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少し沈黙が居間の間に落ちる。
んー? 朝なのにちょっと空気が重いよ……って。
「スバル重いっ、重いよっ」
「らくー」
いつの間にかスバルが僕の上を覆いかぶさるようにもたれかけていた。というか、普通は抱きつくようにもたれるでしょ?! なんで仰向けで背中を預けたまま気持ちよさそうにしてるの!?
……ってそれもつっこむ所、違う?
えーっと……。
僕はスバルを見た。
なんとも気持ちよさそうな表情。まるで日向ぼっこしている猫みたい。そうしている僕もなんだか眠たくなってきた。スバルの暖かい温もりが居心地良くなって和んできた。
「……ごめん」
すると小さく朔が声を落とした。
見るとなんだか気まずそうに、申し訳なさそうな表情で見ていた。
「気負いさせすぎた」
「まぁぼけっとしているこいつらにはいいくらいだろ」
息をつく朔に後ろからぽんっとちぃ兄が頭を叩いた。
手には……三つ目の新聞。ちぃ兄ちゃんと読んでるの? いや、それはちぃ兄には愚問か。
などと思いながら僕は朔ににこりと笑った。
「うん、そうだよ! それに朔、心配してくれてるんだよね。ありがとー」
「ありがとー」
僕とスバルは笑みを朔に向けた。
「だから朔は逆にもっと力を抜いてー」
「抜け過ぎなお前に言われたくなかろうよ」
「なかろうよー」
「ちぃ兄一言余計……」
鼻で笑いながら言うちぃ兄に便乗して楽しそうにスバルにも言われる僕は、なんだかもやもやした。ちぃ兄は、きっと、人を落ち込ませるのが趣味なんだ。きっとそうだんだ。
結論、ちぃ兄は性格が悪い、と。
自分の中でそう完結させるといくらか気持ちが浮上してきた。うん、ちぃ兄は今に始まったことじゃないしね。
僕がそう思っていると、不意に朔がぷっと吹き出した。
「朔―……」
ちょっと恨みがましく朔を見て言った。朔にまで笑われると、ちょっとへこむよー、僕へこんじゃうよ?
けれど朔の表情を見て僕はそんなことどうでもよくなった。
少しはにかんだような、嬉しそうな笑み。
「……そうだな。スバル、日和、ありがとう」
窓からさす朝日だけのせいじゃない。その笑みはとても柔らかくて、温かくて……カッコ綺麗。というか、学校の皆が見たら黄色い悲鳴が聞こえて誰か倒れていたと思う。
ちなみにね、うちの家族、結構美形が多いんだ。あのちぃ兄も何も言わなければ美形。
― ちょっと朝からいいもの見れたかも ―
― 朔、ちょうかっこいい ―
僕はスバルと顔を見合すと、うなづいた。
「そろそろ準備しねーと待ち合わせの時間遅れるんじゃねぇか?」
ちぃ兄の言葉で僕ははっと顔を上げた。
リビングの壁にかかった時計を見ると、八時二十六分をさしていた。ちなみに今日は休日。学校はない。けれど約束というか待ち合わせというか……正確には違うんだけど、日課に近いことがある。
「あれ? 僕何時に起きたっけ?」
「六時はんに起こしてー、七時におりてー、いつのまにか、八時にじゅーろっぷん?」
……朝食タイム、ゆっくりしすぎた?
スバルに言われて僕は唖然とする。感覚では一時間も経ってない。ちぃ兄にぼけっとしてるって言われても仕方がないよ。
「と、とりあえず着替える! 準備する!」
「スバルもー」
「うん、じゃあスバルも一緒にダッシュ!」
手を上げてへらりと笑うスバルと一緒に僕は食卓から出て、自分達の部屋に駆けあがった。
後ろから聞こえたちぃ兄の声は無視して。
「……騒がしい」
「元気そうでよかった」
「お前の準備は?」
「とうに終わった。あとは二人の薬を持っているか再チェックするくらい?」
「……朔は準備いいな」