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番外編  モトベ タツマのあまり平穏じゃなかった日々 その17

 村長宅は村の教会よりさらに大きい。

 一見すれば田舎の村には不釣合いなほどの大きさであるが、これは村の集会所、そして中心街、王都からの使者が来た際の宿泊、饗応の場という役目を兼ねている為だ。

 そんな村長宅も今は野盗達の溜まり場と成り果てている。

 捕らえられた100名を越す村人達は集会用の広間に監禁されている。

 野盗達は彼等を監禁した上で村人に成り代わり捜査の間、身を隠す計画だった。

 村の占拠は計画通り順調に遂行され、見張りの役目を逃れた野盗達は村長宅の酒食をあさりささやかな宴を催していた。

 今のところ彼等が村から略奪したのは概ね酒や食料、その程度に留まっている。

 これは別段、彼等が慎ましやかなわけでも慈悲深いわけでもない。

 彼等の今の目的は村人を装い身を隠すこと。過度に村を荒らせば、万一にも村の異変が外部に伝わりかねないからだ。

 しかし、我慢するのもせいぜい数日。

 捕縛作戦が終了したあかつきには村のありったけの金品を略奪し、領外へ逃亡を図る予定である。

 その際であれば、少々村の若い女相手に遊ぶ(・・・)のも悪くないだろう。

 そんな話題で盛り上がっていた野盗達であったが、彼等の表情も今は一転して非常に重いものとなっている。


 最初に異変に気が付いたのは見張りの交代の時だ。

 見張り交代の時間になり、次の見張り番が町長宅を出たが一向に交代した見張り番も出て行った交代役も戻ってこない。

 何か異常でもあったのかと別の人間を差し向けたがそちらも戻らない。

 やや警戒し、次は2名ほど向かわせたところそれは判明した。

 村の入り口にいる筈の見張りはその姿が見えず、最初に様子を見に行った男は縛られ気絶した状態で路地裏に転がされていたのだ。

 野盗達の警戒は一気に強まった。

 人質の見張りと幹部クラスを除いて、多数の野盗が状況の確認に向かう。

 そして異常は次々と発見された。

 曰く、各所で見張りについていた仲間の姿が見当たらない。

 曰く、井戸の中に両手足を折られ気絶した仲間がうち捨てられていた。

 野盗達の警戒は次第に恐怖へと変わっていった。


 合同軍にばれたか?


 いや、早すぎる。もしばれているなら何故こそこそと姿を現さない?


 冒険者か?


 考えられなくはない。しかし見張り達も素人ではない。

 それなりに腕に覚えもある上、各自に呼子を渡している。助けも呼べずにやられることなどあるのか?


 高ランクの冒険者がやってきたんじゃ?


 こんな田舎の村に何故?

 それに戦っていたのなら、その音や異変には気付くはずだ。


 野盗達の声に怯えが混じる。

 正体が分からぬ故に一層恐ろしく、姿の見えない敵の影に彼等は怯えた。


「お前ら、落ち着け。」


 浮き足立つ野盗達に冷水の如く静かな声が浴びせかけられる。


「恐れることはない。これは領主の軍の仕業じゃない。せいぜい単独・・・多くても数人の冒険者の仕業だろう。」


 声の主は淡々と落ち着いた声音で彼等を諭す。

 まず、領主の軍であることはまずない。

 この捕縛作戦において彼等のとる戦法は圧倒的な物量での蹂躙だ。

 もし合同軍のが来たというのであれば今頃、村を包囲した上でいっせいに攻めかかって来ているはずだ。

 高ランクの冒険者、これも可能性としては低い。

 高ランクの冒険者であれば真っ先に中心街での捕縛作戦に召集され、今頃中心街付近で探査に挑んでいる頃だろう。

 無論、こういった作戦や領主による召集を好まないへそ曲がりな冒険者もいない訳ではない。

 しかし、領内に高ランク冒険者、いわゆるCランク以上の冒険者の数はけっして多くはない。

 そしてそれらの冒険者がこの村を活動範囲にしていないことは事前の調査で判明している。

 おそらく犯人は正義感、もしくは手柄に焦った低ランクから中堅クラスの冒険者。

 その程度の相手であれば、数十人からなる野盗団にとって脅威とはなりえない。


 声の主・・・ガストンの声に野盗達は次第に落ち着きを取り戻していく。

 落ち着きを取り戻してしまえば先程までの自分達の慌てぶりが何とも気まずくなる。

 そんな気まずさをごまかすように幹部格の野盗の一人が声を張り上げる。


「てめぇら警戒を強めろ!村の入り口や要所の見張り、村内の見回りは必ず複数で当たれ!怪しい奴を見かけたらすぐに呼子で知らせろ!」


 先程までの醜態を覆い隠すように殊更に威勢よく指示を飛ばす。

 「てめぇら気ぃぬくんじゃねぇぞ!」と最後に激励を飛ばそうとしたところで扉を開ける大きな音がその声を遮った。

 入ってきたのは状況の確認に向かったまだ歳若い下っ端の野盗だった。

 慌てて戻ってきたのだろう、息は荒く、顔は強張っている。

 激励を途中で邪魔された気まずさはあったが、先程の醜態を繰り返すまいと幹部格の野盗は殊更鷹揚な調子で若い野盗に声を掛ける。


「どうした?バタバタするんじゃねぇよ。落ち着いて報告をよこしな。」


 自分の醜態は棚に上げ、大物ぶった調子で報告を促す。

 まるで他の幹部や子分達に自分の冷静さをアピールするように、その声は必要以上に柔らかく穏かに取り繕っている。

 しかし、歳若い野盗はそんな彼の演技も全く目に入っていない。

 いや、目にしている余裕すらないというのが正しい様子だ。

 今だ静まらぬ荒い呼吸を必死で抑え、吐き出すようにして言葉を放つ。


「大変です!村で火事が起きました!」


 部屋にいる野盗達の時間が止まった。

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