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淡い夢の美しさを知っている  作者: 聖 聖冬
11/15

送り火と祈り火

ヨルムに浴衣を着付けてもらって、送り火と祈り火が行われる広場に向かう。

私と同じ柄の浴衣を着ているアイネは、広場の端で座っていた。


ジャンヌとアリスと何かを話しているアイネは、立ち上がって2つの浴衣を取り出す。

それを受け取ったアリスは、アイネに頭を下げて、お礼を言っている途中のジャンヌを引っ張って、宿に向けて笑顔で走り出す。


2人を見送ったアイネは、同じ位置にストンと座って、大きく息を吐く。


「アイネさん」


「おぉ、似合っておるではないか! 初めて会った時の面影おもかげはどこえやら、どこかのえい所のお嬢様か?」


「からかわないで下さい。あと、あまり私たちの為に無理をして鱗を使わないで下さい」


「なに、構わん。可愛い子には可愛い服を着せてやりたいであろう、先の利益を見据みすえての投資だ。どうせうろこは一日で戻る」


この屁理屈へりくつでするする逃げられるのも、今後を考えるとあまり良ろしくない。

ここら辺で捕まえて引きずり回してやらないと、アイネはずっと私たちに隠れて無理をするだろう。


と言っても対策も何も思い付かない、かと言って、アリスとジャンヌに相談するのも、あまり気が進まない。

ヨルムに言ってもアイネの意見を尊重して、肝心のアイネに結局逃げられる。


「拳で語り合いますか」


座っているアイネの胸倉を掴んで、覚悟を決めて拳を握る。


「おろろろろろ? 無言で顔を近付けられては、待つべきか? 目をつむるべき……」


何を言っていたかあまり聞いていなかったが、渾身こんしんの力を込めてアイネの頬に拳をぶつける。

手を離さなかった為、後ろに倒れたアイネに引っ張られて、上におおかぶさる形になる。


「おろろろろろ、これは熱いアプローチじゃな。はっはっはっ、熱すぎるな、誰かふーふーしてくれぬか。体が火照って仕方が無いわ」


「なっ……殴っても効いてない」


すぐに上から飛び退こうとするが、尻尾が腰に巻き付けられて、地面と水平にされる。

寝転がるアイネの顔と向かい合い、足で尻尾を何度も蹴るが、ずっと笑っていて、余裕で満ち溢れている。


「アイネちゃ〜ん、楽しそう。私も混ぜて〜」


「おぬしは呼んでおらんミドガル。ほれ、送り火の火が灯されるぞ」


「なら下ろして下さい、アイネさんの顔よりも送り火が見たいです」


「えいぞ、3人で見ようではないか。死者と同じ我等われらも1つの魂だ、気が済むまで踊ろうではないか」


送り火の隣に青色の炎が灯され、人々が手を合わせて瞼を閉じてうつむく。

すっと立ち上がって尻尾を仕舞ったアイネは、街の人と同じ様に、両手を合わせて祈り始める。


私も手を合わせて祈りを捧げると、高い音が街に鳴り響き、太鼓の音が遅れて鳴る。

その音に誘われて瞼を開くと、いつの間にか祈り終えていたアイネに手を引かれ、炎の近くに連れてかれる。


青い薔薇ばらと赤の薔薇を取り出したアイネは、私にどちらが良いか問う。


「じゃあ、青色の薔薇で」


「では、カウントするぞ。ゼロになったらその薔薇を祈り火に投げ入れよ」


「ええ!? そんな勝手に……」


「さん、にい、いち、Огонь!」


突然の大声に思わず薔薇を投げ入れてしまい、青い薔薇が青い炎に吸い込まれる。

献火台けんかだいに投げ入れた薔薇が吸い込まれていったが、変化は何も起こらず、そのままの姿の炎に胸をなで下ろすと、またアイネに手を引かれ、献火台の炎から離される。


少し離れた木の陰に隠れたアイネは、悪戯いたずらする子どもの様な笑みを浮かべて、いつの間にか隣に居たヨルムも、何かを待っているように炎を見つめる。

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