4話 三つ目を穿つ四つ目 ※挿絵
「・・・大丈夫ですか?」
「はい・・なんとか・・ だいぶ楽になた気がします・・・」
【メンタルヒール】精神的に負った傷をある程度やわらげる魔法
内面が崩れかけていたヨモギを見かねたジャックが、彼女をケアした魔法である・・
ジャックの加齢条件は【人間を魔法で癒す事】なので人外のヨモギ相手には当てはまらない。
「姉が傷をつけ弟が治す・・か、まるでカマイタチだな・・」
「まさかあんなにヘコむとは・・・っていうか半分くらいはアンタのせいでしょ」
元凶の妹であるヨモギと思わぬところで出くわし・・いや、雇い入れる事となり、
3人は早速【三つ目の魔女】の居場所まで強制的に案内させるのであった。
「あの・・ 本当に姉さんを殺す気は無いんですよね?」
「あぁ、最初はそのつもりだったけど、もうこの呪いさえ解いてくれればいいや・・・
じゃなきゃ道案内してくれそうにないし・・・・」
「言いたい事は色々あるけどまずは会ってからね・・」
「はい・・」
ヨモギは例の紹介文を人質に押さえられ既に逃げる事をあきらめていた・・
そして悪いとは思ったが姉と一緒に住んでいる【魔女の小屋】まで案内する事となった。
「ところでなんでこんな近くの町で傭兵なんてしてたんですか?」
「確かに・・ 意外すぎてこっちがビックリしたぞ」
「アホね」
「う゛・・ こ、こっちにも事情があるんですよ・・・・・あ!
見えてきました、あの山裾にあるあの家です」
【ガゼット】を出発して徒歩20分・・ 山のふもとに家が一軒ポツンと建っている
まるで隠す気のないあの家が魔女達の隠れ家らしいが――――――
「お! ゴーレムだ!」
「結構いますね・・・目的地はすぐそこなのに・・・・」
「よし! ヨッちゃん! アナタの出番よ♪」
「え!?」
【魔女の小屋】へとつづく平原にゴーレム達がうろついている。
遮蔽物がないためいきなり見つかってしまうのだが、
クロはむしろ待ってましたと言わんばかりにヨモギへ指示を飛ばす。
「え? ってアンタ傭兵でしょ? 何のために雇ったと思ってんの?」
「え・・いや、だから案内を・・・」
「無事呪いが解けたら雇用金の他にレアアイテムもあげるから頑張んなさい」
「!」
「よし、頼むぞヨッちゃん!」
「!!」
「が、頑張ってくださいヨモギさん・・・」
「!!!」
「・・・・・・・
・・・・そ・・そこまでいうのなら・・・・へへ・・・・任せてくださいッ!」
クロに続きトシ、そしてジャックも激励を飛ばす。
今までなにかと姉達の影に隠れてきたヨモギにとって任されるという感覚は新鮮で心地よく、
襲い掛かってくるゴーレム達の前へと1人躍り出るのだった。
ちなみにクロの言っているレアアイテムとは先日魔女からくすねてきた盗品の事である。
「ふ・・ふふふふ・・♪ 愚かな土塊どもめ・・・【四つ目の魔女】である我が力を思いしれぃッ!
ハアアァァァ・・・・」
キュイイィィィィ・・・・・・
ヨモギの四つの目が淡く発光し、周囲の大気を吸い込んでゆく・・・・
「おぉ! 結構本格的だな・・・」
「あの・・クロ姉さん? これって方向的にヤバいんじゃ・・・・」
「え?」
「目ッ死波動100%ォッ!!」
ドッゴオオオオォォォォ・・・・・・ォォン!!!
四つの目から放たれた極太の波動砲・・それはあの日【魔女の塔】を半壊させた巨大な光の正体。
その地形を変えるほどの光は今や3人の味方となり、
正面に居たゴーレム達を粉砕し吹き飛ばしてゆく・・・・【魔女の小屋】もろとも・・・
「「「あ!」」」
「あ・・・」
クロの光球魔法を上回る超威力。
そんなシロモノを実の姉へと撃ち込んだヨモギ・・
そしてこの惨事を招いた3人・・
吹き飛ぶ破片が地へと突き刺さる音だけが虚しく響く・・
「ま・・魔女ですから平気ですよね・・?」
「多分な・・」
「解呪方法聞きだすだけだし・・・最悪意識さえあればいいわ」
「ねえさあああぁぁぁぁんッ!!!」
元【魔女の小屋】へと猛ダッシュしてゆくヨモギ。
両端に居たため直撃を免れたゴーレムが数体動き始めていたが、
それに目もくれず一目散に駆けゆく・・
「あ! ちょっと!」
「しかたない・・ 後は俺達でやるか」
そして・・・・
残ったゴーレムを軽く蹴散らし、
3人が【魔女の小屋】跡地へと到着するとそこには―――――――
「全く・・ これから大事な用があるっていうのに、
服や顔が汚れたら大変でしたよ」
「すみませんすみませんすみませんすいません・・・・」
見知らぬ女性と土下座して謝り続けるヨモギの姿があった。
「何してんだアイツ?」
「アレ? 【三つ目の魔女】ってあんな顔だっけ?」
「いえ別人ですよ・・・・けど誰でしょう? 別の姉とか?」
「もう顔をお上げなさい・・
今日の私は機嫌がいいのでこれくらいで勘弁してあげましょう」
「ハイッ! ありがとうございますッ!
・・・・その・・それで何故地区長が私達の家に・・・・?」
「それはですね・・・・・あら?」
この時地区長と呼ばれる女性がようやくトシ達の姿に気づき向こうから歩み寄ってきた。
「まぁまぁ こんにちわ♪ ヨツメちゃんのお友達かしら?」
「え? あ、はい そんなところです・・」
「ふ~ん・・ へー・・」
「・・・?」
地区長がトシの肉体をジロジロと嘗め回すように目を滑らせてゆく・・
「アナタもいい身体してるわねー♡」
「は? いや・・あの・・」
詰め寄る地区長と戸惑うトシの間へクロが割って入り――――――
「オバさま ちょっとよろしいでしょうか?」
「オ、オバ・・・!」
「なッ!? ちょっとクロさん失礼ですよッ!!
この方はこの地区を管理されている魔女でこう見えても結構エラいんですよ!
それにお肌だってまだかろうじてピチピチで――――――」
「ヨツメちゃんは少し黙っててね・・」
「は、はひッ!」
ヨモギが懸命にフォローしようとしたこの女性は地区長と呼ばれる魔女達の管理者。
この周辺で活動している魔女達の上司のようなもので、
魔女対抗ゴーレム大会においでは監督の役割も担っている。
「・・・コホンッ で、話というのは?」
「はい、実は私達そこに住んでいる【三つ目の魔女】にハタ迷惑な呪いを掛けられた被害者でして・・・」
「まぁ・・そうでしたの? そこに住んで・・・・あ」
「あ、あの~~ 地区長・・ところでウチの姉はどちらに・・・?」
「え・・・まさかあの中に・・」
「いやいやまさか・・ほら、あの地区長さんだって無傷じゃないか
きっとあんな感じで助かってるだろう・・きっと」
「で・・ですよねぇ・・・」
トシとジャックがヒソヒソ話している横で固まっている地区長・・
ソレを見たクロとヨモギに嫌な予感が走った。
「え? アナタまさか・・?」
「・・・ごめんなさい 自分の身を守るので頭いっぱいだったから・・・」
「・・・・・ね・・ねえさああああぁぁぁぁん!!!!」
その後、地区長、ヨモギを含む5人がかりで瓦礫を掘り起こし、
なんとか【三つ目の魔女】を引きずり出す事に成功した。
目立った怪我はないものの意識はなく、ジャックの魔法を掛けても起きる様子はない・・
だが地区長が言うにはしばらく経てば目覚めるとの事らしい。
救出後ヨモギはまたしても土下座し「この事は姉には黙っててください」と
4人に懇願しながら額を地面に何度も叩きつけている。
トシ達に雇われてからまだ2時間と経っていないにもかかわらず、
すでにヨモギには胃に穴が空いてもおかしくないほどストレスが蓄積されていた・・・・
呪いによる年齢変化
【トシ】 『18歳 160日』 → 『18歳 190日』
【ジャック】『17歳 75日』 → 『17歳 76日』※自然経過のみ
【クロ】 『19歳 100日』 → 『19歳 125日』
【ヨモギ】 『度重なる心労による老け込み』