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加齢なる戦士たち  作者: どせい
76/133

76話 〝呪い〟対〝魔法〟

 〝魔導士〟対〝異人〟の特別試合が終わった後のこと、


『何はともあれ… ご協力感謝します』


 〝異人〟が器用に左足一本でひょいっと起き上がり、

 ドロマとフラムへ目礼(もくれい)するが…


「おー んじゃ約束通り〝砂船〟貰ってくぞ♪」

「〝黒鉄(こくてつ)〟製のアレもなっ♪」


 2人はしてもいない約束を図々しく強要してくる、


『約束などしておりませんよ…

 これで貴女(あなた)達の罰則は終わりですが、三回戦に勝ち上がるフラム様には

 規定通りハンデが付きますので、よろしいですね?』


 〝異人〟の方も淡々(たんたん)とした言い回しで話を切り上げようとしており、

 試合を終えた今、この2人とはあまり関わりたくないといったトコロだろう、


「あーそっか… まー〝2人がかり〟くらいなら別にいいけど」


 2対1でもまるで負けるとは思っていない辺りが彼女らしい、

 

 その横ではドロマがいち早く退場しようとしていた。


「じゃっ 私はとっとと退散するか… 

 〝異人〟様の負け姿を見てだいぶ気が晴れたからな♪」



 激しい嵐は木々をより深く根付かせることもある、



 試合で拳を交えた選手たちの間に熱い友情が芽生えることは

 珍しくないが、〝異人〟と〝魔導士〟の間に横たわる(みぞ)を埋めるには足りないようだ。


 すると、ドロマが退場しようとする足をピタリと止めて振り返る。


「あ、そうだ! おい、キサマら〝巨人〟に聞きたいことがある」


 その昔、山のようなゴーレムが生み出された時、ドロマ達〝魔導士〟はそのゴーレムを

 〝巨人〟と呼び、協力者である〝キノコ族〟は〝山ゴーレム〟と呼んでいた。


 両種族の名づけに不満があったかは分からないが、現在、彼らが

 名乗っているのは、そのどちらの名称でもなかった。


『〝異人〟と呼んでくださいと〝前にも〟言ったでしょう』


 〝異人〟とは、その山のようなゴーレムが姿を変えて街にとけ込む(さい)

 (みずか)ら名乗った種族名―― つまり勝手に作り上げた種族なのだ。


 ちなみにドロマ達を戦ったこの〝異人〟は、以前〝白黒ゴーレム〟と戦った後に

 出会った〝異人〟と同じ個体であった。



『――で、何でしょうか?』


「〝雷槌(らいつい)の丘〟に封印しているあの化け物についてだ」


 ドロマのクチからその名が出た途端(とたん)、場の空気が張り詰める、


 〝雷槌の丘〟とは、トシたちと魔女たちが〝雷ゴーレム〟の素材を得るため、

 何度も〝雷掴み〟に挑戦した場所であり、その下に恐ろしい存在が眠っている事は

 ドロマ班の中ではトシのみに打ち明かされていた。



「〝最後の大仕事〟に向けて、残っている懸案(けんあん)はあれくらいだろ?」


『えぇ、我々の方なら… 来年の〝色武祭〟くらいには準備が整う、

 と、いった進捗具合(しんちょくぐあい)ですが、そちらは?』


「まぁ… 似たようなものだ」


 ドロマと〝異人〟が話し合っている横でガツンッと拳を合わせる音が鳴る。


「心配すんなっ 私に任せとけっ!

 前回は不覚を取ったけど… 更にパワーアップした今の私なら――」


 鼻息を荒げるフラムだったが


「いや、アンタは〝別の役割〟があるでしょ」


『貴女が大怪我したら今までの全てが泡と消えるのですよ、

 どれだけ重要な役割を担っているのかをしっかり自覚してください』


 と、ドロマと〝異人〟に言葉で抑えられ、ぐむぅ…っと言葉を詰まらせてしまう、

 そんな彼女を余所(よそ)に、ドロマがクチ先を〝異人〟へと戻した。


「とにかく、あの化け物に対してキサマら〝巨人〟が今どのような対策を

 考えているのかを聞いているのだ、永年(ながねん)雷に打たれていれば性能も

 落ちるだろうという考えであったが、どこまで信用してよいか…」


『その予想を立てたのは貴女達でしたよね?』


「う、うるさいっ! こっちはちゃんと対策を練っているわ!

 だからそちらの対策はどんなものかと――」


「あの~…御三方(おさんかた)、時間も押してますので、

 そろそろご退場願えますかね~」


 進行役に(うなが)された3人がようやく場所を(ゆず)ると、

 遅れを取り戻すかのように運営の者たちが本戦再会の準備を整えてゆく、


 また、〝異人〟とフラムの壮絶なぶつかり合いによって荒れ果てていた地面は

 ドロマが〝溶け込んだ〟おかげで全て均一に流動し、むしろ試合の前よりも

 綺麗に整地されていた。


 本人にそのつもりはないだろうが、最後の最後で良い仕事をしたと言える。



「とんでもない試合だったな」

「〝異人〟に勝っちまうなんて…あの2人、魔女だとしても強すぎないか?」

「俺…あのフラムっていうのと次の試合で当たるんだけど…」

「…ドンマイ」


 興奮冷めやらぬといった感じの客たちの後ろでは、選手たちが次々と

 控室に戻っていく、いきなり決勝戦を超えるような試合を見せられたせいか、

 その各々(おのおの)がやりづらそうな表情を抱えていた――



「レナンはやっぱり棄権するのか?」


「えぇ、アイツ(ガナナ)との試合でもう全部出し切っちゃったわ、

 さっき回復魔法を受けてきたけど… ちょっと無理ね」


「そうか…」


「ところでカナンならアレ(フラム)とどう戦う?」


「あ~… 戦いになればいいんだけど…」


「そうね…」


 いつも陽気で前向きなカナンですら思わず弱音を吐いてしまう、


 フラム・フロガの参戦はそれほど他の選手たちにとって

 衝撃でもあった、彼女とどうにか戦える選手は片手で収まる数しかおらず、

 その他の選手は、あんなの反則だろ、と頭を悩ませていたのだ、


 もちろんトシも、


「ぬぅ…」


 だが、どんなに悩んでいようと時間は止まってくれない、


 控室へと戻り、(うな)りながら思案に(ふけ)っている間にも2回戦の

 全試合が終わり、またすぐにトシの出番が回ってきてしまったのだ、


 フラム対策の答えが出ないまま…




 色武祭 3回戦〝第5試合〟


 ・人間族「トシ」 対 人間族「パシオ」




 人間族同士が3回戦で戦うこと自体めずらしかったためか、

 客たちの関心も通常以上に引いていた。


 トシとしても、予選では〝鬼族〟とはいえ子供、1回戦では女性、

 2回戦ではけっこうな年上を相手にしてきた事もあり、同年代で

 同種族の男が対戦相手というのは新鮮であった。


 背丈ではトシの方がやや(まさ)っているがそこまでの体格差はなく、

 ()草色(くさいろ)の道着から伸びるパシオの手足は厚い筋肉に覆われ、

 大小さまざまな傷跡が走っており、精悍(せいかん)な風貌の持ち主である。


 だがトシも気圧されてはいない、


 ドロマたち怪物の戦いを見たばかりというのもあるかもしれないが、

 今トシが立っているのは〝色武祭〟の3回戦、相手が強い事など

 当たり前のステージなのだ、この程度は動揺にも値しないだろう。


「初出場で3回戦まで来たか… やるなアンタ」

「おぉ、まぁな」


 3回戦からは闘技場の広さ全てを利用した試合となり、

 客席に突っ込んだりしない限り〝場外負け〟する事も無い。


 対戦者の2人は、開始前に闘技場の中央で軽く握手を交わすため、

 ここで多少言葉を交わす機会があるのだ。



 パシオが悪手と共に力強い視線を向けてくるのに対し、

 トシの目はどこか曇ったままであった。


「ん? どうした、怪我でもしてんのか?」


 この時、トシは深く考えずこう答えてしまう。


「…何でもない、しかしお互い大変な事になったな」


「大変な事?」


「あぁ、次の試合はあの〝異人〟に勝つような相手だなんて…」


 この試合に集中しなければと自分に言い聞かせていたトシだったが、

 同年代に話しかけられたことで気が緩んだのか、

 つい気弱な言葉を漏らしてしまったのだ。



「…怖いのか」


 パシオの目が鋭く尖り、低くなった声色が圧力をかけてくる。


「あ、いや…」


 怖くない―― と、即答できなかったのは本当に怖がっていた

 というよりは、彼がこういった〝駆け引き〟に慣れていないせいであった。 


 トシは今まで物言わぬゴーレムとばかり戦ってきた男だ、


 喜怒哀楽のある対戦者とのこういったやり取りに(うと)いのは当然であり、

 慣れた者なら例え本当に怖かったとしても、怖くない! と、言葉にする事で

 自分を奮い立たせるくらいはしただろう。


 パシオも、もしかしたらそんな反応を期待していたのかもしれないが、

 口ごもるトシを見て更に苛立ちを募らせたようで――


「怖いならさっさと帰んな」


 そう言い捨ててから(きびす)を返し、試合開始の位置まで戻っていく。


 トシの失言からは次の試合ばかりに意識が集中し、パシオなど眼中にない

 かのような印象も受けるが、彼が怒ったのはそこではない、


 トシがそうであるように、パシオもまた同年代の同族と〝色武祭〟で

 戦うことが珍しく、しかも初出場で3回戦まで勝ち進んできたという事もあり

 トシに注目していたのだ―― だからこそ覇気のない発言に腹が立った。




「いくぞ、腰抜けッ!」


 試合が始まり、観客全員の視線が両者に注がれるなか、

 パシオがトシに向かって一直線に駆け出し、こう叫んだ。


「〝血肉の廻牙(かいが)〟ッ!」


 彼の唱えたそれは所謂(いわゆる)〝肉体強化魔法〟、

 

 肉体組織が多少壊れるという反動を(ともな)うが、迫撃能力は

 飛躍的に向上するというもの。


 元々の肉体が鍛え込まれているのもあるだろうが、

 強化されたパシオはトシと結ぶ|僅≪わず≫かな距離の間にぐんぐん加速し、

 腑抜(ふぬ)けた同族へと鋭い牙を立てていく。


「オオォォッッ!!」


 一本鎗の性格に直線的だが凄まじい(いきお)いを持つ攻撃、


 トシの数少ない対人戦の中で彼とよく似た人物が浮上する… 


 ガナナだ、そして恐らく有効な手段も――



「――コイツ!」


 パシオがトシをすり抜けた、客席からはそう見えるほど、

 トシは紙一重で攻撃を躱したのだ。


「チィッ」


 身をひるがえし、パシオが武器を真横に構え直す。


 彼の武器は片手剣。


 闘技場によく似合うシンプルな武器だ。


 剣身は片手剣に相応(ふさわ)しい長さだが身幅が広く重さも十分、

 そんなものを軽々と巧みに振り回すパシオが、今度は横向きの

 斬撃をトシへと放った。


「くそッ」


 が、半歩引いた身にはかすりもしない。


 そのまま二撃、三撃と続けても結果は同じくトシには当たらない。


 ドロマ班の者たちはトシが〝雷手形成(らいしゅけいせい)〟を使っていることに気付いたが、

 そんな技すら知らない他の者たちは、見事な見切りだ、と、驚いていた。


 すると、避け続けていたトシが攻めに転じた。


「――グゥッ!」


 トシの斧がパシオに直撃し、骨のきしむ嫌な音が突き抜ける。


 試合用の斧は刃が潰されているぶん内部が破壊される十分な凶器、


 トシには最短で試合を終わらせたい理由が(いく)つかあり、

 今の一撃も当然一撃決着を狙った攻撃であったが――


「……ってぇなッ」


 崩れかけた身を瞬時に立て直したパシオは、トシの周囲を走り始める。


 身も心もタフな戦士だが、速さで撹乱(かくらん)しようとするその戦法も

 ガナナで経験済みであり、速度だけで言えば彼はガナナより数段劣っていた。 

 

 それでも油断はできない。


 今のトシは〝雷手形成〟を解除している、


 この技は長時間発動していられるものではないし、下手に連発すれば一気に

 体力が底をついてしまう、(ゆえ)に使うタイミングを見極める事が重要なのだ。


「次で… 決める」

 

 トシが深く息を吸い込み、意識を研ぎ澄ます、


 目指すは無傷での勝利。


 贅沢な目標なのは分かっている、しかし傷を負うということは

 治療してくれるジャックの加齢にも繋がるのだ、

 

 自分とジャック、どうせどちらかが老化するのなら〝雷手形成〟に頼り、

 最速、最短で終わらせるのが最良である、と、



 そこからの攻防は一方的な展開となった。


 パシオが高速で動き回り、磨き上げた剣技を披露するもトシには通じず、

 攻めるほど手痛い反撃を受けるという展開の繰り返し――


 両者とも戦闘能力を特殊な技で強化しているのは同じなのに

 何故こうも差がつくのか――


 トシの〝雷手形成〟、パシオの〝血肉の廻牙〟

 

 どちらかが上位という事はなく、

 筋力だけならばパシオの方がより強化されていた。


 だが当たらない。


 トシの〝雷手形成〟は肉体を強化する効果はなく、そもそも魔法ですらない、

 〝加齢の呪い〟を応用しているに過ぎない諸刃(もろは)の戦法なのだ。


 ざっくり言えば〝老化を代償に数秒の間、目に映るもの全てがゆっくりになる技〟

 であり、逆に相手からは超高速で動いているようにも見える。


 この技によってトシは、モヒカン、大男、斧装備には似つかわしくない

 〝速さ特化の戦士〟になっていた。


 パシオの肉体が(いく)ら強化されようと脳内の処理速度は変わらない、

 つまり、彼はトシと戦うには様々な速度が足りていなかった。


「ぐッ… ッそぉ!」


 しかし、顔色に疲れを見せていたのはトシの方、


(まだ起き上がるのか、コイツ…)


 パシオは間違いなくトシと同じ〝人間族〟、


 それなのに〝雷手形成〟によって超高速で振り回される斧を

 何度受けても立ち上がってくるのだ。

 

「ハァッ… ハァッ…」


 もちろん彼も無事ではなく、痛々しい傷跡が体中に刻まれ、

 肉体の(じく)が安定しなくなっているのだが、

 その度に〝血肉の廻牙〟を掛け直して即座に飛び掛かってくる――


 もう武器も折れているというのに荒々しく殴り掛かってくるのだ。


 次で決める、と口に出してまで決意しただけに、

 トシの方が精神を揺らがされていた。


 気迫(きはく)、負けん気、根性といった要素は戦いにおいても重要だが

 気持ちだけでは勝つことは出来ない――


「おいっ もうよせ」


 トシが迫りくるパシオの拳を受け止め、そう言った。


 もはやパシオの肉体は〝雷手形成〟無しのトシでも対応できるほど弱っている。


 対戦者に棄権(きけん)を勧告するなど侮辱でしかないと思いつつも、トシが拳より先に

 言葉をかけたのは、これ以上続けたら死ぬかもしれないと判断したから。


 〝色武祭〟においては選手の死すら反則にならないが、

 殺し目的でこの大会に参加する選手もいないのだ。



「よせ…だと?」


 パシオが血の|滴≪したた≫る口を開き、(かす)れた声で聞き返す。


「お前… その体じゃ(たと)え俺に勝っても次の試合…」


 トシの判断は間違ってはいない。


 それでも試合中に〝次の試合〟などと言うべきではなかった。


「てめぇ…!」


 パシオの中で悔しさと怒りが混じり合い、沸き立つ。


 だがその腹立ちは自分に対してであり、

 次の試合の事ばかり気にしているトシに対してではない。


 俺は〝そんな相手〟から〝殺してしまう心配〟をされているのか――と、


 怒りと悔しさが〝弱い自分を許せない〟という想いに集約していく…


「!?」


 危機を感じたトシが後ろへ跳んだ。


 

 気持ちだけで勝つことは出来ない―― しかし、

 強い気持ちを持つ者こそが窮地(きゅうち)で活路を切り開く。


 パシオは(かす)気味(ぎみ)の声質に生気を取り戻し、こう唱えた。


「〝血肉の廻牙(かいが)〟ッ!」


 パシオの体にはすでに〝血肉の廻牙〟が掛かっている。


 つまりは(かさ)()け、


 肉体を強化している最中にもう一度、ムリヤリ強化したのだ。

 魔法の反動と打撲や骨折でボロボロとなった己の肉体を…


 彼は活路の先に〝この試合での勝利〟しか見ていなかった。



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