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加齢なる戦士たち  作者: どせい
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7話 芸術館 にくづめ

 【芸術館にくづめ】へ入店したクロとヨモギ・・・・

 この先で摩訶不思議な体験が待ち受けていることを彼女達は知らない・・・・



 店内を進んでいくと徐々に明かりが落ちてゆき、

 広い部屋に出るころには周囲が見えぬほど真っ暗となっていた。


「真っ暗ねー・・何ここ? 芸術鑑賞ってもっと明るい所だと思ってたけど・・・・」


「そうですねー・・私もてっきり絵や陶器が飾ってあるものかと・・・・

 真ん中にステージがあるだけで他には何もないですねぇ」


「そうなの? よく見えるわねアンタ・・」


「まぁ、目が4つもありますので」


「・・・そぅ」



「皆さんステージの周りに集まってますけど私達も行きますか?」


「え? ちょっとまって、このままってことはないでしょうから明るくなるまで待ちましょ」


 ステージに群がる人ごみから地区長を見つける事は困難なため一歩退いた場所にて2人は待機する。


 そして――――――――



『淑女の皆様・・・準備が整いました・・・・

 では、育まれ練り上げられた肉の美をご堪能くださいッ!』


       バッ!!


「!?」

「!?」


 ステージ上が妖しい光で照らされる。


 それと同時に情熱的な民族音楽が鳴り響き―――――――



「「「「キャ~~~~~~~~ッ♡♡」」」」


 観客から黄色い歓声が上がり、呼応するようにステージ奥から屈強な男達が練り歩いてきたのだ。

 ・・・・・・・ピッチリパンツ一枚で。


「!!?」

「!!?」



「「「「キャァァァァッッッ♡♡♡」」」」



「なッ!? なッッ? なッ!???」


「ひぃッ!! め・・・目ッ死」

「ちょッ!? やめなさい!!」


 突如出現した肉男達に思わず目ッ死波動を撃ち込もうとするヨモギ。

 

 寸での所でクロが阻止するが、クロもまた反射的に光球魔法を放つ構えを取っていた。



「ふぅ・・あっぶな、つい撃っちゃうところだったわ・・・なにあの変態集団?」


「ハァ・・・ ハァ・・ ハァ・・・」

「大丈夫アンタ? ほら、深呼吸して・・・

 とりあえず地区長見つけ出してこんな場所さっさと出るわよ」


「ハァ・・ハ・・ハィ・・・」


 混乱するあまり2人の頭からは飛んでいた・・・・

 仕方なく入店した2人とは違い地区長は自ら望んで足を運んだのだ・・・・この肉の祭典に、



「キャアアァッ♡」


「!」

「!」


 聞き覚えのある喜声に2人が反応するとそこには―――――――



「すっごぉい♡  みんなムキムキ~♡ やだぁ♡」



「あれって・・・」

「・・・地・・・区長・・・?」


 目を輝かせ、筋肉の密林をご堪能される地区長の姿があった。



「や~ん♡  筋肉がいっぱーい♡」



「・・・・・」

「・・ぁ・・・ぁぁ・・ぁ・・」


 この場においてもケタ違いの年長者であらせられる地区長の御勇姿は

 正体を知っている者からすると果てしなくキツかった。



「あ・・あ・・あれはそっくりさんです・・・うん・・人違いですよ・・・

 ほ・・本物の地区長・・・・探さなきゃ・・・・」


「・・・・ヨッちゃん・・」


 ヨモギの中で何かが崩れた・・・

 目の前の現実から目を背けて幻想を追うようにフラフラと辺りを見渡し始める。


 その横でヨモギを眺めるクロの眼差しはとても優しげであった・・



『それではお待ちかねの・・・・ふれあいタイムスタートォッ!!』



「「「「キャアアアァァァッッ♡♡♡♡」」」」


「ッ!??」


 合図の直後、筋肉男子達がステージから飛び降り、

 飢えた淑女達のすぐそばでポージングをとり始めたのだ。


 身の危険を感じたクロはヨモギを強引に引っ張り機材の裏側へと逃げ込んでいった。



「わぁ♡ かったーい♡」

「すごぉい♡  ピクピクしてるぅ♡」

「これ・・ほんの気持ちですけど・・♡」

「キャァッ♡ 私のも受け取ってぇ♡」


 淑女達は次々と筋肉に吸い寄せられる蝶のように男達の周りへと群がり、

 超至近距離で眺め・・触れあい・・悦に入り・・・

 そして取り出したる札金をピッチリパンツへと貢物の如く挟み込ませていった。


 その際、局部をさり気なく撫でるご婦人も・・・・



「!!?!」

「??!!」


 肉で彩られた異世界を覗き込む2人の脳内は混乱を極め――――――


「やっはぁん♡  ほらほらぁ♡  お札はまだまだあるわよぉ♡

 そのパンツが弾けちゃうくらい挿し込んであ・げ・る♡」


 人一倍ハシャギたてている地区長と思われる人物が否応なく目に入ってくる。


「・・・・・・・・・・・・」

「・・・ヨッちゃん・・・・?」


 ヨモギからの返事はない・・・・というより目の光すら消えている・・・


 精神という器に大穴をくり抜かれたヨモギを見かね、

 クロはとりあえず店外まで退避することにした。





 


 しばらくして――――――


 満足気な顔を浮かべながらゾロゾロと店内から出てくる客達。

 欲求が満たされたせいか肌がツヤツヤと潤っている・・・


 そして・・・


「フン♪  フンフン♪  フフン♪」


 満面の笑みで鼻歌交じりの地区長と・・・・・


「フフ~ン♪ ・・ん・・・・ッッ!?」


 出待ちしていた2人の目が合った・・・合ってしまった。



「ヨ・・ヨツメちゃん・・こ、こんな所で奇遇ね・・・」


「地、地区長・・・ですよね?」


「え? えぇ・・・・?」


「・・・・グスッ」


「!!!」


 人違いという淡い希望が断たれたヨモギの目に薄っすらと涙が滲んだ。



「え? え・・・ ア、アナタ達・・・・その・・   見てた?」


「・・・・・コク」


 クロが無言で首を縦に振る。


「!!??!」


 地区長の顔が絶望へと変わっていく・・・・



「あ・・あのね・・・・  違うの・・これはね・・・・」


「大丈夫です・・ グス・・ 私、信じてますから・・・

 あんな血迷った奇行にも・・きっとなにか理由があるんだって・・・信じてますから・・グス」


「う゛・・・・」


 ヨモギの4つの目は潤みながらも地区長の目をまっすぐ見つめていた。

 

 己の筋肉嗜好が招いた趣味100%の私的行為であっただけに返す言葉も見つからない・・・

 純粋な部下の眼差しが地区長の良心へと深く刺さっていた。


「あ、安心してください・・・アタシは味方ですから・・・・

 か、管理職って色々と溜まるっていうし・・・まぁ・・・内緒にしておきますので・・・」


 しかも遥か年下のクロにまで気を使われてしまう始末。


「・・・・・・ありがとうございます」



 誰かが悪いわけではない・・・・むしろ2人の行動はこの上なく優しかった。

 それでも場を包む空気は身に圧し掛かるほど重かった。


 2人は地区長に事情を説明し、トシ、ジャック、ミツメの待つ宿へと同行してゆくのだった。

 その歪んだ空気を引っさげたまま・・・・



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