』。」
右手をかざしただけでコウモリは跡形もなく、骨も残らず消えた。
《大きなコウモリの消滅を確認。新たなスキル『猛毒』と『飛行能力』、『暗視』を獲得しました。》
やだ素晴らしい。これには俺も興奮する。
とまぁ、アドレナリンのおかげで魔物達を次々倒していき洞窟の最深部にまでたどり着いた。
しかも無傷で。
ここまでに倒した、角兎の持つ『危機感地』と『危機回避』、『超跳躍』を、巨大猛毒蛇の『毒無効』と『気配殺し』、『毒生産』を手に入れた。
次に待つのは、『天才的頭脳』によると洞窟主らしい。
恐怖心は抱いてなかった。
しかし自分の能力を過信している訳でもなかった。
純粋な好奇心で、志那は進んでいた。
「貴様が、我の縄張りを荒らしに来た者か…。」
おぉ、日本語が使えるのか。
《答えは否。『全翻訳』というスキルを獲得しておきました。》
あ、『天才的頭脳』が賢かっただけね。
「興味本位だ。」
「興味で、我らの縄張りを潰そうと言うのか、貴様...」
怒りをあらわにし始めた洞窟主、黒色の九尾狐はその本質をあらわす。
柴犬程度の大きさだったのが、今じゃ4メートルを超している。
それでも恐怖心を抱かない志那。
これぞ本当の戦闘狂なのではないか、と思う。
「潰してやろうぞ。後悔するがよい!!」
勝負は決まっていた。
志那は苦戦を強いられることなく、淡々と魔法を放った。
キュウビも負けじと魔法を放ち、爪を立てたり、噛みちぎろうとする。
しかしそれは、志那の持ち合わせた“無駄に特化した運動神経”によってかわされた。
角兎から奪った『超跳躍』のスキルも併用。
すべてひらりひらりと華麗にかわされていく。
「もう飽きたんだわ。」
志那はかわしていた動きを止めた。
「捕らえろ。『束縛樹』。
よく燃え、焼き殺せ。『炎柱』。」
好奇心の消えた志那の目は無感情そのものだった。
キュウビは運良くそれに気づけた。
「お待ちください。」
魔法発動の0.1秒前。志那は動きを止めた。
「我は降伏致します。貴方様の強さ、身をもって体感いたしました。どうか我を貴方様の配下へと加えていただきたい。」
キュウビは生存本能により降伏を唱えた。
もし生き延びれたら、機会を狙って殺そうと思って。
「了解したわ。私の配下として認めましょう。
俺の名はシュリム。シュリム・グラよ。貴方は?」
志那は前々から名乗る時の名前を考えていた。
それをどこで言おうかと、この時を待っていたのだった。
「シュリム様。ありがたきお言葉にございます。我に名などございません。」
「名前が無いのは不便だな。今日から貴方はエンノと名乗れ。」
キュウビことエンノは名前をつけられたことに驚いた。
それは魔物に力を与えること、つまり進化させることに等しい行為だった。
そのままエンノは進化をした。黒く細い角が生え、九尾狐から鬼九尾狐となった。
名無しから名持ちへの進化は変異的であり通常進化とは異なるものであった。
それを、してくれたシュリムにエンノは先程まで抱いていた反抗心を捨てた。
このお方に、シュリム様について行こう と決めたのであった。
これが『暴食の王』の国、グランデスで語られる最初の物語であり、のちの“王の番犬”の誕生であるのは知る由もない。
★
その後、エンノに乗り(強制的に乗せられ)洞窟を出た。
森の中をただ淡々と無心で進んでいた。
そんな時に思わぬ者に声をかけられた。
そこに居たのは緑の特徴的な顔立ちをした人とは思えない生物だった。
「貴方様の進む先には我らの村がございます。故に、恐れ多いながらも道を変更して頂きたく思う所存であります!」
何故、それを俺に?
《はい。それは貴方様から漏れ出ている『魔圧』こと、『魔王の威圧』の影響かと。》
はぁ、なるほど。
村を潰されると思ったんか。
「そうね。貴方達の村に案内してくれるか?もちろん、危害は加えないと約束する。」
図々しいか?
「その約束があるのでしたら、ご案内いたします。」
案外簡単な。
後で種族を問いてみたところ“ゴブリン”という種族らしい。
元の世界でも有名だったから良かったものの、想像すらできない奴だったらどうしようかと思ったよ。
「エンノ、暴れんな。」
先程、我の縄張りで暴れていたのは誰ですか と問いたくなったのはエンノだけの秘密である。
よからぬ事を言って、怒らせるのは良くない。
「シュリム様、先程から漏れ出ている威圧は抑え込んだ方がよろしいかと。」
シュリム様はキョトンとして
「あぁ、それもそうか。...うーん、こうか?」
先程までの威圧がほんの些細なものにまで抑え込まれた。
さすが我が主だ。とエンノが感心したのは言うまでもあるまい。
「流石でございます。」
「『暴食の王』で食い続け、『胃袋』なるものに収納していけば問題ない。」
エンノは驚愕した。『暴食の王』だと?
「シュリム様、『暴食の王』と申しました?」
「あぁ、そうらしい。」
シュリムは自然体で答えた。シュリムからすると何も考えずの発言であった。
しかし、エンノの受け取り方は違った。
(王であることを隠し、我と平等に戦って下さるとは、何たる幸運。そして、王であることをなんとも思わないお心の大きさ...素晴らしい主だ...。)
と感心していたのはシュリムの知らない話。
エンノが感動に浸っている中、村へ案内しているゴブリンは気が気ではなかった。
(このお方が『暴食の王』...!...決して怒らせてはいけない...。)
「話すことをお許しください。」
シュリムへ向けて、ゴブリンが発した。
エンノはギロりと睨みつけるが、シュリムはそれを止めた。
「そんなこと言わずとも、話せ。」
ゴブリンは恐縮する。
たとえ本人から許可を頂こうとも、話し方を変えてご機嫌を崩すわけにはいかない。
「ご配慮感謝致します...。私らゴブリンはただ今危機に追われております故、おもてなしがあまり出来ません。」
シュリムはまたしてもキョトンとした。
「そんなの気にしない。俺はお前達の住む村に興味があるだけだ。」
「寛大なお心に感謝致します。」
ゴブリンは頭を下げた。
.......
.....
...
しばし歩いて、ようやくついた。
日本で言う弥生時代と言ったような感じであった。
木造で大きな葉っぱの屋根、娯楽などはもちろんなく、当たり前だがトイレやお風呂といったものもなかった。
「案内してくれてありがとう。お前名前は?」
「滅相もございません。名前などこの村にいるもの皆持っておりません。」
エンノに名前をつけた時すごい脱力感があったが、今となってはそれもなくなった。
《はい。それは名前をつける際に進化のために魔力が持っていかれるからです。魔力が尽きれば死に至りますが、主様には『超速回復』と『超速無限魔力生産』というスキルを獲得しておきました。》
との事。
そう言うのは先に言ってほしいね。
と思ったのは無理もあるまい。
とりあえず、名前つけで死ぬことは私の場合ほとんどないと言っていいらしい。
「お前は案内してくれたから“ガイド”という名前をやる。」
そう言った途端、ガイドはみるみる成長して身長110cm程だったのが180cmを超えるマッチョとなったのだ。
ガイドは感動し、すぐさま跪いた。
「名前を下さり、ありがとうございます。私はこの村の長、ガイド。貴方様にお仕えしたく思う所存であります。」
おい、長よ。そんなんでいいのかい。
「それには及ばん。村の長のお前だけが思っても、村の民が思わなければいけない。この村の民全てが本心から俺の配下となることを望むなら、それは受け入れよう。」
シュリムは決して上から目線に言っている訳では無い。
エンノという配下ができたことにより堂々とした態度に磨きがかかっただけである。
「エンノ、村の者を怖がらせんな。小さくなれるか?」
「お安い御用です。」
そう言うと、エンノは柴犬程度にまで小さくなった。
「さて、村の皆様にご挨拶と行くか。」
そうして、シュリムのご挨拶が始まったのである。
.....
ところで『天才的頭脳』さんよ。
俺の性別はどっちだい?
《はい。主様には生殖機能がないので無性別です。『暴食の王』を交代する場合には配下のものをお選びください。》
あ、無性別なんですね。
通りでトイレとか感じないわけね。
《正解です。》
□
でかい気配が生まれた。
それを察知したのは、傲慢の王 ユヴァ・スピルビアである。
ユヴァはナルシストという言葉がぴったりな男である。
見た目は美しいが性格に難がある。
配下の者もご機嫌取りで必死であった。
「新たな魔王...そして、最後の魔王が生まれたようだね...。」
「はっ!すぐに確認して参ります!」
配下の者がすぐに飛び出していった。
「さて、どんな王になるか...。」
ユヴァの“スピルビア連邦”の王室でその言葉が静かに響いた。




