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昼食、意外な人物のピンチ

「れーい、ありがとうございましたー。」

午前中で最後の授業が終わり、塚田の号令が教室に響いた

「あーっ、やっと終わった。もー腹減って死にそー。」

塚田はそう言うと、へたんと机に突っ伏した。黒板には、複雑な数学の問題と図形が書き連ねてある。とある男子生徒(名前は知らない)がそれを片っ端から消していく。

「それよりさ、アンタ。最後の問題、解った?」

いつになく真剣な顔で彼女が聞いてきた。

「うーん、どうだろう。お前は?」

聞き返してみると、塚田はしどろもどろに答える。

「えーっと、アレよね、シンって、どっかの言葉で罪って意味よね、確か。」

頓珍漢な答えが返ってきた。まさか・・・。

「お前・・・。あれ、サインって読むんだぞ?サイン、コサイン、タンジェントって前に習っただろ?」

「うぇっ!?そうなの?」

どうやら図星だったらしく、塚田は尻尾を踏まれた猫のように驚いた。

「そんなんで中間テスト大丈夫か?」

「ま、まあ、アタシは陸上一筋だし、勉強なんてできなくてもダイジョブよ、多分・・・。」

塚田は冷や汗をかきながら虚勢を張った。

「まあ、ご達者で。」

先が思いやられるとは、この事か。だが、この空腹も問題だ。今日は妙に金が余っているし、栄養満点だが味も素っ気もない妹の手作り弁当にも飽きてきたので、思い切って食堂に行ってみることにした。

 階段を下りていると、踊り場に座り込んでいる女子を見かけた。彼女はたしか、中原里沙なかはら りさセンパイ。数学と物理が得意な、というかそれしかできないと評判(?)の人だ。緑色の長い髪を後頭部でダンゴ状にまとめていて、メガネを掛けている。幸い、通行の邪魔にはならないので、俺はそっとしておく事にした。

 食堂は一階にあり、すでに満員に近い状態だった。食堂には値段が一ケタ高いメニューがあり、噂によると教師たちが注文するらしい。俺にはとても頼めないが。メニューは決めてあるので、後は注文して受け取るだけだ。すると、券売機の前で和服を着た女子が立ち尽くしていた。この学校で和服を着るのは同じクラスの川島さんくらいだろう。いつもは、大きな重箱を教室でつまんでいるはずだが・・・。

「川島さん、何か困ってない?」

思い切って声を掛けてみることにした。彼女は驚いて振り向き、

「あっ、券がまだでしたら、お先にどうぞ。」

先ほどまでの困った様子を押し殺して返事をした。

「いや、それもそうなんだけど、どうしたの?」

「いえ・・・、私はただ・・・。」

彼女は困った顔で券売機に向き直る。その様子を見て、俺は理解した。

「ええと、食べたいメニューと同じ金額を投入して、ボタンを押すんだよ。そのあと、その券をカウンターに出して番号札をもらうんだ。わかった?」

「え、ええ。では・・・。」

彼女は着物の懐から札入れを出すと、学生の身分ではまず持ち歩けない高額紙幣を券売機に投入した。すると、「おまかせA定食・教師用」と書かれたボタンを押した。いきなり教師メニュー、しかも一番高価な奴を頼むとは・・・。やるな、川島さん。俺は「日替わりBランチ」を注文した。

 無事に湯気が立つ食事をトレーに乗せて、席に着くと、川島さんが向かい側に座った。彼女の目の前には、「とても高級な」定食が座している。

「お見苦しいところを見せてしまい、申し訳ありませんでした・・・。では、頂きます。」

袖をまくり、丁寧にお辞儀までしてから、彼女は静かに箸を取った。ほとんど初対面の女子との会食だったので、俺は食べる事に集中した。食べながらしゃべるのはマナー違反だという事を思いだしながら。

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