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運命の恋人〜クリスマスに出逢えた奇跡〜

「エンジェル・ウイングス」と「運命の恋人」この2本で『恋愛小説集・君に会いたい、今すぐに会いたい〜クリスマス・ラヴ〜(セイ・エニシング)』の完結となります。読んでくださってどうもありがとうございました!「運命の恋人」は若い恋人たちの物語です。

 私が彼と出逢ったのは12月22日高校の終業式を終えて、学校帰りのバスでのことだった。



 珍しく雪が降りそうな夕方。私は何気なく窓の外を見ていたら、彼が前方の道路から飛び跳ねて浮かぶように走ってきた。

 運転手さんに手を振りながら、出発間際のバスに、駆け込んで飛び乗った。



 「運転手さん、待ってくれて本当にありがとうございます!助かりました!」と彼は呼吸を乱しながら運転席に行き運転手さんの肩を優しく叩いて言った。



 「いえいえ、こちらこそ御乗車どうもありがとうございます」と運転手さんは珍しく微笑んで言った。



 彼が振り返ると、私は息が止まりそうなほど胸が高鳴り、キューピットの矢がダイレクトに自分の胸に刺るような痛みを感じた。



『カッ、カッコいい♪イケメンすぎる!』



 彼は私の隣の席に目をやると「空いてた!ラッキーだ!」と言って近づいてきた。私は胸が熱くなっていた。



 「あのう、すみません。隣の席に座っても大丈夫ですか?」と彼は私に丁寧に言った。



 「はい、どうぞ。すみません。今、鞄を退けます」と私は言って急いで鞄を自分の太ももの上に置いた。



 「ありがとう」男の子は着ていたグレーのダッフルコートが似合っていた。

 制服を見ると進学校の青雅高校(あおみやこうこう)の制服だ。髪は前髪にが目に掛かるくらい伸びていてミュージシャンっぽい雰囲気があって素敵だった。目が大きくて澄んでいた。身長は178センチくらいはあると思う。私が162センチあるから、それくらいの感じに見える。



 彼から、ほのかに甘い香りがした。チョコレートの匂いだ。案の定、彼は椅子に座って最初にしたのが胸ポケットからチョコレートを取り出して小さく手で割ってから食べ始めたのだ。

 私はいい匂いに頭がクラクラして、気持ちがゆらり揺られて振り子のようになって、心臓が飛び出そうで、完璧に落ち着きを無くしていた。



 「食べるかい?」と彼はチョコレートを半分に折って私に差し出した。彼は笑顔で私を見つめている。彼の口元にチョコレートが付いていたので、拭き取ってあげたい衝動が出てきてしまった。



 『こんな時、男の子の彼女さんがいたなら、すぐハンカチで優しく拭いてあげるんだろうなぁ〜』と私は自分の妄想に何故か嫉妬した。



 「いいえ、大丈夫です。すみません。どうもありがとうございます!」と私は言った直後に「グルルルルー」と大きな音でお腹が鳴ってしまった。かなり周りに聞こえる音だったので、私は赤面しながら恥ずかしくてうつ向いてしまった。



 『あたしのバカーッ!!最悪!!とんでもなく恥ずかしい。これは絶対に嫌われたね。彼は確実に変な女だと思ったと思う』と私は心の中で後悔して思った。



 「雷みたいな見事な音だったね。良いサウンドだったよ。このチョコレートは本当に美味しいからさ、ぜひとも食べてみてよ!」と彼は言って先ほど半分に割ったチョコレートを私の手に持たせた。

 私は彼の大きな手に握られて包まれていると幸せな気持ちになっていった。



 「すみません。ありがとうございます」と私は言ってチョコレートを、ひとかじりした。



 彼は鞄から文庫本を取り出して静かに読み始めた。『何の本かしら?』と私は思ったので、鼻の下を伸ばしながら覗いてみたけど、よく分からなかった。



 茶色のブックカバーをしているし。


私は小さく肩を竦めると、彼がブックカバーを外して本の表紙を私に見せてくれた。偶然にも2ヶ月前に読んだ事がある本だった。



「本は良いですよね。この本は面白いですよ。読んだことありますか?」と彼は言った。



 「あります!前に読み終えたんですけど、良かったですよ!」と私は喜んで言った。



 「そうなんですか?同じ本を読んでいたなんて偶然ですね!この本はこれで三度目なんですけど面白いです」と男の子は頬を赤く染めて笑った。

 私は彼の笑顔と人懐っこい性格に好感を持った。



 「僕は西崎玲音(れおん)です。青雅高等学校2年生です」と玲音君は頭を下げて言った。



 「私は東愁女子高等学校2年生の河合加奈です」



 「加奈さん、どうぞよろしくね。加奈さん、東愁女子高等学校は名門の女子校だね。うちの学校の男子は、皆、東愁の女子に憧れているんだよ」と玲音君は言った。



 「そうなんですか?同じですね!私達の女子校も実は青雅高等学校に憧れているんですよ」



 「近い場所に学校があるから、気持ちも近づきやすいのかもしれないね」と玲音君は笑いながら言った。


 「フフフ。そうかもしれないですねー!」と私も、なんだか嬉しくて笑った。


 「加奈さん、僕は映画が好きなんだけど、加奈さんは好きな映画とかありますか?何かお薦めの映画はありますか?」と玲音君は言った。



 「映画は大好きですよ!私のお薦めは『ゴースト/ニューヨークの幻』です」


 「あー!名画だね!!僕も何回も見たよ!デミ・ムーアが可愛いんだよね。パトリック・スウェイジもひた向きでさ、一途な愛を貫いていてカッコいいんだよね」と玲音君は言い、目を閉じて映画を思い浮かべるような顔をした。



 「主題歌の「アンチェインド・メロディー」が素敵すぎますよねぇ!ろくろを回すシーンを見たうちのお母さんが『私もろくろを回したいわ!教室を見つけて電話せにゃならん』と言って1週間後には、習い始めましたもの。うちで練習をする時も「アンチェインド・メロディー」を掛けながら練習しているんですよ」



 「あはははは!素敵なお母さんだね!行動力が凄すぎだよ。僕はね『スタンド・バイ・ミー』がお薦めなんです!」



 「あー!わかります、わかります!素敵ですよねぇ〜っ!!」



 「音楽も凄く良いんだよねぇ!主題歌の「スタンド・バイ・ミー」が素晴らしいよね!こんな感じで『♪ぼん・ぼん・ぼ・ぼ・ぼん・ぼん、えぇんでなぁいっ、はず、かぁも。あんざぁ、らんでぇ、えず、だぁっ♪あんぜぇもぉーん、いずいおんれい、らうえせぇい♪』ってな歌でさ。ベン・E・キングの歌声が懐かしさを表現していて、良いんだよね!素敵だよなぁ〜」と玲音君は言って再び歌を歌詞を1番だけ披露した。



 バックミラーの運転手さんの顔が笑っていた。




 優先席に座っていた杖を持ったお爺さんも玲音君の歌に合わせて首でリズムを取って頷いていた。前のつり革に掴まって立っていた他校の女子校生3人もウットリと聞いていた。




 玲音君の歌は、ものすごく上手かった。誰もが聞き惚れるとはこの事で本当に上手かった。

 普通だったら友達が外で大声で歌ったら『恥ずかしいから止めなよー』と注意して促すけれど、玲音君は綺麗な歌声だし凄く上手いし、いつまでも聴いていたかった。




 「ところで加奈さん、寒くはないかい?」と玲音君は腕を擦る仕草を見せた。



 「そうなんですよ。急に冷え込みましたよね?」と私はソワソワしながら言うのと同時にバスの運転手さんが私の話しに被せるように割り込んで話し出した。



 『えー、本日はバスの御乗車誠に誠にありがとうございます。えー、お客様に御連絡をお知らせ致しますっ。えー、只今、私が運転していますバス2412号が、えー、ヒーターが故障した模様です。えー、私は車の調子が悪いだけだと思いますので、えー、何らかの接触が戻れば再びヒーターは回復すると思われますので、えー、御了承ください』と言った。



 「なるほどな。それで寒くなったんだね」と玲音君は言った。



 「ヒーター直ると良いですよね」と私はマフラーを掛け直して言った。

 玲音君が私を見てニッコリと笑うと自分の鞄を開けて何やら探し始めた。




 「あった!はい、加奈ちゃん、どうそ」と玲音君が取り出したのは、まだ、袋が開けられていないホッカイロだった。



 「えーっ!!い、良いんですか?でも玲音君が寒いと私が困りますよ」と私は言った。




 「いや、僕の分も全然あるから大丈夫!ホッカイロはあと5つもあるんだよ」と笑って言った。



「ありがとう!!」と私は言ってホッカイロを暖めた。玲音君も自分の分のホッカイロを取り出して暖めた。お互いに顔を見合わせてニッコリと微笑み合った。 



前の席に座っていた中年の男性が振り返って「おい!坊主!俺の分のホッカイロをよこせよ!寒いんだよ!早く出せよ!」と態度悪く言ってきた。



私は自分の顔色が青く変わっていたと思う。




 玲音君は黙って静かに男を見つめると停車の押ボタンを押した。



「次のバス停の近くに、できたばかりのドラッグストアがあるから、降りると良いですよ」と笑顔で答えた。




男は自分の行いに気付き、恥ずかしくなったのか渋々頷いてから窓の外を見た。



 私は胸が震えていた。玲音君の立派な対応の仕方、大人の振舞いに私は胸が熱くなっていた。 同じ17歳とは思えないほどの冷静で大人びた行動に、私は最近覚えた言葉で言うと、まさに『感服』をしてしまった。



 「いやぁ、暖まるね」と玲音君はホッカイロを擦りながら言った。



 「本当ですよね」と私もホッカイロを擦りながら言った。



 「加奈さん、クリスマスイブ、クリスマスが、もうあと2日だけど早いよね?」



「本当に。早いよねぇ」



「加奈さんは、クリスマスイブは何か予定とかあるんですか?」



「私は、私は、そのう…」と私はしどろもどろになって躊躇った。何も予定が無い事が恥ずかしく思えたから。



 『予定はないのだ。全くないのだ。これで良いわけがないのだ。臆病な私だって本音は恋をしたいのだ。親友の華絵(はなえ)が「加奈ちゃ〜ん、私にも遂に恋人が出来たよ〜!がっはははは!」と笑って、はしゃいで電話してきた時には、正直、私はかなり落ち込んだ。私だって玲音君みたいなハンサムで素敵な男の子と本気の恋がしたいのだ!加奈ちゃん、しっかり!しっかりしなさーいっ!』と私は心の中で自分を叱って激励した。



「僕はね予定が無いよ」



「はっ!?」



「クリスマスイブは幸せな日だしさ、1年で1番待ち遠しい日だけど、何にも予定がないとやっぱり寂しいものがあるよね。あはは!」と玲音君笑って言ったけれども、ちょっと切なそうな瞳をしていたのを私は見逃さなかった。


「あっ!!加奈さん!雪だよ!!雪だ!雪だ!」と玲音君は窓の外を指差した。

私を含めて他の乗客も一斉に窓の外を見つめた。

皆の顔が優しく綻んでいくのが分かった。



 「わあー!!本当だぁー!雪だよっ!!すっご〜い!!」と私は窓に顔を寄せて見つめた。滅多に雪が降ることが無いので私は興奮した。 雪がこんなにも多く降るのも生まれて初めて見た。


 私は素敵な景色。夢の世界、幻想の世界へと運んでくれる自然の神秘に感動していた。

 雪は可愛いということも分かった。テレビで子供たちが雪の中を走り回る訳が分かった。



「加奈さん、雪が降って良かったね!きっと週末はホワイトクリスマスになると思うよ!」

「そうだね!初めてこんなに雪が降るのを見たよ!」



「加奈さん、僕は次のバス停で降りるよ」



「えっ!!」



「加奈ちゃんと話せて、とても楽しかったよ。ありがとう!」



「……。」



「加奈ちゃん?」



「私は」



「うん?」



「私はもっと話ていたい」


「加奈ちゃん」



「玲音君」



「そうだ!加奈ちゃん!美味しいチョコレートパフェを作るカフェがあるんだ。一緒に次のバス停で降りてカフェに行こうよ!」と玲音君は私に席を立つように促しながら話した。



「うん!!」と私は言って、喜んで、幸せで、嬉しくて席を立ち上がった。

私達は見つめ合い「よし!走ろう!」と玲音君が言うと、手を繋いで雪の中を走り出していった。




ありがとうございました!


皆さん、

メリークリスマス!



今宵は素敵なイブを過ごしてくださいね♪

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