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番外編  モトベ タツマのあまり平穏じゃなかった日々 その14

 レティさんから詳しい状況を聞きだすのは至難をきわめた。

 いまだに半ばパニック状態のレティさんを宥め、促しつつ聞き出した話によると事態はこのような状況らしい。


 今日の午前、数台の馬車がこの村に到着した。

 ここ最近、村に出入りするようになった行商人達の馬車だ。

 一応、村の入り口で派遣兵士による検問があったのだが、もはや顔なじみになった行商人が相手、兵士かれらも特に怪しむことなく検問を終えた。

 そして、それが事件の引きがねだった。

 検問を終え、背を向けた派遣兵士の一人に突如として行商人が斬りかかる。

 突然の事態に固まる同僚の兵士。

 立ち直り、慌てて事態に対処しようとしたらしいが、その時には既に遅かった。

 馬車から飛び出した他の行商人達は、残った派遣兵士達に対処の隙を与えず、瞬く間に派遣兵士の詰め所を制圧してしまった。

 無論、ここまでくれば彼らが行商人でないことは明白だろう。

 彼らは行商人を装う野盗の集団だった。

 事前に行商人として活動することで兵士達を油断させ、今回の凶行に及んだのだ。

 

 そこからはあっという間の出来事だったらしい。

 派遣兵士達が制圧されたところで、馬車や周囲の森に潜んでいた野盗が一気に村を攻める。

 その数、約30人。

 武器を持ち、荒事慣れした野盗達の前に多くの村人はなす術も無く捕らえられていった。

 無論、元冒険者やリーゼロッテさんを始めとした魔術に長けた者も村にいないわけではなかったが、そんな彼らも村人達という人質の前になす術は無く、魔術封じの拘束具を付けられ、とりわけ厳重に捕らえられてしまった。

 そして、こういうとき活躍する冒険者の大半は現在、中心街に出向いており、現在村に残っている半人前達ではこの状況を打破するには至らない。

 村は瞬く間に彼らの占拠を許してしまった。


 偶然、買い物に出ていて一連の事態を目撃したレティさんは急いで教会に戻った。

 ベネット神父に状況を説明し、彼女らは子供達だけでも逃がそうと村外への避難に臨む。

 しかし、それも遅かった。

 教会に向かうレティさんを目撃した野盗がいたのだろう。

 教会を出ようとした彼女達の前に数人の野盗が姿を現した。

 慌てて、教会内に逃げ込むがもはや袋のねずみ。

 一人、また一人と逃げ遅れた子供達から野盗の手に落ちていった。

 そして、このままでは全員捕まると判断したベネット神父は機転を利かせ、レティさんを厨房の食料庫へと隠れさせた。

 

「野盗達が去り、あたりに人がいなくなったら助けを呼びに行って欲しい。」


 そう言い置いて彼は食料庫の入口をふさぐ。

 本来であれば、子供を保護するべきなのだろうが、この教会の子供達は皆幼い。

 助かったところで、自分達だけでは逃げることも助けを呼ぶこともできないだろう。

 そう判断してのベネット神父の行動だった。


 後のことはもはや音でしかわからない。

 しばらく食料庫の上で大きな音が響いていたが、じきにそれも鳴り止んだ。

 教会にいるベネット神父と子供達を捕らえ、野盗達は去っていったのだろう。

 しかし、それでもなお彼女はその場を動くことができなかった。

 自分が見た限りでも大半の村人は野盗に捕らえられている。

 おそらく今、外部に助けを呼びに行けるのは自分だけ。

 もし失敗すれば後はない。

 その責任はとてつもない重圧となって彼女を襲った。

 そして、野盗という平穏な生活の中に突如として現われた侵略者達。

 それがどうしようも無く彼女には恐ろしかった。

 責任と恐怖、その二つに蝕まれた彼女はどうしていいかも分からないまま一人、教会に隠れ続けていたという。



 泣き声まじりに己の不甲斐なさを詫びるレティさん。

 しかし、俺には彼女を責めることができなかった。

 群れをなす暴力の一団。

 そんなものを目の当たりにすれば、恐ろしいのは当然だ。

 それを「立ち向かえ」、「逃げるな」などと一言で切って捨てることができる人間はよほど強い人間か、さもなくば身の安全が確保された傍観者だけだろう。


 レティさんを宥めつつ俺は考える。

 この野盗達の行動、あきらかに計画的なものだ。

 事前に行商人を装う下準備。

 迅速に行われた村の制圧。

 ただの机上の空論だけではない、事前に村の下見を充分にした上で実行された練りに練った計画だろう。

 しかし、こんな田舎の村に何故そこまで?

 この村は寒村ではないにせよ、裕福と言えるほど豊かな村でもない。

 中心街からも遠く離れた山間の森の中にある村。

 今日行った隣村でさえ馬車で半日近くかかる辺境。

 こんな田舎を襲うメリットなど一体なにがあるというのか?

 そして彼らの行動も妙だ。

 丘から見た村の様子、森を回りこんで教会に向かう途中に覗いた村の様子。

 それらは野盗に襲われたという状況を加味して考えるならば、あまりにも静か過ぎる光景だった。

 野盗達の目的が略奪であったならば、もっと村は荒れている筈だ。

 しかし、俺の見る限り、村の様子は俺が出て行ったときと大きく違いはない。

 教会も多少荒れてはいても略奪が働かれたような痕跡は見受けられなかった。

 そして村人達はどこへ行った?

 皆殺しか?それも考えづらい。如何に小さな村とはいえ一人残らず殺して回るのは相当に時間と労力がかかる筈だ。それこそ、俺が丘から見た小火ぼや程度では到底追いつくまい。

 それではどこかへ連れ去った?それは殺す以上に手間もかかる。それもないだろう。

 俺が考える限り、村人達は屋内に監禁されていると見るのが、一番可能性として高いように思える。

 計画的な村への進撃。

 略奪もせず、村人達を監禁するという行動。

 俺には野盗達の意図が読めず、謎は深まるばかりだ。

 

 しかしだからと言って、このままじっとしているわけにもいかない。

 如何に今、野盗達が略奪や殺戮に精を出していないとはいえ、それがいつまでも続くなどという保障はない。

 このまま放っておけば、村の人達がどんな危険にさらされるかわからないのだ。

 時は一刻を争う。

 俺はレティさんに背を向け、食料庫の出口へと向かう。

 俺の頭には今後の行動に対する思案。

 そして、捕まってしまったであろう村の人々の顔が脳裏に浮かんでいた。

 リーゼロッテさん、ベネット神父、エミリアさん、村でお世話になった多くの人々・・・

 そして、アルフやセシリーを始めとした教会の子供達・・・

 

 そこまで考えたところで、俺の脚はピタリと動きを止めた。


 自分の意思ではない。

 不意に自分の脚が言うことをきかなくなった。

 そしてしばらくして、動きを止めた脚は震えという形で動作を再開する。

 やがて震えは全身に広がり俺を蝕み始める。

 歯はカチカチと音をたて、口から取り込まれる空気はやけに薄い。

 心臓は全力疾走の後のようにバクバクと喧しい音で響き続ける。

 

 突如として俺を襲ったこの症状。

 俺はこれを知っている。

 俺のなかで暴れまわっているこの感情。


 それはまさしく「恐怖」だった。

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