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~ IF ~  作者: 名城ゆうき
第二章
26/30

2-4

「……だからもうちょっと妖力制御してくれるかって言ったのにな」


 清ちゃんの冷たい声がかかった。声音は優しくてゆったりしているのに表情は真顔です。かなり怒っているのがわかる。


「あうぅ。ゴメンナサイ」

「スバル、無理ならちょっと僕に制御委ねていいからね? 一緒に制御するし」


 僕はスバルの頭を撫でながら言った。それにこくりとうなづく。

 うん、ちょっとテンション上げ過ぎた障害がきたなぁ。

 ふと、僕は溜息をついた。そして目の前を見る。


 黒髪のどこにでもいそうな男子生徒。

 人好きのする、気のよさそうな少年。


 けれど。


 キラリと光る彼岸花の紋章が入ったカフス。

 うっすらと感じる、安栖一族の放つ艶のある独特な気配。


 彼は、思慕の色を溶け込ませた目を細めながら、にっこりと笑いを浮かべてきた。


「やぁ、日和さん、スバルさん。『安栖の寵児』達とこんなところで会えるなんてラッキーだよ。あ、三津上さんもいたか。ま、いいや。そこの、第一図書館に行くんですよね? 俺も同行していいですか?」

東佐あずまさ君、別に君に用事はないんだけどね……」

「日和さん、いいでしょこんな時くらい。いつもだったらボディーガードがうるせぇんだもん」

「……だって東佐君みたいに、ちょっとあー……信奉者が……うん、着いてきても困るし」

「日和様って呼びますよ?」

「あずまさ、きもい、はなれろ」

「だから鹿島スバル、妖力」

「……っ、せいちゃんゴメンナサイ」


 なんだか、同行者が増えました。


 うん、僕達普通にある程度注意を払ってきたはずなんだけど。

 普通科の人達になるべく『安栖』だってわからないように。そして『安栖』の人でも気配を辿られないように。


 でも十回に一度くらいは彼には分ってしまうみたいだ。

 案の定、今回だ。


 彼―――藤好ふじよし東佐あずまさ君は、僕達兄弟以外の『安栖』の中では十指に入る力の持ち主だから。

 そして特進二科生徒会の一員。


 自分で言って寒気がするけど……ちょっと、うん、僕達兄弟を良くてアイドル視、普通に言うと、崇拝する『安栖』さん達もいるんだよ。特に、こっちの生徒会は別名、『安栖ファンクラブ』(と、僕達兄弟は言っている)と言われてるほど。……認めたくない、事実、うああめんどくさい。


 僕、図書館に用事があっただけなのにっ。

 それにお腹減ったー。


 そもそもなんでこうなった。





 ***




「ボクもついでになにか、かりよっかなぁー!」

「スバル、もうちょっとテンション下げなよ……」


 中庭から出て、既に普通科や特進一科の校舎の中。

 スキップをしながら前をゆくスバルになんだかそわそわする。うん、すごく楽しくて嬉しいのは感情が流れてくるからわかる。今日は本当に調子がいいみたいだ。

 ただ、周りの視線がなぁ。後ろ歩きでスキップしないで、目立つ。


「みんな見てるし危ないしやめなよスバル……」

「りょーかい! じゃあおとなしく日和と手を繋ぐ!」


 にっこにっこ笑いながらぎゅって手を握ってくるスバル。

 可愛いけど、可愛いんだけどはしゃがないでよ。

 ほらぁ、もうすぐ高校生なのにはしゃぎすぎなスバルに普通科の人達の視線が……。

 ……今視線があった人、目を反らされたよ。なんか悲しい。


「……いつもどおり、ね。目立つのよ」

「清ちゃんごめんね。もースバル、はしゃぐのは朔達の所に帰ってからにしてよ」

「うむ」

「……原因はそれじゃないと思うけど」

「あ、スバル可愛いもんね。それに……」


 僕は小声で清ちゃんに耳打ちした。


「一緒に学校にいて、はしゃぐの、あんまり機会が少ないから実は僕も若干嬉しくてはしゃいでるかも」


 自然と口元が緩んで笑みが浮かぶ。あーあ、もう、スバルの気持ちがうつっちゃったなぁ。

 ふと見ると、唖然とした顔の清ちゃん。

 なんだろう? ん? 今周りの人、何人かしゃがみこんだ? あ、で、なんか皆退散していった。


「ちょっと、鹿嶋さんまでボケられたら困るんだけど」

「え?」

「貴方達、今男子生徒のみならず女子生徒をも悩殺してることわかんないの? ちょっと自分達の容姿理解してよ」

「あ、え? ごめん。ちょっと、魅了の術とか使ってないんだけど、『安栖』に免疫のない人には多少同じような効果がある体質なんだよね。ちょっと笑っただけでも。気を付ける」


 気を引き締めて僕はうなづいた。けどなんだか清ちゃんは呆れた目を向けてきた。

 ……うん、わかってるよ。ちょっとだけ、可愛い部類に入るかもしれない容姿だって。平凡な顔をしてても『安栖』なら多少、割増しちゃうんだよ。……自分で言うと、なんだか嫌だけど。


「……貴方って時々、分かって誤魔化してるのか無意識なのか曖昧だよね」

「……」


 ……うん。僕もわかってはいるつもり、とだけ言いたいんだけど。これ以上は自惚れだから。とりあえず、困ったように笑うしかなくて清ちゃんを見るとため息をつかれた。


「まぁ、風紀委員としては、力を極力抑えて問題さえ起こさなければいいけれど」

「うん、清ちゃんいつもありがとう」


 僕がお礼を言うと、清ちゃんがちらりとこちらを向いてまた前を向いた。

 僕も前を向く。


 って、スバルが静か?


 横を見ると、ぷるぷると震えている。



 あ、やな予感。


 

「日和……」

「す、スバルおちおぶっ!?」


― もぉおおおお日和大好き大好きだぁい好きぃぃい! 笑顔ちょうかあぁいいぃー!! ボクなんてめじゃないんだからぁ!! かぁいいのは日和だよぉ!! ―


 スバルに抱き付かれた。

 瞬間。


「……っ!」


 僕は繋がれた手を少し強く握り締めた。


「あっ、日和っ、ごめっ」

 

 抱き付くのを止めて、しまったという顔をするスバル。

 けど。

 さっと周囲を見渡す清ちゃん。


 ああ、これは。ちょっと……気配、漏れたかな。……若干。

 高ぶったスバルの妖気を、間髪入れず僕に流し込んで周囲に漏れないように取り込んだから……運良ければ、誰も気づかないはず。


 気づかない。




 あの人がまわりにいなかったら……―――――




 コツン……




「――――やぁ、日和さん、スバルさん」









 そして、冒頭に戻る。



 …………考えなくても、うん。


 スバルのテンションが高くて妖力がちょっとばかり漏れたから。


 ……あの程度で嗅ぎつけられましたか、そっか。


 例えるなら。

 ひとかけらの金木犀の花の香りが一瞬香って消えた。


 それで、どこに生息している樹木で、その樹木の健康具合、これからどのくらいの花を咲かせるか、わかる。


 僕達に言い換えると、どこにいて、どこに向かっていて、気分の優れ具合がわかる。

 ……プライバシー保護してよ。

 まぁ、東佐君がそばにいる時は、その他多数の信奉者が寄ってこないからその点は助かるし。……決して悪い人じゃないんだけどね。


 ちらりと隣りを見る。

 東佐君ににっこり微笑まれました。

 ……若干頬を染めてないだろうか。


「ヴヴーー」


 ……スバルが威嚇してる。

 そしてそんなスバルを微笑ましく眺める東佐君。あぁ、スバルの顔『コッチミンナ』の顔だ。

 で、清ちゃんは静かに苛立っている。うん、清ちゃん、東佐君あんまり好きじゃないからなぁ。


 どうしようって思ってるうちに、図書館には着いた。

 うん、とりあえず無言でちょっと一部ピリッとした集団が入ってきたら目立つこと間違いなしなんだけど。……僕、用事があるし。

 もう、半分放置しながら僕はスバルと一緒に図書館の受付に向かった。


「すみません、この本お返しします」

「はい、お預かりします」

「あと、注文していた図書を受け取りに来ました。名前は鹿嶋日和です」

「鹿嶋日和さん……あぁ、はいはいちょっとお待ち下さい。墨谷さーん」


 受付の司書さんは受付の奥に入っていった。

 多分、呼んでた司書さん担当ならすぐに目的の本が出てくるかな。

 僕は隣りに大人しく黙っているスバルの頭を撫でると、スバルはちょっと顔を上げてほっとした表情をした。うん、頑張ってテンション上がりきらないようにしてるんだね。

 少し和んだ後、若干後ろの視線が気になった。


 振り返る。


「すぐに用事は済みそう?」


 なんだか嬉しそうな東佐君がいた。


「うん、だから東佐君が着いてくるほどの大した用事じゃないんだ。清ちゃんにもご足労かけちゃった」

「いいよ別に。こちらにいる時は鹿嶋さんのそばにいた方が風紀委員として都合いいから」


 そう言うと、清ちゃんはすぅっと冷めた視線を東佐君へ向けた。……ほんと、なんでお前は来たって視線で言っている。それに気づいていないわけじゃないけど、東佐君は僕とスバルを見て言った。


「俺だって好きで日和さん達についてっただけだから、気にしないで下さいよ?」

「んー……」


 僕は曖昧な笑顔を浮かべた。

 悪い人じゃないんだけど、嫌いじゃないんだけど。学校で会うと、なんで東佐君は悪戯好きな少年みたいになっちゃうのかなぁ。


「鹿嶋日和さん、お待たせ致しました。ご所望の本、お渡しして……よろしいでしょうか」

「はい、墨谷さん。これ、カードです」


 僕は受付に振り返ると、司書の人にカードを渡した。するとバーコードを読んで、カードが返される。


「お返しします。……確かに、墨谷がお渡し致しました」

「確かに、頂きました。ありがとうございます」


 お辞儀をすると、ポケットに入れてたエコバッグに本を入れて後ろを振り返る。

 隣りにスバルはいない。


 あちゃあぁ……。

 もう、めんどくさい。


 僕は前を見て、


「ということで」


 言葉を選んだ。


「気にしないでくれると嬉しいかな――――……白夜」


 にっこり笑みを浮かべる東佐君。その視線の先にはスバル……が腕に抱き付いている白夜が目を細めてこちらを見ていた。

 一歩、僕は足を進めて……清ちゃんを背中に隠す。


「だから、早く、朔達の所に帰ってご飯食べよう?」


 見上げた白夜はあんまり笑ってない気がビンビンするよ。

 ……困ったように笑うのが癖になりそう。





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