3話 早すぎる再会 ※挿絵
再び「ガゼット」へ向けて出発した3人。
色々あった昨日とは違い「野良ゴーレム」と出くわす事もなく、
余計な年齢を消費せずに隣町「ガゼット」へと到着するのであった。
「もう昼過ぎか・・・」
「すいません・・ クロ姉さんが中々起きなくて・・・」
「うぅ・・」
「どうせ魔女から奪った珍しいアイテムでも見て、夜遅くまでニヤニヤしてたんだろ」
「う、うっさい! だからお詫びにお昼奢るって言ってるでしょ!」
「はいはい・・ じゃあファームさんとこでも行くか・・・」
3人が必要としていたのはもちろん【三つ目の魔女】の情報であったが、
それとは別に自分達の代わりに戦ってくれる仲間を雇うためこの町を訪れていた。
攻撃や魔法の度に年を重ねていく今のスタイルで3人旅をしていてはあっという間に衰えてしまうだろう・・
そこで【加齢の呪い】をかけられていない健康体の仲間を求めていたのだ。
カランカラーン♪
「ファームさ~ん♪ お久しぶりでーす♪」
クロがいつもより高い声色で楽しげに店のドアを開いた。
「あら! クロちゃん♪ いらっしゃい♪」
「あ、お邪魔します・・」
「ファームさん、お久しぶりです」
「まぁ 皆して・・久しぶり~♪」
お食事処【ファーマー】
3人が昔から面倒を見てもらっているファームという女性が営む食堂であるが、
それと同時に傭兵の仲介も請け負っていた。
大まかな要望さえ伝えればめぼしい者達の資料を見る事ができるのだが・・・・
「あ~ゴメンね~ お昼の時間帯で殆ど予約埋まっちゃって・・・
うーん・・後は今日のお昼まで休暇の娘が1人いるんだけど・・・」
「少し遅かったですか・・・ ちなみにどんな人なんですか?」
「あ、うん、ちょっと待っててね・・」
「もう少し早く来ていれば・・・」
「わ、わるかったってホント・・」
「あったあった・・えっとヨモギちゃんって言うんだけどね・・
1ヶ月くらい前に登録したばかりの亜人族の娘なんだけど結構評判は良いのよ
ん~と・・戦うトコロは見てないけど資料には魔法使いタイプって書いてあるわね」
「魔法使い? アタシとカブるわね・・・・あ!この際カブったほうがいいのか
そのぶんアタシの負担が減るんだし・・」
「私が見た印象としては大人しくて気配りのできる感じの良い子だったわねぇ
明るいんだけどあまり主張しないっていうか・・・
なんでも病気の姉のためにお金が必要らしくて・・個人的には応援したい娘なんだけど・・」
「大人しい!?」
「気配り!?」
「?」
どこぞの魔法使いとは縁遠い魅力的なワードに男2人が反応した。
「雇った人達からの反応も良かったしこの娘でよければすぐに呼べるんだけど・・・どうする?」
「ヨモギちゃんでお願いします」
「え?」
「まぁありがと♪ それじゃ連絡しておくね♪」
独断即決のトシにクロも困惑するが、
自分の加齢量が減る事にもなるので特に反論する様子は無い。
そしてそのクロを姉にもつ苦労人ジャックもどこか嬉しそうな表情を浮かべていた・・
「・・少し時間が掛かるみたいだからその間この料理でもどうぞ♪
今回は私の奢りだから・・・さ、食べて食べて♪」
「え? いや・・そういうわけには・・」
「いーの♪ いーの♪ どうせ仲介料もらってるし♪」
「さっすがファームさん♡ ありがとうございます♪」
「あ! おいクロ・・」
「いつもすいませんファームさん・・」
「いーって♪ いーって♪」
奢る予定だったクロが真っ先に料理を突く・・
こうして3人は食事を取りながら新しい仲間を待つこととなった。
~そして約30分後~
3人のテーブルにファームが慌ててやってくる。
「ハァ・・ハァ・・ゴメンね~ コレ渡すの忘れてたわ」
「ん? これは?」
食器を片付けたテーブルの上に2枚の紙が広げられた・・
「本来最初に渡さなきゃいけないものなんだけど・・・ホントゴメンねぇ・・」
その2枚とはヨモギという娘の【顔写真の付いた経歴書と紹介文】である・・
特に変哲もないごく普通の資料ではあるのだが、
3人の目を惹いたのはこの娘の写真―――――――――
「・・・ッ!?」
「この顔は!?」
「え!? この娘って・・・」
「・・ん? どうしたのみんな? ・・・・もしかして顔見知りとか?」
そこに写っていたのは【三つ目の魔女】を取り逃がした原因ともいえる人物であり―――――
カランカラーン♪
「すいませーん 遅くなりましたー」
突然ドアの鐘が鳴り、1人の少女が入店してきた。
「あ! ヨモギちゃん♪ こっちよ~・・・」
ファームの声に誘われ、その少女は軽い足取りで満面の笑顔を浮かべ、
手を振りながら3人の下へと元気にやってくる・・・・悲劇が待っているとも知らず・・・
「はじめましてー♪ 【四つ目族】のヨモギっていいまーす♪
もしよければヨッちゃん♪って呼んで・・・ぇ・・・・・・え?」
その場の空気が凍った・・・・
ヨモギという少女こそ【三つ目の魔女】を連れて逃げ去った魔女の妹分だったのだ。
3人の顔を見てヨモギも瞬時に状況を理解し、只々気まずい空気のみが両者の間に流れていく・・・
「あの・・みんな? ・・・ヨモギちゃん? その・・・大丈夫?」
何が何やら分からぬファームが心配そうに4人の顔を窺う・・・すると――――
「・・・・・ヨッちゃん」
「!!」
「ヨッちゃんじゃない♪ 久しぶり~♪」
「はぇ!?」
性悪女クロがわざとらしい造り笑顔でヨモギへと話しかけ始めた・・
「ホント何年ぶりかしらぁ♪ 元気してたぁ?♪」
「いや・・・あの・・・」
「どーしたヨッちゃん? お腹でも痛いのかいヨッちゃん?」
「えッ!?」
しどろもどろするヨモギへ今度はトシが更なる追撃をかましていく・・・
こういう時は異様なほどの連携を見せる2人であった。
「ぁ・・その・・・・・お・・お久しぶりです・・はい・・・」
もはや色々と観念して力なく返事するヨモギ。
「・・・・」
そんな言葉のナイフで抉られてゆく少女をジャックは不憫そうな目で見つめていた。
「あら♪ やっぱり知り合いだったのね♪
もー みんなして黙ってるから心配しちゃったわー」
「ハハッ まさか、知り合いだったのでちょっとビックリしただけですよ・・なぁジャック君?」
「え!? あ、ハイ・・そうですね・・はは・・」
「それじゃ、長居してもなんですし・・そろそろ行きましょうかヨッちゃん♪」
クロがそう言ってヨモギの肩に馴れ馴れしく手をかける―――
「いッ!?」
その手には必要以上に力が入っていたのは言うまでもない・・・
更に殺意を目に秘めたまま満開の笑顔で囁くクロ・・・・・・しかも至近距離で
「フフ♪ ヨロシクね・・・ヨッちゃん♪」
「はひッ!!」
そして―――
「色々とお世話になりました」
「ご馳走さまでしたファームさん♪」
「・・・・」
「ハーイ♪ またいつでも来てねー♪」
店に入ってきた時とは別人のように暗い顔となったヨモギとクロ、そしてトシがドアから出て行く・・・
「ありがとうございましたファームさん」
「まぁ お役に立てたのなら嬉しいけどねぇ♪ ・・・・ところでジャックちゃん」
「はい?」
「今更こんなこと言うのもあれだけど・・
新しく仲間加えなくてもトシちゃんとクロちゃんがいれば十分なんじゃない?
それとも・・もしかして【鉄】以上のゴーレムとでも戦うつもり?」
「いえ・・そうではないのですが・・
あ、でもヨモギさんが来てくれたことである意味助かりました」
「?」
「コトが済んでからまた立ち寄らせてもらいます・・・・では」
「あ、うん 気をつけてね~」
ジャックは深々とお辞儀をし、2人と魔女の後を追っていった―――
店の外へと出たジャックが3人と合流すると・・・・
「えーっと、なになに~・・・『初心者なので私に色々と教えてくださいね♡』」
「ちょッ! それは・・・」
「本人コメント・・え~・・・『あだ名で呼び合えるくらい仲良くなれたら嬉しいです♪
趣味とかあまり無いので皆さんとの旅の中でなにかステキなモノが見つかったらいいな~(笑)』」
「あの・・ホント・・勘弁してください・・」
クロとトシがヨモギの紹介文を音読していたのだ・・・・ヨモギの前で。
「その・・違うんです・・ それ書いてる時・・変にテンション高くて・・ですね・・・」
天下の従来で思わぬ辱めを受けるハメになったヨモギは、
真っ赤な顔で俯きながらボソボソ呟いていた。
だが悪ノリが段々楽しくなってきた2人は止まらない――――
「色々かぁ・・ 色々ねぇ・・ これは色々教えねばならんなぁ・・・」
「えっ?」
「なにコレ? 書いてるうちに楽しくなっちゃったの?
架空の自分の設定書いてるうちに筆が暴走しちゃったの? ん?」
「いえ・・あの・・・それは・・・・その・・・・」
チンピラ2人に絡まれたヨモギの4つの目からは薄っすらと涙が滲んでいた。
「・・・・・」
相手が魔女とはいえさすがに気の毒になったジャックがその後2人をなだめる・・・
そしてパーティーに【ヨモギ(ヨツメ)】が加わった。