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淡い夢の美しさを知っている  作者: 聖 聖冬
9/15

今此処に置かれた名前の無い花に

日中に溢れ返っていた、全ての喧騒が静まり返った夜、街の中心の広場には、これまで滞在していた時に見たよりも、遥かに大勢の人が集まっていて、中央にある台を囲む様に手を繋いで、いくつにも重なる円を作る。

少しだけ暗くなってきた空に向けて、多くの人の祈りが届いたように、ひとつだけ星が頭の真上で輝いている。


その広場の中央では、白い服を纏った男性が半円の何かを持って、太鼓の音に合わせて舞を披露する。

もう1人舞を舞っている女性が手に持つ鈴の音が空気中を響き、全てのよどみが浄化される様な、澄み渡る清らかな音色が心地良い。


献火台けんかだいの周りを囲んでいたきらびやかな衣装を纏った女性たちも舞を始め、演奏が進むにつれどんどん楽器が増えて、徐々に壮大になっていく音色に合わせ、ひらひらな衣装を揺らしながら、沢山の人が舞い踊る。

献火台に火の灯った松明を男性が投げ入れると、天高く炎が舞い上がって火柱を作り上げる。


それを合図に声を上げた人々は、献火台の周りを、ゆっくりと踊りながら回り始める。

踊っている人たちをよく見ると、変わった服を着ている女性と男性が見られる。


頭に何かが当たって、体が反射的に跳ね上がり、思わず出そうになった声を手で抑える。

人の頭に手を置いていたのはアイネで、仲直りしたヨルムがべったり腕に張り付いていた。


「ヨルムさんの服、それは何てものなのでしょうか。街の人も着ています」


「これ〜? 浴衣って言ってね〜、鬼族の伝統的な衣装なんだよ〜」


「何だ、おぬしも着てみたいのか?」


意外そうにアイネがそう言い、余計な事を吹き込みやがってと言った顔でヨルムを睨む。


「別に着たいだなんて思ってませんよ。見た事が無かったので聞いてみただけです」


「おーそうかそうか。またひとつ知識が増えて良かったのぅ、クライネたちを頼んだぞミドガルズオルム」


「んも〜。その名前は可愛くないからヨルムちゃんって呼んでよ〜、それかみーちゃんってさ〜」


「黙れ性欲の塊。三十分程で戻る」


そう言って踊りも見ずにどこかに歩いて行ったアイネに、自分の中で少しだけ嫌な評価が付いてしまう。


「この浴衣はね〜、私の鱗で出来てるのよ〜。私たちは服を自在に変えられるの〜、確かに千切って服にする事も出来るけど、鱗千切るのって相当痛いのよね〜」


「そうなんですか、劣等種なのでそんな事出来ません。鱗って千切ると痛いんですか?」


「ん〜? そうね〜、どれ位かって言うと〜。ぐるんぐるん回されて壁に叩き付けられる位かな〜」


「例え方が下手ですね、でも痛いのは何となく分かります。そうですか、鱗は痛いんですか」


自分の着ているワンピースと、寝るときに着ている寝巻きは、アイネの鱗で作られているものだ。

アイネを追い掛けようと広場から離れて道を進むと、来た時には無かったが、道端に沢山の花が置いてあった。


「あの、この花は何なのでしょうか」


通りすがった男性に聞いてみると、立ち止まって、笑顔で説明をしてくれた。


「それはね、この街から戦争に行った人たちの冥福めいふくを祈って手向たむけられるんだ。主に妻と子どもが居たやつのが置いてあるんだ、もちろん置いた人は察してくれ」


「有難う御座います。すみません、変な事を聞いてしまって」


道端の花の前にしゃがんで手を合わせ、消えたアイネの捜索を再開する。

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