表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

下校時刻

 午後の授業も無事に(?)終わり、後は部活か帰るだけという時間帯になると、俺は真っ先に教室を出る。廊下では、委員会や運動部の面々が慌ただしく走り回っている。

「コラーッ、廊下は走るなーッ。」

それを大声で注意する、生徒会長の一喝。長い金髪をポニーテールにした、綾元紗英あやもと・さえセンパイだ。この時間になると、2-Bの教室を借りて行われる役員会議に出席する為に現れる。

「って、やっぱり言うだけムダよね・・・はぁ・・・。」

最近は、特に心労が絶えない様子だ。

「うーん・・・?」

不意に、彼女が呻きながら目を細めてこちらを睨み付けた。

「ああ、上崎くんじゃない。」

とたんに、なあんだ、という風にため息をついた。

「センパイ、また目が悪くなったんですか?それとも、単にガン飛ばしてただけ・・・?」

最後は冗談が2パーセント本気が98パーセントだったが、それを聞いてよりいっそう彼女は眉をつり上げた。

「わたしがメンチ切る訳無いでしょ。まあ、それくらいしないとダメなのかしら・・・ふぅ。」

最後は目頭を押さえながら、うつむいた。

「センパイ・・・。ひょっとして、疲れてます?」

「ええ、ちょっとね。はあ・・・出来のいい妹さんに比べ、あなたは本当に・・・。」

伏し目がちにいきなりヒドいことを言われた。

「ダメ、とか出来損ない、とか付け足されたら、俺、マジで学校辞めます。」

俺は至って真剣に答えた。

「服装の乱れを注意された事が三回、授業を抜け出した事が二回、早退を理由に近所のゲーセンに居た事が一回に、妹さんがわたしに直訴したこと数知れず・・・。」

遙・・・、兄を売るとは。お前ってヤツは・・・。

「センパイ、もう、それ以上は勘弁してください。ほら、世知辛い世の中ですし・・・。」

「ええ、ホントにそうね。あなたを見てるとホントにそう思うわ。」

彼女は遠い目をして俺を見つめた。

「・・・何で俺を見てそれを思い出すんですか?」

「自分の胸に訊いてみなさい。あっ、そろそろ時間だわ。じゃあ、寄り道しないで帰るのよー。」

最後は手を振りながら去って行った。会長か・・・やっぱり、厳格な家庭に育ったんだろうか?いや、厳格そうなのは、実家がお寺だっていう川島さんの方がむしろそうなのではないか?

 そんなことを考えながら歩いて居ると、不意に見覚えある人物が階段に座りこんでいた。ナニやら考え事をしている様子だ。

「えっと、中原先輩?」

思い切って声を掛けてみると、彼女はゆっくりと振り向いた。じっとこちらを見たまま、顎に指を当てている。

不意に、窓から差し込んだ夕日にメガネが反射して光った。

「突然だがキミに問題だ。きょう一日、ワタシを見ていて何か気づいた事は?」

澄んだ声で唐突に聞かれた。

「えっと・・・わかりません。」

正直に白状すると、彼女は俺の答えに納得したようだった

「ふむ、やはりそうか。ちなみに、キミと同じクラスの和服さんは、見事正解だったぞ。」

「はあ、そうですか・・・。」

正直、どうでもいい。

「正解を、教えてほしいかい?二年B組、出席番号一番の上崎ショウゴくん。」

何で俺の事知ってんだ?この人。

「ええ、まあ・・・。」

肯定してほしい雰囲気がプンプンしていたので、とりあえず調子を合わせてみた。

「よし、ならば教えてあげよう。ワタシは最初、一階と二階の階段の踊り場に居た。次にキミと和服さんがワタシを見た時は、何処に居たか解るかい?」

途端に元気になり、彼女は一気に喋りだした。

「何処って・・・同じ場所ですよね?」

「残念、実は、一段だけ上にあがっていたのでした。」

センパイは得意げに笑った。

「ああ、そうですか・・・。」

ってか、そんな事か。これが解ったとは、川島さん、やるな。

「ちなみに、もう一つの問題も和服さんは正解したぞ。」

まだあるのか。

「えーと、なんですか?」

正直、もうお手上げだった。

「ヒント、ワタシは今、何処に居るでしょう??」

「何処って、二階と三階の中間ですよね?」

「そうそう、ではでは、我が校の階段はすべて14段。ワタシが居るのは合計で15段目。15、これを当て字で読むと・・・?」

これも解るとは・・・。末恐ろしいな、川島さん。

「イ、ゴ、囲碁ですか?」

正解を言うと、とたんに彼女の表情が明るくなった。

「そうそう。と言う訳で、明日から是非我が囲碁・将棋部に来てくれたまえ、上崎くん。歓迎するよ?」

すっくと立ち上がり、スカートのホコリを払ったあと、彼女は勢い良く俺に右手を差し出した。

「・・・センパイ、50mを何秒で走れますか?」

めんどくさくなってきたので、俺は彼女に唐突に聞いてみた。

「ん?8秒ピッタリくらいで走れるが・・・?」

怪訝そうな顔で彼女は答えた。女子にしてはなかなかのタイムだが・・・。

「センパイ俺、お先に失礼します!ダッシュ!!」

こう見えて逃げ足には自信が有るのだ。塚田ほどでは無いが。

「そ~ん~な~、待ってくれたまえ~、う~え~さ~きく~・・・・。」

階段の踊り場に、彼女の声がこだました。俺はそのまま家まで、全力疾走した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ