2話 魔女とゴーレム ※挿絵
加齢の呪いを受けたトシ、クロ、ジャックの3人は「三つ目の魔女」を再び探し出すため、
旅に出るのであった・・
「ハァ・・・・」
手に持つプレートを眺めながらため息を繰り返すクロ。
そのプレートには【19・60】と映し出されていた・・・
これは現在の年齢を知る事ができるアイテムである。
「クロ姉さん・・・
落ち込むのは分かりますが【魔女の塔】も近いですし・・もうちょっと気を引き締めてください」
「ん~・・ でもあのババァ追い払ったから大丈夫でしょ?」
「いえ・・まだ残ってるかもしれませんし・・・一応・・」
一行は色々と便利な店が並ぶ隣町「ガゼット」へ向けて歩いている。
故郷の町とガゼットの間には【魔女の塔】が邪魔するように聳え立っており、
以前までは安全第一に迂回する者が多かった。
しかし塔の主が消えた今、その周辺の魔物も一緒に姿を消していた・・・ハズだったが・・・
「ん? 塔の周りに人だかり・・? ・・・・・・・ッ!? ゴーレム!?」
「え!? なんでまだゴーレムがあんなに・・?」
「こっち向いた! 来ますよッ!」
様々な種族が住むこの世界で【魔物】に分類されるのはこの【ゴーレム】だけである。
ゴーレムとは魔女によって造り出された兵器。
魔女にとってゴーレムは労働力であると同時に遊び道具でもあった・・
土地や建物、また珍しいアイテム等を賭けてゴーレム同士を戦わせるという娯楽文化が根付いており、
それこそ魔女がはた迷惑な種族と呼ばれる原因でもある。
「ねぇ! いったん退きましょ!」
「ダメだ! 放って置いたら町の奴らを襲うかもしれないだろ」
「うぅ・・・」
「とにかく倒すぞ!」
理由の分からぬまま塔の周囲に群がっていたゴーレム達のと戦闘が始まった。
トシやクロの腕前をもってすれば容易い相手ではあるのだが・・
斬撃や魔法を繰り出すたびに年齢が加算されてゆくため、なんとも歯痒い思いを味あわされていた。
「おいクロ! 数多いんだからもう少し撃ってくれよ!」
「ち、ちゃんとやってるわよ・・」
非常に消極的なクロであったがトシの奮闘もあり、
ゴーレムの残骸が次々と散らばっていく・・・
「ハァ・・・ ハァ・・・・」
「フゥ・・・ さすがリーダー、頼りになるわ♪」
「・・・・・・今晩の宿代オマエもちな」
「2人ともお疲れ様でした・・・・」
戦闘を終えた2人へ回復魔法をかけるジャック。
しかし地面に転がる大量のゴーレムになにか不気味な予兆を感じていた・・・
魔女はゴーレムを「進化」させる目的で他の生物を襲わせる。
ゴーレムを形作る物質はほどよい強敵と戦う事でより強く変化するのだ。
とはいえあまり強い種族を相手にしてしまうと進化する前に壊されかねない・・
そこで標的となるのが人間などの手ごろな種族なのである。
また、色々な理由から造るだけ造ってそのまま野に放たれた【野良ゴーレム】も数多く存在し、
あちこちで問題を起こしていた・・・
「このゴーレムって野良ですかね?」
「いや・・数が多すぎる・・それに俺達に気付く前、なにか作業をしていたような・・・」
「まさか・・ 三つ目の魔女が帰ってきたとか・・?」
「へぇ~♪ やるじゃないアナタ達♪」
「「「!?」」」
突然、塔の上から聞き覚えのない声が聞こえ、3人が同時に上を見るとそこには――――――――
「んじゃ次はこのコ達の相手ヨロシクねー♪」
塔を我が物顔で占拠した新たな魔女がいた。
そして魔女が両手を妖しく振るうと入り口の奥からガシャンガシャンと無機質な足音が響いてくる・・
「野良猫みたいな奴等ね・・ こんな短期間で別なのが住み着くとか・・・・」
「失礼ねー ちゃんと許可とったわよ・・・
っていうかもしかしてアイツ追い払ったのってアナタ達?」
「は? ・・・・ん? ちょッ! トシ! あのゴーレム、『石』もいるわよ!」
「うわ・・マジか・・」
「見えてるだけで3体くらいいますね・・」
ゴーレムは「進化」することで【土→石→鉄→鋼】とタイプが変わってゆき、
進化に伴い戦闘能力も大幅に上昇する。
他にも【木】や【水】などのゴーレムが存在するが魔女同士の対戦では使用禁止とされているため、
育てる者はほとんどいない。
ちなみに先程までトシ達が戦っていたゴーレムは全て【土】である。
「アハハ♪ このコ達の糧となりなさい♪」
「クロ! 今度こそ頼むぞ・・」
「む・・・わかってるわよ・・」
クロが手を振り、多数の光球がゴーレム達へと降り注ぐ。
「あら! あの子光球魔法なんて使えたのね・・・・・でも♪」
散弾する光球がゴーレムを次々と貫いていく・・・が、
石ゴーレムを倒すまでには至らず、表面を削り怯ませただけであった。
「フゥ・・・・かったいわね~」
「いや十分だ、ジャックはクロに付いていてくれ」
「あ、ハイ!」
トシが3体の石ゴーレムの前へと乗り込んでゆく・・
「殺しちゃダメよー♪ じっくりたっぷり遊んでもらいなさいねー♪
フフ・・♪ あー・・早く【鉄】に進化しないかなー♪ ・・・・・・あれ?」
塔の窓から余裕の傍観を決め込んでいた魔女であったが・・・
「トシ! もう少しで撃つわよ!」
「ん、おぉ!」
3体の石ゴーレムの猛攻と渡り合うトシを見て驚き、感心すらしていた。
「へぇ~ やるものね~・・ こりゃミツメも負けるわ・・・」
予想以上に手強い人間に対し、ゴーレムを手動で操ろうと魔女が手を伸ばした・・・次の瞬間―――
「右ィッ!」
クロの掛け声と同時にトシが指定された方向へと緊急回避し・・・・
ゴォッッ!!
トシが空けたスペースへと特大の光球が放たれ、その先にいた石ゴーレム1体を粉砕したのだ。
「なッッ!!?」
「よし! あと2体!」
「ジャック! 行くわよ!」
「ッ! ・・ハイ!」
光球を撃つたびに消耗する体力はジャックの回復魔法によって補われていた。
「くぁ・・ああ・・・ 苦労して育てたゴーレムがぁ・・・」
1体減った事でトシにも余裕が生まれ、
もはや2対1であってもゴーレム達のほうが目に見えて劣勢である。
「ぬぅ・・ぐぐ・・
あんなバカでかい光球初めて見たぞ・・・ 石ゴーレムを砕くとか・・・
つーかどうしよ・・ このままじゃまた壊されちゃうし・・うぅ」
一気に不利な状況となった魔女が慌てふためく。
そこへまたしても特大の光球が――――――
「!!?」
ドッゴオオォォ・・ォォォン!!
「キャッ!?」
先程と同じ大玉の光球が魔女のすぐ近くに衝突し、塔壁を突き破ってきたのだ。
「く・・ううぅ・・あっぶな・・・」
「よくもまたゴーレムを・・・・ん?
ゴーレムが壊れてない・・? ・・・・・?
外した? それとも私を直接狙った・・?」
「ハ・・ハハハ・・・ どっちにしろ外してやんの♪ バカなヤツ♪」
「誰が・・・」
「・・・え?」
後ろからドスの利いた声が聞こえ魔女が振り向くと・・
「ッ!?」
壁にメリ込んでいた光球の中から魔女の如き形相のクロが出現したのだ。
「バカだってぇ・・・・」
「え・・? は・・? ちょ・・・」
「地元から・・・・・・出てけッッ!!!」
ゴッッ!!!
拳を光球でコーティングしたクロ渾身のゲンコツが炸裂した。
「~~~~~ッッ!!!」
「うっわ~・・・・」
遅れてジャックが光球の中から姿を見せる。
つまりクロは自分とジャックを光球で包み、ダメージ覚悟で塔へと突っ込んだのだ。
そして衝突ダメージを即座にジャックによって回復し魔女をシバくという力技である。
多少の痛みを受けてでも魔女をぶん殴りたいと思うほどクロの鬱憤は溜まっていたらしい・・・
「・・・・・・」
「気絶してますね・・・ その・・・どうします?
「コイツも魔女なら「三つ目」を知ってるかもしれないし・・・・
とりあえず縛り上げ・・・・え!?」
ガシャン・・
「ゴーレム!? なんで外から?」
なんと、残っていた2体の石ゴーレムが魔女の危機を察知し、
塔の外壁を登ってきたのだ。
ガッ!
「あ!」
「ッ!」
クロとジャックが呆気にいる隙に素早く魔女を抱え込み、
反対側の窓から飛び降りていく・・・・
「ゼェ・・・ゼェ・・・くっそあいつら・・・・」
数秒後、息を切らしたトシがゴーレムと同じように這い上がってくる。
どうやらゴーレムを追って大急ぎでよじ登ってきたようだ・・・
「ハァ・・ハァ・・・ 無事か? ゴーレムは? 魔女は?」
「トシさん・・・その・・すいません」
「ゴメン、逃げられた・・・」
「・・・・そっか・・」
有益な情報も得られぬまま又しても魔女に逃げられ、
落胆する3人であったが・・・・思わぬ収穫もあった。
「木箱がこんなに・・・ どうやらあの魔女、引越しの最中だったみたいですね」
「あぁ、最初のゴーレム達は荷物を運び込むため群がっていたんだな・・・」
「ねぇ! ちょっと! けっこう高価っぽい物入ってるわよこの箱♪
貰えるだけ家に持ち帰りましょ♪」
「え? ガゼットへは?」
「そんなの明日でいーじゃない♪
あ! あそこに良さ気な荷車がある♪
ほら! 片っ端から積み込むわよ♪ 早く!」
「クロ姉さん・・」
「・・・・」
一行は魔女の引越し道具を手当たり次第に奪い取り、
故郷の町へと一旦帰る事にした。
こうして半日にも満たない短すぎる旅が終わり、
3人は馴染みのベットでぐっすりと休んだ後、再び「ガゼット」へ向けて出発するのであった。
呪いによる年齢変化
【トシ】 『18歳 90日』 → 『18歳 160日』
【ジャック】『17歳 10日』 → 『17歳 75日』
【クロ】 『19歳 60日』 → 『19歳 100日』