2-6
※若干兄妹間の距離が近いです。苦手な方はご注意下さい。
※話の区切り上、今話はとても短いです。
「……本当に、お慕いしてます。日和様……」
白夜に呼ばれた気がしたと思ったらいつの間にか東佐君の腕の中にいた。
さらり。
彼の前髪が、首に触れる。
途端、首筋に湧き起こる不快感。
う、わ。やだ。
ヤダ、ヤダ。キモチワルイ。
ドガアアアアアンッッ!!!!
一瞬で消えた圧迫感と不快感。
ふわりと包まれる温もりと安心感。
あ、これは。
ほっとして涙腺が緩みそうになる。
「びゃく……」
「ねぇ、日和。消毒しようか」
くちゅっ
なんて暇はなかった。
「ちょ、白夜!」
なぜなら抱きしめながら首筋――刻印の場所に白夜がキスどころか舌を這わせてきたから。
そして――
「っぁ!」
同時に彼の精気を注ぎ込まれた。
慌てて両手を前に突き出して白夜から距離を取る。
少しふらっとしたけど、前を見ると少し不服そうな顔。
あ、というかいつの間にかスバルが横にいない。
「……そうやって、すぐ気を散らすから付け入られるんだよ」
手を引っ張られて顔を白夜の方に向けられた。
奇麗な夜闇の紫の目に見入られて、僕も見つめ返す。
とても吸い込まれそうなほど、深くて静かな包み込むような黒紫。
だからかな。
「……ねぇ、そう思わないかい――――朔」
離れた後も、なんだか、まだ白夜に抱きしめられているような感じがした。
たぶん、注がれた白夜の気に僕も当てられたのかもしれない。
だから後ろに立っていた朔への反応も少し遅れた。
「あ、朔……」
ちゅっ
「……っ」
朔に額に口づけられて、たじろぐ。
けれど朔は、僕の額からしばらく唇を離そうとしなかった。
精気を注がれている。
濃厚な、覆い尽くすようなそれに、足元がぐらついた頃、やっと朔は顔を離した。
「……そう。ちゃんと、消毒、しないとね?」
体を支えられながら、そっと刻印を撫でられた。
例えるなら、お腹がいっぱいで、眠たくなっている状態。それに酷似していて、なんだか抵抗する気力が湧いてこない。むしろ朔の腕の中は心地よくて離れがたかった。
母親に抱きつく子どものように、僕は朔に抱きついた。それに表情を柔らかくして、頭を撫でてくる。
同時に頬にキスが下りてきた。目をそちらへ向けると、頬を撫でてくる黒紫の瞳。ああ、白夜だ。その温かさに頬を手にすりよせると、朔と似たような表情が向けられた。
「……あのね。ゆうとが世話になってるからボクも感謝はしてるけど、ほどほどに、ね?」
遠くで、スバルの声がする。
ああ、彼、東佐君に、注意してあげてるんだ。
「……スバルもアレに気をかけてないで、こっちに来て」
「ふあーい!」
「匂い消しのついでに足りない気をあげる」
「うん!朔の気、おいしーもんね!」
「俺のはいらないかな?」
「白夜も? いるいる! やたーっ!」
「ははっ、そのスバルの素直な所、俺、好きだねぇ」
そんな会話とともに音もなく、僕達は空気に溶けていくように空間転移した。
***
どさっ。
誰もいなくなった廊下。
そこに一人の少年が腰を抜かしていた。
「……あ、相変わらず、独占欲と束縛と執着にまみれたお二方だ。……兄妹なのに。いや、『安栖の兄妹』だからこそ、か。つか……やべ、コレ、使いもんになんねーかも……ははは」
ぼろぼろの護符を見て青ざめる東佐だった。