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エンジェル・ウイングス「ライヴ!」

ホワイトクリスマスは恋人のために、愛する人のために、大事な人のために、あるのです。クリスマスは愛を伝える日です。


「ドキドキ札幌ホール」の入り口前では、たくさんの行列が並んでいた。この寒い中を、今か今かとファンたちが待っている姿を目にして、私は胸が熱くなっていた。さすがYさんだ。


『私もいつかはこんな風に、ファンたちに愛されるミュージシャンになりたい!』と私はタクシーの窓から眺める行列を見て心に誓った。


『必ず今よりも、もっと陽の当たる場所へと降り立つ事が出来るはずだ!と信じて、これからも音楽を続けていきたい!』と私は決意を固めた。


コーラス、バック・ヴォーカルリストは、参加ミュージシャンの全体と上手く調和していく事が必要だ。音に対しての躊躇いや迷いは許されない。私の心に少しでも不安が過れば、たちまち音は私を警戒し拒絶をしてしまうのだ。繊細な音を自由にすること。『おいでよ。大丈夫だよ』と安心させて、どれだけ広がりを持たせて伝えるかに掛かってくるのだ。


コーラス、バック・ヴォーカルリストの中には、とてつもない才能の持ち主がいる。『なぜ?いつまでも影に隠れて歌っているの?』と思わせるような極上な才能の持ち主がいるのだ。

彼ら彼女らは気が優しいのだ。『誰かの力になれたなら、それだけで私たちは十分だし満足なんだよ。でも…、チャンスを待ってもいるんだ。いつかは私もスポットライトを浴びてみたい!』と自分達の夢を二番手に置きがちになっているのだ。


ある意味、利用されやすい立場に置かれてもいる、と感じてもいる。嫉妬するほどの可能性を秘めているコーラス、バックヴォーカルリストの歌姫達を、そう易々とは手放したくはない、とミュージシャン達が思うのも本音で、当然な事だとは思う。


コーラス、バック・ヴォーカリスト達に共通するのは、どこか遠慮がちで控え目な性格が災いの元なんだと思っている。災いは失礼かな?大袈裟な言葉だけとね。見ていて、何度も目の前にチャンスがあるのに、取り逃がしてばかりで、遠退いていくように感じてはいる。頻繁にチャンスが訪れているのも、また事実。


私の場合はソロのミュージシャンとしての、これからのステップアップ、勉強という気持ちで捉えていることが凄く大きいので、卑屈な気持ちでコーラスには参加はしてはいないのだ。


『楽しくやろうよ!』という前向きな姿勢で陽気な気持ちで音楽をしている。これは非常に大事な事だと私は思っている。


『ドキドキ札幌ホール』は凄く音響が良いところで歌いやすい。明確に全ての楽器や声が分離して聞こえるので実に見事!と言うしかない貴重な場所だ。


私は控え室に向かった。慌ただしくスタッフが動き回る中、Yさんが私の後に続いて無事に到着したとの知らせをマネージャーから受けた。


よし!これで準備万端だ。全てのカードが揃った。時刻は午後5時10分。ライヴまで、あと約3時間。お陰様でチケットは発売と同時に完売したとのこと。いつもながらYさんの人気ぶりに舌を巻く。本物のアーティストとしての証明。


私はマネージャーが用意してくれたドレスを見つめていた。私の服は友達のファッションデザイナー、麻美が担当で、ここ5年くらい彼女に任せている。麻美はニューヨークでも高い評価を受けていて、世界的なデザイナーになる素質や可能性が高いデザイナーだ。エネルギッシュな彼女の姿が目に浮かぶ。女性が色んな世界で活躍するのは本当に素晴らしいし、嬉しい事だと思う。


麻美の服の特徴は、黒と青を上手く使っていく斬新なデザインや、前衛的なセンス、時には麻美のベースとも言えるモダンなセンスを表現することにあった。


50年代はビートニクの時代。誰も彼もが実存主義について、熱を帯びたように語り明かしたそうだ。


モノクロ。黒と灰色と白の世界。色彩が放つ60年代の『嵐の前の静けさ』。麻美の最近のコンセプトは、この時代をイメージした服を作ることにあった。表現とは常に進化していき変わりゆくもの。


今の麻美が求めているのは50年代だということ。


麻美のスケジュールはほとんど空いていなかった。無理を承知で麻美と半年間かけてコンタクトを取りながら、作って頂いた貴重なドレスになる。


今回、私が色鉛筆で紙に描いたドレスのイメージを元に、麻美に作って頂いたドレス。私は3着のドレスの中から、真剣にドレスを選んでいた。左のドレスが気に入った。黒いドレスだけと、胸元と膝の辺りに青い色が混ざり合っているのが斬新でカッコ良かった。後の2着は次のライヴで着ようと思った。


マネージャーと談笑しているともう一人のコーラス、梢ちゃんがフラりと現れた。

――――――――――――7


「花梨ちゃん、写真を撮ろうよ〜!」とやって来た。


「良いよ〜!」と私は言って梢ちゃんに抱きついた。パチリと1枚。


「インスタに載せても良い?」と梢ちゃんは言った。


「写り具合を確認の上で判断するわ」と私は言って梢ちゃんのスマホを覗き込んだ。なかなか良い感じだった。


「オッケーです♪」と私は両手で丸を出して言った。


「花梨ちゃん、やっぱりライヴの初日は、いつもドキドキするし興奮もしちゃうよね!慣れないなぁ」と梢ちゃんは部屋を落ち着きなく歩き回って言った。


「確かに初日は私も緊張するよ。梢ちゃん、大丈夫だよ!梢ちゃん、Yさんは到着したみたいだけど、今なら挨拶に行けるかな?」と私は梢ちゃんに聞いてみた。


「大丈夫だと思いますよ。私もこれからYさんに挨拶に行く所ですから」と梢ちゃんは言って部屋を出ていった。


「じゃあ、私も挨拶に行ってきます」と私はマネージャーの佐智子に言って部屋を出た。


梢ちゃんがスタッフの方に呼び止められて話し合っていた。私は梢ちゃんの前を通り過ぎる時に梢ちゃんとスタッフに挨拶をした。


「あっ、花梨ちゃん!待って!待って!花梨ちゃん。お疲れ様です。花梨ちゃんにも、今、言いに行く所だったんだ。Yさんがね、左足を痛めたみたいなのさ。だからYさんは、今回、ライヴで歌う時には、椅子に座ったままの状態で歌う事が決まったからね。本人は『立ったままでも大丈夫だ!』、とは言うけれども、大事をとって、念のためにという事で、スタッフからも『座ってください』と、お願いをしたからね」とツアーのスタッフの吉村さんは言った。


「はい、分かりました。Yさんは、今、控え室に居るのですか?私は今から挨拶をしたかったのですが…」と私は聞いた。


「あっ、それは大丈夫だと思いますよ。本人は元気だしコンディションも良いみたいです!挨拶なら全然、大丈夫です」と吉村さんは言って、他の用事のために、向こう側の部屋に向かって全力で走り去った。


私と梢ちゃんで、Yさんの控え室に行った。


ノックをして部屋に入ると、Yさんは普段通りに元気そうだったので、私は胸を撫で下ろした。


ギタリストの聖二さん、ベースの隆夫さん、ドラムスの祐司さんも一緒にいて、和やかに談笑をしていたみたいだ。バックバンドのキーボード、ピアノ、ヴァイオリン4人、トランペット3人の方もいた。


「いやぁ〜、花梨ちゃん、梢ちゃん、ごめんよ。あははは!札幌駅から、ここまでタクシーで来たんだけどね、乗る時にさ、滑って転んじゃったんだよ。あははは!マスクとサングラスをしていたから、足元があまり見えていなくてさ。いやぁ〜、久しぶりに転んだよ。あははは!周りに僕のファンが居なくて良かったよ」とYさんは照れながら言った。


「良かったです!無事でなによりです!それこそ、頭でも打ったら本当に大変な事になりますよ」と私は笑顔を浮かべて言った。


「まさに。頭とか打ったらヤバイよね」とYさんも言った。


「Yさん今日も頑張りますので、宜しくお願い致します」と私と梢ちゃんは頭を下げて言った。


「こちらこそ!いつもありがとうございます!宜しくお願い致します。ライヴを成功させるために頑張ろうぜっ!」とYさんも丁寧に言って頭を下げた。


午後6時になりホールで全員の演奏によるリハーサルを、約40分近くかけて念入りにチェックの演奏をした。リハーサルが終わると、全員の無事を願う意味を込めて写真撮影をした。


入念なリハーサルと写真撮影が無事に終わり、開場を午後7時から開けた。約3万7千人近くもお客様が来ているみたいだった。

私は控え室で梢ちゃんと音合わせをしていた。


時間は午後7時50分。舞台の袖で皆で円陣を組んで祈りを込めた。気合いを入れて、ライヴの始まりを待つだけとなった。


午後8時。ベースとドラムのリズムセッションが始まる。観客の歓声が轟音と化していた。拍手や叫び声が響き渡る。ベースが激しいビートを刻み込んだ所でギターが絡み付いてきた。ギターとベースの一騎討ちだ。どちらも譲らないし、引くわけにはいかない。一流ミュージシャンの魂の交感。私の血が騒ぐ。ドラムの激しい連打に私の心臓が破裂しそう。スケールの大きな官能を帯びたギターソロがうねりを上げていく。たまらない。吐息が漏れそう。ピアノとキーボードが躍動感溢れるプレイを披露していた。ベースがうねりまくっていた。ギタリストの聖二さんが笑っていた。負けずにギターをかき鳴らしながら、流麗なギターソロを弾きまくる。


いつもなら、Yさんが激しいシャウトしながら走って登場するのだが、今回は足の怪我のために、ゆっくりと歩いてシャウトしながら登場した。舞台の中央には椅子がセッティングされていた。


観客の熱気は一気に最高潮に達した。


「おーい!いくぜ!!」とYさんが思い切り叫ぶ。


観客が総立ちで熱狂していた。ホール全体が揺れていた。


自由な世界へようこそ!


これがロックの素晴らしいところだ。


――――――――――――8


ライヴも終盤を迎える頃だった。私はいつもより自分の声が出ていてテンションが高かった。隣で歌う梢ちゃんも、いつもより声の調子が良かった。


残すところあと3曲だ。壮大なラヴソング「シークレット」を歌っていた時の事だった。「花梨ちゃん。前列に凄いハンサムで良い男がいるよ!」と梢ちゃんが言ってきた。


「えっ!?どこ?」と私は梢ちゃんに聞いた。梢ちゃんは顎を2回ほど動かして場所を示した。


私は、さりげなく前列を見てみた。


そこには、あの人がいた。私は再び激しい鼓動に襲われていく。『なんでいるの?』と思ったが胸がキュンとしてしまう。『ああ、これは、いよいよ本当の恋なのかもしれない』と私は抗えない気持ちがあるのを遂に認めてしまった。


コーラスは照明があまり当たらないので常に薄暗い。あの人は私に気づいていないみたいだった。


胸の高鳴りが止まらないでいた。私は『気付かれませんように!』と念じてもいた。私は『美月が彼に言ったのかもしれない』など、他の考えに気を取られていた。


私は「シークレット」のエンディングでトチってしまった。Yさんが気付いて私に振り向く。ヤバイ…。何とか、歌いきったが、かつて無いほど後味が悪かった。


残り2曲はプロとしての意地を見せて完璧に歌いきった。Yさんも私を見て微笑んで頷いてくれた。


観客の歓声が止まない。私たちは観客に頭を下げて感謝の気持ちを伝えた。観客の熱気は舞台にも伝わっていた。暖かい心を感じていた。


Yさんが『前においで』とメンバー全員に手招きをした。私は照れながら、梢ちゃんの手を握り締めて前に出た。バンド・メンバー全員と手を繋いで観客の歓声に答えた。


「ありがとう!また会おうなっ!」とYさんは叫んだ。


観客の拍手が鳴り止まなかった。私はあの人をいつまでも見つめていた。


あの人も、慈しむようにいつまでも私を見つめていた。



つづく


ありがとうございました♪なんとか第4話を徹夜で完成させました。おやすみと言いたいけれど、朝です。また宜しくお願い致します。

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