森の過去(1)
平安京を歩いたり、武士が出陣する様子を近くで見たり(戦闘シーンは教育上よろしくないと却下された)鹿鳴館のダンスパーティを眺めたり、その時寄り道した本屋で子供向けの漫画を発見したときには、マンガってこのころからあったんだ、と謎の感動体験をしたり。
「海外も見せたかったけど、それ用の服とか翻訳機用意してなかったのよね。」と女の人は言ったけど、それでも十分面白かった。
「次はどんな時代が見たい?どこでもいいわよ?」
「どこでも?有名なところでなくても?」
「もちろん。」
「…それじゃぁー…お父さんやお母さんの子供の頃が見たい、かな。」
それは、それは何となく、だ。
昔の時代もいいけれど、せっかくだし身近な人の子供の頃が見てみたい。それが一つ。
もう一つは、幸せな子供時代だったんだろうかという、興味だった。
母さんも子供の頃そういう目にあっていたのだろうか?だからオレを助けてくれない?
父さんは家族に捨てられた経験があるのだろうか?だからオレを捨てた?
幼稚園の時に義父が現れてから、時々思うこと。これが正しいかどうかこの機会に解決できるかもしれない。
そうだとして、許せるか?許せない。けど、理解するぐらいはできる。自分がやられたことを平気でやる人間なんだ、という理解はできる。
「あら、近い時代ね。いいわよ~…え?」
男が女の人の耳元で、なにやら伝えたようだ。女の人のちょっと驚いた目が、クルリといたずらそうな目に変わり、ニコニコとオレを見ながら返事をする。
「オッケ。じゃあ、ちゃんと子供時代と…ついでに2人が付き合ってる時代にも連れてってあげたら楽しいんじゃない?あの二人がこんな恋人同士だったのか~みたいな、ね。よろしく。」
「え?お姉さんこないの?」
「ちょっと用事ができちゃった。あー、大丈夫、コイツ無口だけど悪い奴じゃないから、何かあったら助けてくれるわよ。じゃね。」
そう言って、お姉さんは姿を消してしまった。元の時代にでも戻ったんだろうか。
今までは、確かに色々な時代も面白かったけれど、それはお姉さんの明るい雰囲気によるところも大きいと思う。
なんか、心細い。
この男の人、無口というか…声すら聞いたことないんだけど。話できるんだろうか?
オレが不信と不安いっぱいの面持ちで見上げると、男は口元だけで微笑んでマシンのボタンを押した。
「うおあっ!」
気がつくと、ジャングルジムのてっぺんに立っていた!
あわてて足下の鉄棒に捕まりそのまま腰を下ろす。あー、びっくりした。ジムの上の段に座るの久しぶりだなぁ…。
じゃなくて
「ちょっと、危ないだ…てアレ?」
大抵オレの近くで突っ立っている男がいない。置き去りにされたのかと恐怖に駆られて、公園内をキョロキョロ見回すと、地球儀型をしたグルグル回す遊具の上にしっかりしがみついている姿を発見した…。子供達は、遊具のてっぺんに『そんなもの』が加わったとも気付かずに、思いっきり回して遊んでいる。
なーにやってんだよ、アイツ…
オレの冷ややかな視線に気付いたのか、男はこわごわ片手を遊具から離すと、下で仲間と一緒に回っている短パンの子供を指さした。かなりの早さで回されている男が可哀想になってくる…いや、それより…
短パンの子供はリーダー格の様だった。2~3年生ぐらいか?あの大きさだと。で、指さしているって事は…
「ちょっと!ゆーじっ!!!」
急に怒鳴り声が聞こえて、その方向へ目をやる。
髪の毛を2つに分けた女の子が、ゆーじと呼ばれた子供の方へ走ってきた。
『ゆーじ』はさっき男が合図した短パンの子供だった。彼は仲間の輪から一時期離脱し、女の子が近くに来るのをちょっと待っている。
「今週、掃除当番だっていったしょや!何さぼってんの!」
「うっせ。ゆきに関係ないだろー。」
「いーよ、そしたら先生にいっちゃうもんね。♪わーるぃんだ、わぁるいんだ♪」
ゆーじ、に、ゆき。
オレの親の名前だ。出身が同じ町だと聞いたことあった気はするな。ふぅん…この頃から仲良さそうじゃん。父さんは大ざっぱなガキっぽいし、母さんの方はきかなそうな顔してるけど!2人とも一筋縄ではいかないような可愛げのない子供だ。
ようやく回転地球儀から降りてこられたのだろう、男がフラフラとよろつきながらこちらへやってきた。そのままジャングルジムにもたれかかって、ずるずるしゃがみ込む。
「大丈夫?」
オレはジムの頂上から降りて、男の背中をさすってやった。なんかえらい目にあったなぁコイツ。もしかして、行く時代は選べても、細かい場所までは指定できないのかもしれない。考えようによっては怖いな、そういうの。
ちょっと落ち着いたのだろう、男が目で合図した。子供の両親が家に帰るようだ。オレは2人の後を付けた。まず、家を知らなくては…。




