6話 3ケタから4ケタへ
場所は変わり、トシ達の宿―――――
宿の1室でトシ、クロ、ジャックと魔女姉妹の5人が所狭しと並んでいた・・・
「えっと・・つまり・・・私達の呪いは解けないってこと?」
「うむ・・・すまんが無理じゃ」
「え? ・・・いやいや嘘でしょ? 術士本人のクセになに素人みたいなこと言ってんのよ」
「だから掛ける時も言ったじゃろ! 決して解けぬと!」
「そこをなんとかしてって言ってるのよッ!
しかもなんで使用者のアンタまで呪われてんの? アホなの?」
「そ・・そんなんこっちだって驚いてるわッ!
仕方ないじゃろ初めて使ったんじゃし・・・・」
「初めて? 初めて使うのにあんな偉そうな捨て台詞はいてたの?」
「うるさいわッ 人間如きが一々と・・・」
「その如きが作った煮物を随分と美味しそうに食べてたわねぇ・・・」
「ぐ・・ぬぅ・・」
ギャーギャーとけたたましい声が部屋中に響く。
ミツメとクロ・・2人の同属嫌悪に近い言い争いの横で残り3人が話し合っていた。
「黙っていてすいません・・・・
姉さんは無理でも人間の皆さんでしたらもしかして、と思いまして・・」
「いいよ別に・・というか、この加齢の呪いにもっと詳しい魔女とかいないのか?」
「・・・・この呪いは姉さんの固有技なんです」
「げッ! じゃぁ・・・アイツが解けない時点でもう詰んでるんじゃ・・・」
「うぅ・・」
固有技とはその者しか使えない能力の事である。
修行などで習得できる魔法とは違い、
例え同じ種族の中であってもその個人しか使用できぬ完全なオリジナル能力であり、
ヨモギの「目ッ死波動」などがこれにあたる。
「ま、まぁ呪いを解く方法は種族の数だけ様々ありますので諦めるのは早いですよ」
「そ、そうですよね! 姉さんも皆さんも色々試せばきっと解けますよッ!」
「そうだな・・ とりあえず色々試してみるか」
3人が1つの方針を定めていた頃、
姉同士の幼稚な口喧嘩も一段楽したようで、息を切らしてうな垂れる2人が見える。
「ハァ・・ハァ・・とにかく呪いが解けるまでアンタは同行してもらうからね・・ハァ・・」
「ハァ・・ な、馬鹿いえッ こっちは今それどころはないと・・ハァ・・」
「・・・面白そうだから今晩あの2人を同室に泊めてみようか?」
「やめてください 宿が壊れます」
「アハハ・・ あ! そうだ姉さん」
「ん?」
「え~と・・さっき地区長に・・その・・会ったんだけどなんの用件だったの?」
「地区長? ・・・・用件?」
ヨモギショックの後遺症が残っているらしく頭をかしげるミツメ。
ヨモギの方はなかった事にする気満々であったが・・・・
「・・あ! 思い出したッ!」
「えッ!? え? ごめんなさい!」
「は? 何を言っておる? ・・ゴーレム大会の地区対抗戦のことじゃ」
「え? あ・・そっちね・・・・ん? でも姉さんは・・」
「うむ・・ 非常にまずい事になった・・」
「その・・地区長には・・」
「言っておらん・・言えるわけがない、なんせ今回の地区長は異様に意気込んでおったからのぅ」
「・・・・」
3人を置いてけぼりで話し込む魔女姉妹にクロが割って入る。
「ねえ、何の話か知らないけどあの地区長って魔女なら呪いの解き方知ってるんじゃない?
アンタ達の上官なんでしょ?」
「う・・・」
ミツメとしてもそれは最後の手段として考えていた。
なぜなら彼女の呪いは例のゴーレム大会に影響を及ぼすものだったからである。
「姉さん・・
ここはクロさんの言う通り地区長に相談してた方が・・・」
「うぅむ・・」
2人に宥められつつあるミツメへ今度はトシが問いかけた。
「ちなみにミツメ魔女さんの呪いってどんなんだ?」
「あ、私も気になる」
「・・・・・・・・ゴーレムを造るたびに歳をとる呪いじゃ」
「そんだけ? なんか軽くない?」
「軽くなどないッ! 積年練磨してきた私の生きがいじゃッ!」
「・・アンタ達のゴーレムはみんなに迷惑かけてるんだし天罰だと思って諦めなさい
第一、魔女の寿命を考えれば呪いくらい大した事ないでしょ?」
「ないわけあるかッ 呪いのせいで既に35年も歳をとってしまったのじゃぞッ」
「はッ!?」
「35年ッ!?」
「自分達の30倍以上!? ・・・なんでそんなに?」
「おそらくこの呪いはその種族の寿命に比例して加算度も増すのじゃろう・・・
あぁ・・・なぜこんなことに・・・」
自身の術の性質を全く把握しきれず苦悩する哀れな姿に3人はただ呆れるのみである。
「キサマらが手持ちのゴーレムをほとんど破壊してしまったからな・・
傷が癒えてから躍起になってゴーレムを仕込んだんじゃ
そして・・・気付いた時には私の35年が・・・・うぅ・・・」
「ん? でも確か魔女って大体3000年は生きるんだろ?
だったら35年くらいでなんでそんなに落ち込んでるんだ?」
「あ、そういえばそうですね・・・」
「・・・・」
トシの疑問に何故か口を塞ぐミツメに代わりヨモギが説明しだした。
「実は・・・・その35年のせいで姉さんは1000歳を超えてしまったんです」
「「「!?」」」
「ちょッ!? ヨツメ?」
「最近は3ケタのうちに結婚するって目標をッムグッ!?」
「ヨツメェッ!!」
「ぷ・・くく・・3ケタって・・くく・・・」
「に・・人間で言うと・・30代みたいなものか・・くく・・」
「そ・・それは き・気の毒でしたね・・・」
最低限の礼儀として一応笑いは堪える3人。
だが、それがよけいミツメの羞恥心を煽っていた。
「ぬぅッ~・・わかった! もうこんな呪いなぞとっとと終わらせてくれるッ!」
「こんなって自分の固有技でしょ・・」
「るさいッ! こうなったら覚悟を決めた! ここに地区長を呼んでくるのじゃッ!」
「いいけどオマエも手伝えよ・・」
偉そうに猛ってはいるが、要するに怒られるの覚悟で地区長に頼るということなのだろう・・・
地区長を探すために5人が外へと出ると既に日が沈み始めており、
とりあえずバラけて探索して1時間後に宿に集合する事にした。
夜の繁華街、様々な種族が交じり合う群集の中を魔女姉妹が歩いていく・・
「のぅヨツメ?」
「ん?」
「記憶はハッキリしておるのじゃが・・どうしてこの町に居るのかだけが分からぬ・・・」
「えッ!?」
「地区長と話していた最中に大きな物音がして・・気がついた時にはベットの上で・・・
いったい何があったのじゃ? 家は無事なのか? あそこには製造途中のゴーレムが・・」
「え・・えーと・・・・あ! 私あっち探してみるよ ね、姉さん また後で・・」
「あ・・おい・・」
とても隠し通せるモノではないにも拘らず、ひたすら誤魔化すこの姿勢
往生際の悪さは姉以上なのかもしれない・・
「なぁジャック・・・・」
「なんですか?」
「あのミツメ魔女が約1000歳だったって事はさ・・・・その妹のヨッちゃんって・・・」
「・・・・・・あ」
「・・・・」
「・・・・」
「いや・・野暮だよな、女性の年齢を推測するなんて」
「はい・・・・あ、自分あっちの方探してきます」
「おう・・」
「へェックション!!
う゛~・・ちょっと冷えてきましたね~・・・・あ! クロさん!」
「ん? あぁ・・ヨッちゃんか・・いいところに」
「・・?」
「ほら、あれ」
クロが指差す方向にはある店があり・・・その前には大行列が・・・そしてその中に・・
「あ! 地区長!」
「ね、 ・・でも行列が邪魔で近づけなくて困ってたのよ」
店の前には通行の邪魔になるほどの大行列がうねっており、
目的の地区長はちょうど真ん中らへんに並んでいる。
そしてよく見れば他の客もみな女性・・それもちょっと大人の雰囲気を持つ者達であった。
「どうしましょう・・・大声で呼んでみますか?」
「ん~~・・・あ、店の人が出てきた」
「皆様ッ! お待たせしました!
只今より夜の部を開催いたします! どうぞ静粛に・・優雅にご入場くださいませッ!」
直後店の扉が開き、女性達が次々と入店してゆく。
地区長を含む客達の表情は何か期待するような妙な高揚感に満ちていた。
「あぁ・・入っていっちゃいます・・」
「っていうかここってなんの店?」
クロがカラフルなライトに照らされている看板を見上げてみるとそこには・・・・
「芸術館・・にくづめ? 変な名前ね・・・」
「芸術館? なるほど・・芸術鑑賞ですね さすが地区長! オシャレですねぇ」
「まぁそれなら好都合ね 店内で話しかけやすそうだし・・
よし ヨッちゃん、私達も行くわよ」
「あ、ハイ!」
こうしてクロとヨモギも最後尾へと並び、芸術館にくづめの中へと入っていった・・・・・
そして100分後――――――――
「姉さんとヨモギさん遅いですねぇ・・・・・・自分もう一度探してきます」
「あーいいよ、俺がもう1回見てくるから・・・ジャックは飯食ってな」
「・・すいません、お願いします」
「ほらッ 今度はオマエも一緒に来いッ」
「ぬぅッ! 分かったから引っ張るなッ!」
その時、部屋の扉がギィ~っと不気味なくらいゆっくり開き、
クロ、ヨモギ、そして地区長の3人の姿が見えた・・・のだが、
「ただいま・・・・」
「・・・遅くなってすいません・・・・地区長をお連れしました・・・」
「・・・・・どうも皆さんこんばんわ・・・地区長です・・・」
「姉さん? ・・・・?」
「お、おかえり・・・?」
「地区長・・? ヨツメ・・?」
そこに現れたのは・・見るからに精神的が削れまくってクタクタになった3人であった。
ゲッソリとした3人組の登場に残りの3人なんと声を掛けていいか分からず、
異様な空気が部屋の中に流れていた・・・・