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打ち合わせをしよう   ギルド職員 エミリアさんの場合②

ギルド職員 エミリアさん(人族)の場合


 エミリアさんと今回の依頼内容についての詳細と細かい内容についての打ち合わせを行う。

 事前に内容については聞いていたし、そこまで複雑な依頼でもない。

 ほどなく打ち合わせが終わり、彼女は「フウっ」とため息をつく。


「こんなものですかね?でも本当にここに来るの久しぶりですよね?」


 口調が再び砕けたものに戻る。

 お仕事モードは一旦終了ということだろう。


「そうですね。今更ですけどお元気でしたか?」


 俺の言葉に彼女は若干眉間に皺を寄せる。


「お元気はお元気ですけど・・・タツマさんがいなくなってからちょっと仕事がキツイんですよねぇ~」


 何故そこで俺の名前が出る?俺の不在とギルドの忙しさに関係なんてないと思うが・・・


「ほら。一時期のタツマさんって、ここにくる魔獣狩りの依頼を片っ端から片付けてくれてたじゃないですか?だからタツマさんがいなくなって以来、その手の依頼が溜まって溜まって・・・仕事の割り振りが凄く面倒になったんですよね。」


 ああ。なるほど、そういうことか。

 確かに俺は一時期、魔獣狩りが本業なんじゃないかという位に魔獣を刈りまくっていたことがある。

 それはある種のリハビリとまだ道場経営が軌道に乗っていない頃の内職的なものとしてだ。

 生活費と道場の運営費を稼ぐ為に比較的短時間かつ近場で済ませられる魔獣討伐を引き受けまくっていた結果、意図せずどんどん俺のランクは上がっていった。最終的にCランクに昇格したのは成り行きでとある事件を解決することになった結果なのだが、その後くらいから道場経営もひとまず軌道にのり、冒険者稼業はずいぶんご無沙汰だったと言うわけだ。


 道場を開いただけで、生徒が集まってくれるのなら世の先生は皆大金持ちだろう。

 しかし現実は勿論そんなことはない。

 生徒なんてなかなか集まらないし、入ってくれたとしても充分な収入が得られるまでの人数を達成するのには大変な苦労がいる。

 実際、元の世界で道場を経営している先生方もその大半は何らかの副業を持っていることが多かった。

 異世界とはいえ、一応は職業空手家として食べていける俺はある意味かなり幸運であるともいえる。


「冒険者の人達に依頼しようとしても弱い魔獣だと「そんなレベルの低い依頼受けられるか」って怒り出すし、かといって強い魔獣の討伐を依頼しようとすると今度はいきなり尻込みしだすし・・・一体どうしろっていうんですかね~・・・ホント、たまにでいいからうちにもお仕事にきてくださいよぉ~」


 だいぶ苦労も多いらしい。ひとまず「考えときます。」とお茶を濁す。

 しかし、ふと疑問が浮かぶ。

 冒険者というのはこの世界でのいわゆる何でも屋だ。

 特に資格も要らず、簡単な講習さえ受ければ誰にでもなれる。だからこそ俺も内職に選んだのだ。

 その上、運よく高ランクにまで上り詰めれば、地方ではちょっとした名士、さらに運がよければ王都からもお声が掛かることもあるということで、若者の間ではそれなりに人気の職業でもある。

 その中で「魔獣討伐」というのは冒険者の入門的な仕事である。

 冒険者志願者達に積極的にその仕事を振っていけば、仕事の割り振りはだいぶ楽になると思うのだが・・・


 その疑問をエミリアさんにぶつけたところ、彼女はうんざりしたように答えてくれた。


「それなんですよ。確かに志願者はそれなりに多いんですよ?でも最近皆レベルが低くって・・・大口叩いて出て行ったと思ったら、猟猪ハウンドボア3匹に囲まれたとかで速攻逃げ帰ってきたりとか、多少ましなレベルの子でも今度は考え無しに強い魔獣討伐に挑んで勝手に挫折して早々転職したりとか・・・」


 新人教育はどこの世界でも苦労がつきものらしい。


「・・・まぁ、それで今回のタツマさんの依頼に繋がったんですけどね?」


 それを聞いて俺も納得した。

 今回俺に来た依頼は「冒険者への武術指導」である。

 依頼をありがたいと思う反面、少し疑問にも思っていたのだ。

 冒険者は基本的に自分の腕を頼みに働く者達である。いくらギルドからの勧めとはいえ、自分達のやり方にあれこれ口出しをされるのは好まないと思っていたからだ。


「さすがに最近の状況にギルド長も危機感を覚えましてね。その時、タツマさんの名前が挙がったんですよ。現Cランク 冒険者で、最近じゃ一部の冒険者や派遣兵士に指導をして実績をあげているタツマさんに依頼をして志願者達のレベルの底上げをしようって。」


 ギルド長は相変わらず面倒見が良いというか、苦労性らしい。今日は留守でいないようだが今度改めて挨拶に来るとしよう。


「わかりました。それでは今回は冒険者志願の人達に基本的な武術指導を行うということで良いですね。」


 まぁ、悪い依頼ではない。これがきっかけで道場の生徒が増えるならこちらとしてもありがたいし、ギルドも志願者のレベルが上がって一挙両得と言うわけだ。


「でも気をつけて下さいね?・・・ていうか個人的にもお願いしたいことがあるんですけど・・・」


「お願い?」


 少し驚く。彼女は砕けたところもあるが基本的に仕事に関しては公私のけじめをしっかりつけた人である。その彼女がこれから依頼を行うにあたってわざわざ「お願い」などしてくるということは何か余程のことでもあるのだろうか?


「えぇ・・・実は彼らの素行のことなんです。レベルが低いことや挫折していくことはまぁいいんですけど、そのくせ態度や言動ばかりが大きい人が多くって・・・最近ちょっと冒険者の評判があまりよろしくないんですよね。」


 曰く、素行不良、村人や職員に対する恫喝めいた物言い、一部の志願者の迷惑行為・・・

 あきらかな規則違反行為に関しては除名処分など毅然とした対応をとるようにしているのだが、いわゆる普段の言動、グレーゾーンの行いについてはなかなか取り締まりができていないらしい。

 どんな商売でも信用は最大の必要項目である。

 それを失えば待っているのはその商売、業界の衰退という道以外ありえないだろう。

 有望な新人の獲得なども望むべくも無い。


「だからタツマさんにはその辺もどうにかしてもらえたらなぁ・・・なんて。「カラテ」って礼儀作法なんかの教育もしているんですよね?」


 彼女の気持ちは大いに分かるが・・・しかし少し困った。

 よく誤解されることではあるが別に武道というものは礼儀作法を身に付ける為の特効薬などではない。

 勿論、作法の手順くらいは教える。しかし、それで礼儀を身に付けた人がいるというならば、それは作法を覚えたからではなく、その人自身の意識が変わったからというほかに無い。

 しかし、それを彼女に言ったところで彼女を落胆させるだけだろう。

 砕けたところもあるが、彼女もまた誇りを持って自分の仕事に取り組んでいる人だ。

 冒険者やギルドの評判が下がっていくことには心が痛む思いがあるのだろう。


 随分ここにくるのはご無沙汰だったが、かってここで世話になっていた日々を思い出す。

 右も左もわからない俺に彼女やギルド長は随分と親身になって対応してくれたものだ。

 思い通りにいかぬ道場経営や資金稼ぎに腐りそうになることもあった。そのとき彼女の明るい言葉がどれ程の救いになったかわからない。

 彼女やギルド長にそれを言えば、「それも仕事だ」と答えるかもしれない。

 しかし、俺にとっては間違いなく彼女らもまた「恩人」なのだ。

 俺にできることであれば何とかしてやりたい。


「どこまでできるかはわかりませんが・・・俺なりに頑張ってみますよ。」


 できればもっとはっきりと約束してあげたい。しかし、人の意識を変えるのは非常に難しいことだ。簡単に約束できるようなことではない。


「ありがとうございます。やっぱりタツマさんは頼りになるなぁ~」


 彼女が明るげな言葉で礼を返す。しかしその言葉はいつもよりやや悲しげに聞こえた。

 それが俺には少し辛かった。

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