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エンジェル・ウイングス「バラードになりたくて」

恋は素敵だなぁ♪



「エンジェル・ウイングス」は珍しく、しっとりとした小説になっているので、大人の雰囲気が出ていると感じています。



楽しく読んでくださいね!



 私はヴィーナスホテルに向かうことにした。


 札幌駅の改札口を抜けて左に曲がると札幌ステラプレイスがあった。

外に出ると雪混じりの冷たい風が体を突き抜けた。頬が一気に強張る。


 雪が優しく降っていた。私はワクワクしっぱなしでいた。雪を静かに見上げては笑顔が零れていく。

 ステラプレイスから少し出た場所の入り口には大きなクリスマスツリーが飾られていた。

 クリスマスツリーの電飾が色とりどりに変わってくのを見つめた。


 行き交う人はロングコート、ダッフルコート、トレンチコートが多い。私は東京では見掛けた事がないデザインの冬物のコートに目を奪われていた。


 何よりも驚いたのは女子高生の姿だった。この寒い中をスカートを履いているのだ。マフラーで顔を覆い隠すように掛けていて、かじかんだ手を擦りながら重そうな鞄を背負っていた。 私は女子高生に駆け寄り話し掛けてみた。


 「すいません。お尋ねしますが、ヴィーナスホテルは何処にありますか?こっちの方角でしたかねぇ?」と私はポケットサイズのマップを広げて見せた。

 いつも泊まるホテルとは今回は違っていて、ヴィーナスホテルは初めて行くので道を聞いたのだった。


 「う〜んとですねぇ…、そうですよっ。あっちにありますっ!」と女子高生は笑顔で言った。あどけなさが残る可愛い笑顔だった。

 「ありがとう」と私は言ってから、もう1つ、聞いてみたいことがあった。


 「ねぇ、スカート姿は寒くないの?体調は大丈夫?風邪とか引かないかい?」北海道の人は寒さに強いはずという言い伝えを確認してみたかったのもあった。

 「寒いですよぉ〜っ♪スカートなんて履きたくないけれど、校則で決まっているから仕方がないのです」と女子高生は笑顔を浮かべて言った。頬がピンク色に染まっていて可愛らしい。白くて透明で本当に綺麗な肌だった。

 札幌の女性は肌が綺麗な人が多い。見る限り女性は綺麗な人が多かった。

 私は『ファンデーションを変えなければならないなぁ〜』と思った。


 「分かりました。どうもありがとうございます。帰宅途中にすみませんでした。気を付けて帰ってくださいね♪」と私はお辞儀をして言った。


 「はぁ〜い♪」と女子高生は手を振りながら去っていった。


 真っ直ぐ一本道を行けば良いようなので、ゆっくりと歩きながら大通公園の近くにあるヴィーナスホテルへと向かった。

 ホテルはシックな感じの佇まいらしい。


 雪が綺麗だ。私は信号待ちをしている間も、空から降る雪に見とれていた。

 ゆっくりと揺られて降る雪は幻想的で、手のひらに雪を乗せると一瞬で消えてしまう。


 『全部かき集めて食べてみたい!映画の世界にいるみたいだよ!』と私は、はしゃぎたくなる気持ちを堪えた。


 札幌は『旅行に行きたい都道府県全国1位』。

 『都道府県魅力度ランキング全国1位』。

 『恋が叶う街ランキング都道府県全国1位』。

 『住みたい街ランキング都道府県全国1位』。


 私から見ても本当に札幌は魅力的な素敵な街だと強く感じていた。


 美月は『夢の中にいるみたいな街だよっ!』と言っていたっけ。


 『札幌って、冬は寒いけど、人や街が暖かくて雰囲気が心地良くて良いんだよなぁ!』と私は思った。

 ヴィーナスホテルは、お洒落な外観をしていて、話で聞いていた通りにシックな印象で好感が持てた。


 ホテルには、すでに前日に現地入りをしているメンバーやスタッフが宿泊していた。 Yさんは東京での別の仕事があったので、ライヴ開演の2時間前に札幌に到着する予定になっていた。


 私自身も来月のライヴの打ち合わせと、雑誌の取材を2本受ける仕事が入っていたので、1日遅れのツアー当日に札幌へ来たのだった。


 この後1時間近くリハーサルをするので、チェックインをしたら、すぐさま、『ドキドキ札幌ホール』という場所に行く事になっている。


 その前になんとか僅かな時間の隙間を狙って美月に会いたい。


 ホテルのラウンジでは買い物帰りの団体客が談笑をしながらコーヒーを飲んでいた。

 観光客が落ち着きなく行ったり来たりをしていた。 通訳の方が身ぶり手振りで事情を伝えていた。 ホテルは時間帯もあるのか混雑していた。


 私はフロントに行く事にした。


 受付で自分の名前を伝えて、予約をしている事を伝えた。


 「花梨様、本日は当ホテルへようこそいらっしゃいました。どうもありがとうございます。早速、荷物を運ばせますので、お待ちになって頂けますか?

 鈴木くん、5階の501号室まで荷物を運んで貰えますか?」と受け付けは、私の隣に立つベルボーイに向かって丁寧に言った。


 「かしこまりました」とベルボーイは素早く頭を下げると私の荷物を持って「お客様、こちらへどうぞ。足元にお気を付けくださいませ」と言ってエレベーターへ私と一緒に向かった。



――――――――――――



 部屋は現代的な作りになっていてお洒落だった。

 時間がないので私は部屋に入るのと同時に、インスタ用の写真を撮ることにした。洗面所に行き、鏡で身だしなみのチェックを済ませた後に、ベッドに向かった。

 鞄をテーブルの上に置くとレースのカーテンを開けた。雪景色の夜景が見事で綺麗だった。


 形良い山並みも、くっきりと見えていた。私は向こうのビル郡に観覧車がビルの上、つまり建物の上に設置されているのを見て驚愕した。

 私は観覧車の写真を1枚パチリ。大通公園を3枚パチリ。キメ顔を5枚パチリと撮った。 私はメッセージを書いてすぐにインスタに写真を送付した。

 選んだ写真は私のキメ顔と観覧車に決めた。


 私は美月に電話を入れることにした。


 『美月、チェックインを済ませたよ。今からエンジェル・ウイングスに顔を出すけどさ長居はしないよ。 明日のために、雰囲気を体に馴染ませに行くだけだからね。タクシーに乗って行くよ。ヨロシクね!』


 『わかったよ〜っ。気を付けておいで〜。ココアを飲みにおいで〜』


 時刻は午後4時10分。私はホテルを出るとタクシーに乗り込んだ。


 大通公園にはクリスマスツリーのイルミネーションが並んでいた。カップルたちが肩を寄せて腕を組んで歩いていた。羨ましい。 私は動画でその様子を撮影してからスマホを鞄にしまった。


 タクシーが信号待ちをしていた時のことだった。


 私は何気なく窓の外を見ていたら、黒のコートを着た見覚えのある男性の歩く姿が目に入った。


 「あっ!あの人だ!」と私は声を漏らした。札幌駅で乗車券を拾ってくれたあの人だった。


 私は胸に手を当てた。激しく胸が高鳴っていった。 男は襟を立てて猫背気味に背中を丸め、寒そうにポケットの中に手を入れて上目使いで歩いていた。


 男の歩く姿は、映画のワンシーンを見ているように優雅な物腰だった。存在感があった。


 これでも私は一応、芸能人だけどれも、彼は物凄く魅力的な男性だった。

 ここから気付かれずにあの人を覗き見ているのはちょっとしたスリルだった。

 私はあの人が信号待ちをしている間の様子を探っていた。

 あの人はポケットから手を取り出してから口元に被せるように当てて、暖かい息を手に吐いて温めているのが分かった。


 あの人の隣に赤ちゃんを抱っこしている若い母親がいた。

 あの人は赤ちゃんに向かって笑いかけた後に、目を寄り目にしてから口を膨らませた。それを見た母親は赤ちゃんを揺らしながら笑った。

 赤ちゃんも「キャッキャッキャッ♪」と喜んで笑っていて、あの人に腕を伸ばして触ろうとした。


 あの人は母親に何か話し掛けていた。母親は大きく口を開けて笑っていた。タクシーの中まで聞こえてきそうな笑い方だった。

 私は二人のやり取りを微笑ましく見ていたのだが、少しだけ、嫉妬に似た面白くない複雑な感情と気持ちが生まれていた。


 彼の優しい人柄が見れた瞬間でもあったので、『素敵だなぁ、嬉しいなぁ、優しいなぁ』という感情の方が上回り大きかったので、すぐに不安な気持ちは消え去っていった。


 信号が青に変わった。

 タクシーはゆっくりと走り出していく。男は母親に頭を下げてから手を振ると足早に歩き始めた。


 私は彼が遠のく姿を見つめていると、胸が締め付けられて寂しさを感じた。


 私はDビルの前に着くと急いでエレベーターに乗って『エンジェル・ウイングス』がある3階のボタンを連続で押した。

 エレベーターは3階に着いた。

 扉が開くとコンタクトレンズのお店になっていた。

 私は驚いてエレベーターの表示を見上げた。


 『間違った!5階だったわ』と思い出して、コンタクトレンズのお店の受付の女性に頭を下げてから5階のボタンを押した。


 『エンジェル・ウイングス』は若いカップルやOLの女性客、学生で賑わっていた。若い男の子も7人ほどいた。美月の話しだと、常連客も凄く多いそうだ。

 カフェは50席あって、全席が禁煙、営業時間は朝10時から夜の20時までとなっていた。


 店内はパリ風とポップなニューヨークをイメージした落ち着いた雰囲気のある心地良いカフェだった。


 壁の色が明るくて爽やかなクリーム色で、ビートルズや画家のマティス、ジェームス・ディーンのポスターが何枚か貼られていた。暖かみのある間接照明があり素敵なカフェだった。

 「花梨ーっ!!会いたかったよ〜!うぇ〜ん。久しぶりだねぇ〜♪花梨、外は寒かったでしょう?」と美月は私を抱きしめながら言った。


 「美月、寒かったよ〜。あまり時間ないからさ。すぐライヴに行かなきゃならないのよ。美月、明日、歌える場所は何処になるのか教えてくれる?」と私は辺りを見回しながら言った。


 「あそこだよ。おいで」と美月は私の手を繋いで、歌えるスペースまで案内した。


 カウンターの隣に間接照明に照らされた広い舞台スペースがあった。

 椅子が2脚置いてあり、アンプやアコースティックギターや楽譜などがセッティングされてあった。


 エンジェル・ウイングスでは、定期的にミュージシャンによるライヴが組まれていた。全国から名の知れたプロからアマチュアのミュージシャンが集まる場所だった。

 詩人による詩の朗読も頻繁に行われていた。


 私は歌うスペースがある舞台の場所へ上がると、間接照明に照らされているうちに、自然に気分が高揚して盛り上がってきた。 「美月ちゃん、ありがとう。明日、一生懸命に歌わせて頂きます。料金は幾ら掛かるの?」と私は美月に言って財布を取り出した。


 「花梨、今回はタダで良いよ」と美月はウインクをして言った。


 「美月ちゃん、何を言っているのよ!悪いよ…」と私はあたふたして言った。

 「今回は特別で〜す♪」と美月は明るく笑いながら言った。

 私は涙が出そうになっていた。

 友達はたくさんいるけれども、美月は苦楽を共にした、たった一人の心からの友達だった。分かり合える唯一の親友。

 涙ぐんでいたら、美月は私にピンク色の綺麗なハンカチを差し出してきた。


 「いつもありがとう。美月ちゃん」と私は言って美月に抱きついた。


 「花梨、ココアでも飲んでいきなさいな!まだ時間はあるんでしょ?」と美月は言ってカウンターの中へと戻った。


 エンジェル・ウイングスでアルバイトをしている女の子は私に会釈をした。私も会釈をした。


 「花梨ちゃん、はい!どうぞ!」と美月は言ってココアを差し出した。


 「美味しそう〜!では、いただきます〜♪」と私は言ってココアを一口飲んだ後、隣の椅子に置いてある鞄からCDを1枚取り出してた。


 「美月ちゃん、はい!プレゼントだよっ♪」と私は言って美月に手渡した。


 「うわぁ〜っ!花梨の最新作のアルバムじゃんかよおう〜っ!すごぉーいっ!花梨ちゃん、ありがとうぉ〜!嬉しい!!」と美月はカウンターから手を出して私の頭をクシャクシャに撫で回した。


 私が1年前から取り組んでいた作詞、作曲をした最新作7曲のミニアルバム。 7曲のうち3曲がバラード、ラヴソングが2曲、クリスマスソングを歌ったボーナストラックが2曲入っていた。アルバムのタイトルは『ラヴァー』。


――――――――――――

『ラヴァー』花梨


収録曲


1愛にふるえて(バラード)


2優しい(バラード)


3二人の(ラヴソング)


4愛してる(ラヴソング)


5君が恋しくて(バラード)


[ボーナストラック]


6二人のX'mas


7クリスマス・ラヴ


――――――――――――

 アルバムジャケットを撮影して頂いたのは、現在ニューヨークを拠点として活躍をしているカメラマン、蒼井龍(あおいりゅう)さんだ。期待の若手。確か34歳だったかな?大人の色気を持っている素敵な方だ。


 ジャケットはモノクロ撮影で、普段の私じゃないほど、綺麗に撮れていて私のお気に入りの1枚だった。 私はココアを飲みながら時計を見て『まだ大丈夫』と確認をした。

 「美月、さっきねぇ、札幌駅でね、素敵な人に助けられたんだよ」と言った。

 「あれ!?恋は止めたんじゃなかったの?」と美月は言ってニヤニヤ笑った。


 エンジェル・ウイングスの扉が開いた。


 「いらっしゃい!あら!」と美月は言った。


 私は振り返って扉の方をを見た。


 あの人が笑いながら美月に手をあげていた。


 「あっ、いけね!コンビニでお金を下ろしてくるのを忘れてたよ。美月さん、すぐ戻ります。ココアとパンケーキをヨロシクお願いしますね!」と言って再び店から出て行った。


 私は扉を見つめていた。ゆっくりと美月に視線を戻すと美月は頷いていた。




つづく

ありがとうございました♪次回、エンジェルウイングスは最終回です。お楽しみに!!また宜しくお願い致します。

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