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淡い夢の美しさを知っている  作者: 聖 聖冬
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愚かな種族

丸1日を消費して目的の街であるダイトに到着したが、目の前に広がる光景は、私が勝手に想像していた以上に酷い状態だった。

街を歩く人の顔に生気は無く、下を向いて歩く人ばかりとすれ違う。


大きな街と言う事で期待をしていたが、その期待は、何の抵抗もせずに、見事に打ち砕かれた。

街の出入口で先に入っていったアイネを待っていると、難しい顔をして帰って来た。


「この街もか、本当に愚かな種族だな。同族同士で殺し合うなど、それも他国の領土が欲しいという理由で」


「ドラゴンだってよく縄張り争いをすると聞きますよ、同じレベルじゃないですか?」


「人間みたいに殺し合う訳では無い、ごく一部の過激派はそうもいかんがな。少なくとも我々は遊ぶ時だけだ」


「ドラゴンの遊びで山がひとつ消されたら人間も困るんですよ、動物たちも住処を追われるんですから」


低飛行な言い合いをする私たちを、ジャンヌは微笑ましそうに見ている。

少し恥ずかしくなった私は、もう一度街を見回して、わざとらしく店に駆け寄る。


遅れて隣に並んだジャンヌに髪飾りを見せると、アリスがジャンヌの背中に飛び込む。


「痛いですアリスさん、私は藁人形じゃないですよ」


「沢山ジャンヌみたいな格好の人が来たよ」


アリスが指差す街の入口に振り返ると、度々村に来ていた騎士が持っていた旗と、同じ旗を掲げた騎士が街に入ってくる。

ジャンヌとアリスの腕を引いて道の脇に退くが、アイネは道の真ん中から動かない。


「アイネさん、早くこっちに来て下さい」


「何故私が劣等種如きに道を譲らねばならんのだ、道を譲るのは奴らの方だ」


「良いからこっちに来て下さい、この高飛車たかびしゃドラゴン」


「なんじゃと生意気小娘、私は高飛車なのではなく、これが当然なのだ」


「それを高飛車と言うのですよ莫迦ばかドラゴン」


「おぬしな、私が貴様に手を出せんとでも思うておるのか」


興奮のあまり角と尻尾が出ているアイネは、それに気付かずにこちらに来る。

道から退かせると言う本来の目的を達成したが、それよりも大きな問題がアイネのお尻の下で、右に左にゆらゆらと揺れている。


ジャンヌが右手で剣を抜き、素早くアイネの尻尾を切り落として、アリスが千の剣でそれを細かく斬り刻む。


「おぬしら、何故囲む」


処理出来ない角を隠す為に背の高いジャンヌが前、私が左角を手で隠して、ジャンヌに抱えられたアリスが右の角を手で隠す。

前を通り過ぎていった騎士たちに怪しがられる事無く、なんとか難を逃れる事が出来た。


全身から力が抜けると、アイネに持ち上げられて足をばたつかせる。


「なんとかなりましたね、良いチームワークでした」


「私の尻尾が……生えるのに二日も掛かるのだぞ」


「2人を下ろしてあげて下さいアイネさん」


「ジャンヌ……早う手を離せおぬしら」


角から手を離すと、案外近い場所に地面があり、すんなり下りる事が出来た。

いつの間にかジャンヌに手懐けられているアイネは、謝ったからもう良いだろと言っていて、拗ねた子どもみたいな態度をとる。


「有難う御座いますアイネさん、貴方たちに出会えたのは、やはり神の啓示だったのですね」


「おぬしは聖女なのか、神とは一戦やらかして痛い目を見た。神の加護を受けた聖女となれば、私はもう恐ろしくてな……」


十字架を手に持ったジャンヌが一歩近付くと、アイネはそれに合わせて一歩ずつ後ずさる。

再び騎士の列が街の中に入って来るが、街の人の様子が、先程のとは明らかに違う。


荷台に横たわっていたのは戦死した騎士で、恐らくこの街から徴兵された男たちなのだろう。

膝から崩れ落ちて泣く女性、若い兄の死を嘆く弟と妹、皆戦争による被害者であり、同時に戦争に加担した加害者でもある。


祈るジャンヌの隣で、アイネは荷台の人を見て、至極不服そうな顔をする。


「これがおぬしらの種族だクライネ、これでも愚かだとは言えぬのか。本来なら同族は同族を食うように出来ておらぬ、だがこれを見てどうだ、寄越せと奪い合い最後にはどちらも疲弊し切る。我らドラゴンはな、同族の争いでは死人を出さぬ」


「確かに愚かなのかもしれません。いや、分かっていたんだと思います私は。よし、また夢が増えました」


「まさか戦争を無くすだなんて言うんじゃあるまいな、余計な事に首を突っ込むなクライネ」


「もう決めました、アイネさんとジャンヌさんとアリスさんと私。この4人で必ず戦争を無くしましょう」


何故私を巻き込むと文句を言っているアイネを無視して、前向きに考えているジャンヌの手を掴んで結託する。

訳が分からず空気で判断して盛り上がっているアリスも入れて、3人で固く決意をする。

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