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~ IF ~  作者: 名城ゆうき
序章
7/30

4 学校

「でもそうだな。知尋兄を見習わないと」


 不意に思案顔で呟く朔。それにスバルと顔を見合わせ、僕は顔を上げた。


「どこを……って痛い!」


 言葉を終えるか終えないうちにおでこに鋭い痛みが走った。若干良い音が出ていた気がする、涙にじむほど痛かったし。……って今の。


「……天罰だ」


 額をさすりながら顔を上げると、そこには新聞を読み終えてたたむちぃ兄の姿。犯人は間違いなく彼だ。というかなんだろ、こう、後からじーんっと痛くなってくるなにこれ。

絶対ちぃ兄仕組んでやった。

 後から来るなんとも言えない痛みに、僕がなかなか言葉を発せずにいるとスバルが額に手を当てて来た。

 ひやりと冷たい指。

 気持ちいー。ってスバル血、ちゃんと巡ってるのかな。

 ちょっと心配になってきてスバルを見ると、へらりと笑うスバル。なんだかスバルの笑顔って心配とか悩みとか、全部飛んで行ってしまうような笑顔で安心するよ。

 妙に感心しながら僕も笑みを返した。

 すると笑顔で何かを唱え始めたスバル。


「いたいのいたいのこっちとべー」


 ……って。


「だ、駄目だよっ。スバルに飛んじゃ駄目!」


 額から手を離して自分の額に手を移そうとするスバルの手首をがしっと掴んだ。もうそれは必死で。

 冗談じゃなく、痛みとか病気とか、そう言ったものを簡単に自分へと移す力をスバルは持っている。シールをはがして自分につけるくらいに、簡単に。こんな痛みをわざわざスバルに移すなんて、それなら僕我慢するし!

 首を傾げるスバルをとりあえず笑顔を説得する。

 そもそもことの始まりを作ったちぃ兄は流し台へと向かって食器を洗っていた。どうでもいいというか、そんなこと目に入っていないというか。

 ……一々ちぃ兄にムカついてもしょうがないけど。

 というかちぃ兄に痛みが移ればいいんだ。それが一番合理的だよ。

 と思いながら見ていると、無言で洗い続けていたちぃ兄がこちらを向いた。


 こ、怖っ。


 なにも言われたわけでもなく見られただけで妙にびくっとしてしまって、僕は誤魔化すように目を反らした勢いで朔の方を振り返った。


「え、と! で、朔なんの話だっけ? ちぃ兄の何を見習うの?」

「『誤魔化す』という点だよ」


 静かに言う朔。

 いつの間にかその後ろにスバルがいてなにやら嬉しそうに彼の頭を触っていた。よく見ると朔の髪の毛で三つ編みを作っているみたいだった。って髪の毛三本で三つ編みしてる?! あ、でもなんだか楽しそう。僕も一回やってみたかったりする。朔に、三つ編み。

 と、にやけていた所に突然口にずぼっと何かを突っ込まれた。


「ふほ?」


 見るとにこりと朔が笑っていた。突っ込まれたのはお皿の上に余っていたリンゴ。朔が指でぐいっとリンゴを口に押し込んで来た。

 あ、ごめん。話の途中だった。

 再び脳内脱線してしまったことの謝罪の意を込めて、コクコクとうなづきながら僕は朔に押し込まれるリンゴを食べて飲み込んだ。

 それに指を下ろして、表情を元に戻すと朔は話を続けた。


流霽りゅうせいの中でも俺達は『特特待生』だ」


 それに僕はうっと唸る。

 静かにでもはっきりと言う朔。


「それをあまりひけらかしてもろくなことがない」


 流霽――つまり流霽学園は僕達が通う学校の名前。

 私学で中堅クラスの幼稚園から大学院まである学園で、特にすごく有名と言うわけではない。ただ結構生徒や志望者が多いのは確かだと思う。というのは設備やカリキュラムがすごくいいから。古いけどおしゃれで綺麗な校舎、広い校庭と緑がいっぱいの中庭や憩いのスペース。体育館とかプールも冷暖房設備があるし、同好会、部活動も豊富で練習の場や器具もかなり整っている。カリキュラムもまた……特進一科、特進二科、普通科、陸上科、芸術科とか色々。ここでは割愛するけど。

 プラス制服もカッコ可愛いというのもある。創立者の一人が服飾家だったらしく、これだけで入ったと言う子もいる。まぁでも、生徒会以外、高校生以降普段は制服着なくていいんだけどね。

 と言った感じで入るのはなかなか簡単というわけじゃないけど、入ったら快適で楽しい学校。

 強いて言うなら、少々通学するのが遠いかもしれない。

 ちなみに僕達の家からは電車で一時間、あと学校まで歩きで20分、バスなら10分弱くらいかかる。

 僕は歩きの方がおすすめなんだけどね! バスは混むし、歩きなら並木道とか周りの景色とかすごく綺麗で癒されるから。自転車でもいいかもしれないけど。


 とまぁ、それが表から見た流霽学園。


 ただ、朔が言っているのはそっちとは少し違う流霽の側面の話。

 違う側面。

 それは創立の本来の目的に由来する。


 『思想や種族、能力の違いの分け隔てなく、皆が仲良く楽しく学べる場を』


 それが由来、らしい。

 つまり。

 流霽学園は妖怪や精霊、鬼などと言った人以外の者達や超能力を持った人間を生徒としてたくさん受け入れているんだ。

 表では大っぴらに宣伝はしていないけど。


 でもその筋の者達の間ではとても有名な学校。


 『特特待生』


 それは成績が優秀なトップクラスの生徒のことを指す、『特待生』の更に上……というのではない。

 

 妖怪や精霊、鬼や超能力など不思議な力を持った生徒の中でも、『特別』に力が強く、並はずれた能力を持つ生徒。


 それを流霽学園の隠れた側面を知っている人の間ではこう呼ぶんだ。

 

 『特殊な力を持つ上に更に強い力を持つ生徒』


 つまり。


 『特特待生』と。


「俺達の力は『企画外』だってことを忘れるな」


 そこでもう一度朔が言葉を放つ。

 そう、その『特特待生』という枠組みですら僕達は収まり切らない。


「ただでさえ、『安栖』を名乗っているんだ。家の外では、あまり気を抜くな」


 僕達は特殊な力と存在である安栖家の中でも、更に特殊な位置にいる。それを僕は改めて思い出した。






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