2家族のこと
僕の家族、安栖家は家族がたくさんいる。
お父さん、お母さん、長男のみつ兄こと充彰兄ちゃん、長女の真純お姉ちゃん、次男のちぃ兄こと知尋兄ちゃん、りゅーちゃんこと琉生ちゃん、朔、スバルそして僕。七人兄弟の九人家族。
今家に一緒に住んでいるのはちぃ兄と朔、スバル、僕とお母さんとお父さん。でもみつ兄とお姉ちゃんは週に一回は顔を出しに来るし、りゅーちゃんも二週間に一回は一緒にご飯する。年は離れているけど結構仲がいい兄弟姉妹だと思う。
「……でも僕、これはないと思うよ」
「あ?」
僕の言葉に頭上のちぃ兄が言う。
あのね、それ言いたいの僕だよ?
「僕、肘置きじゃない……」
「んあ? 気にすんな」
き、気にします!
生返事をしながら新聞を読む兄に、それまで我慢していた言葉を言ったけど意味がなかったみたい。頭を抱えたくなってきた。
なんでちぃ兄には逆らえないんだろう? なんか端的な言葉とか無言の圧力みたいなのが、どうしてか……うーん。ってそのまま流されている場合じゃない。
「僕、ご飯食べたいんだけど」
「食べれば?」
「ちぃ兄に潰された状態で食べれないです……」
唸りながら言うとふんっと鼻で笑いながらちぃ兄は僕の頭から腕をどけた、やっと。ただでさえ背が低いのにこれ以上低くなったらどうしてくれるの。
僕は少しむっとしながらもやっとご飯にありつくことができたことを喜んだ。目の前にはミルクとハムエッグ、ウインナーにトースト。それにサラダもある。大好きなウインナーを頬張ると、もうなんだか幸せになった。
「しっかり食べろよ。じゃなきゃ万年小学生のまんまだ」
と、そんなところにまたちぃ兄がちょっかい出してくる。
ちなみに僕は中学三年生だ。確かに背がかなり低い。いつも小学生に間違われる。150センチくらいだから……。
「……食べてるよ。毎日牛乳も欠かさず飲んでるしっ」
ちょっと不機嫌になりかけたけど、スクランブルエッグを口に入れるとそんな気持ちも霧散した。だってぷるとろしてておいしんだよ。例えちぃ兄が作ったものでも食べ物に罪はない!
それに、本当にうちは朝をしっかり食べている方だと思う。だって友達で時間なかったら朝ご飯抜きにするとか、トーストだけとかの人いるし。
そう思っていると、おもむろにスバルが手を上げた。
「スバルもまいあさのんでる」
「俺も飲んでるな」
続いて静かに朔もコーヒーを飲みながら言う。
「つまり、いつまでたってもお前らの身長差は変わらないと」
「ちぃ兄……」
さらりと棘のある言葉を言うちぃ兄に怨みがましく睨む。けれど素知らぬ顔でコーヒーを飲む兄。人が気にしてることをいちいちつくのがムカつく。なんでこう、ちぃ兄は僕を苛めたがるのかな。ほんと、僕泣きそうになるよ。
若干眼がうるんできた気がしてきた。
すると後ろからすっと音もなくスバルが抱きついてきた。
「へぇ?! スバルいつの間に?」
「ボク、日和と同じ背丈がいい」
驚く僕にきゅっと腕を回すスバル。
「ずっと同じだよ」
そう言うスバルは真剣な目で僕を見ていた。
「スバル……ありがとー」
僕は顔をほころばせると笑った。きっと励ましてくれたんだ。でも事実、現在そうなんだけどね。
スバルと僕は生まれた時から背丈が一緒なんだ。それが今まで一寸も違ったことはない。ちなみに体重もなんだけどね。……不思議なことに結構スバルより動くし、筋肉もあるし使ってるのに変わらないんだ。
スバルは当たり前だと、神妙な顔をしてうなづくけど。
「……伸びなくていいよ。日和は日和のままで」
「へ? 朔?」
不意に朔の呟きが聞こえて前を向くと、朔がこちらを見ていた。
よく聞こえなくてもう一度口を開こうとした。その少し前に、自然に朔は僕の口元に指を伸ばした。
あ、スクランブルエッグついてたんだ。ありがとー。
などと思っていると、すっと朔は目を一点にずらした。
「サラダが残ってる」
「ホントだ」
視線の先を見ると、こんもりとサラダが残っている。好きなものから食べてしまう癖が僕にはあるから、いつも気をつけなきゃって思うんだけど。
朔に指摘されて僕は改めてご飯を再開した。
「……こんなんで三つ子とか、笑えるな」
ばさっと音が聞こえた後、ちぃ兄の呟きがもれた。
「ちがってても、ボク達はボク達。似ててもボク達だから」
「スバルの言うことは日和と違って深いよな」
「……スバルは言葉はつたなく見えるけど、頭いいもん」
「日和は素直で可愛いと思うよ」
「そして朔は自分の想いに忠実に言葉を発し過ぎるな。ひよのすけ限定で」
「だからひよのすけじゃないよ!?」
何を隠そう。
スバル、僕そして朔は三つ子なんだ。
ちなみに生まれた順番は朔、僕そしてスバル。
帝王切開したけど、一応。
顔はまぁ、スバルと僕はそっくりだけど朔はちぃ兄の方が似ている。