森の出会い
どのくらい、こうして膝を抱えてじっとしていただろう?
森の奥、それも深い深い、めったに人なんか来ないようなこんな場所で。息を殺していようと歌っていようと、誰にも見つかるわけではないのに。
オレは無意識に、右腕をさすった。血が大体止まってきたようだが、やっぱりまだ、痛みが残っている。やりすぎ、だったろうか?
ちょっと考えて首を振る。
今日(いや、もう昨日になっているか)、我慢も限界だったので、今までの仕返しをきっちり済ませた後、姿を隠すためにこの森の中にいる。この後どうするかはまったく決めていない。
でも、これでいいんだ。外聞のためとはいえ、高校へ行かせてくれたのは、有り難いと思おう。けれど、もうこれ以上良いようにされるのはゴメンだ。オレは誰の所有物でもないしやりたいようにやる。…卒業はしたかったけれど、仕方ないだろう。
あー、なんかすっごく疲れたな…ちょっと眠ろう…ちょっとだけ…
「ねぇアンタ、こんなとこで何してんのよ?風邪引くわよ。」
後ろの木に寄っかかって目をつむっていると、とても綺麗な声が聞こえた。女の人の声。
言葉は冷たい感じだけど、声は柔らかく暖かい。やさしい。
「ねぇったら、起きなさい。」
もしかしたら、天使のように綺麗な女の人なんだろうか?
正直、もう半分寝かかっていたのだけど、なんとなく姿が見たくなって目を開ける。
ごつい男がこちらを見下ろしていた。
…。
…あ?
左右を確認する。木の後ろも確認する。男の後ろの方にも目をこらす。美人どころか、動物一匹見当たらない。声の主はどこにいるんだ?
おれの様子があまりにも面白かったのだろう。ケタケタ笑いながら、声は言った。
「どこ見てんのよ、こっちこっち。前にいるでしょ、前に。」
眠気がぶっとんだ。