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~ IF ~  作者: 名城ゆうき
第二章
25/30

2-3

 息を整えて、溜息をついてちょっと脇の花壇の煉瓦に座った。

 今僕達は普通科の校舎の側の渡り廊下にいて、その脇の中庭にいる。

 ここからはちょっと。


「気を締めないといけないなぁ」


 小さなつぶやきが口から洩れた。

 流霽りゅうせい学園は確かに、内部生には僕達『安栖』や妖怪達、人外を受け入れているけど、全員が全員、一般人に受け入れられているわけではない。私達に対して、学生生活をする上で拒否反応が強すぎる人は、僕達は接触しないように言われているし、表立って僕達の存在は知らされない。生徒会や風紀委員、科内交換生という例外はいるけど

 とは言っても。


「言うほどボク達のことバレてもモンダイないよねー」


 にまにま笑いながら、スキップをし出すスバル。……さっき走ったばっかなのにテンション高い。


「まぁ、流霽の中にいる分には基本ねー。入学審査で要注意の人はわかることだし、バレても手品やマジシャン養成所と思われるくらいかもねー」

「でも! 隠遁術の訓練だって思えばたのしめるかもー。ケハイをドロンするとかぁ」


 そう言いながら忍者の印を結ぶマネをするスバル。僕も手裏剣を投げるふりをする。すると「ばりあー」って言いながら手を広げるスバル……ってそれ忍術じゃないよね!?

 ま、ちょっと気を締めるに越したことはない。

 だって、最悪の事態が起きたら……。


「日和?」


 風が吹く。


 空が、雲一つなく。

 青で満たされる。


「日和ってばー」


 そんなことが起きたら……。


「え? え? 日和? どーしたの? ねぇ?」


 あぁ、こんなアオに……。


 そう、こんなアオ


 ドコカで



『記憶ヲケサレチャウネ』




 だれかの、こえが、きこえる


 

「ねぇッッ!!!」


ドンッ


「え!? うわ!!」


 気づけば、青空の前にスバルの泣きそうな顔が見えた。あ、違う。青空を背景にスバルの顔だ。ってそれも違うくて、僕、今スバルに押し倒されてる? 地面が芝生だったから痛くなかったけど……傍から見たらなにこの状況、だよ……って。


「あ、ごめんねスバル。ちゃんと聞こえてたんだけど……ちょっと考え事してて」


 あ、スバルすごく泣きそう。思わず僕はスバルの頭を撫でていた。それにちょっと落ち着いたのか、頭を下にして少し黙るスバル。……でも、すごく、心はまだ、ざわついてるみたいだった。落ち着かない。


「……ないで」

「え?」


 小さな声で何かを言うスバルに僕はじっと見た。

 するとぎゅっと、抱き込まれてポツリと耳に言葉を落とした。


「ボクを、おいてかないで」

「え?」


 そう言って、力を込めて抱きしめられる。

 よく、わからない。けど。


「もー! 日和は時々ジブンのセカイにぼっとーするから嫌! ほーちプレイ禁止!」


 そう言って、僕の上から退くと、口を膨らます僕の半身。

 起き上がると、僕はスバルの手を掴んだ。


「僕はスバルをほおってどこかになんか行かないよ?」

「……わかってるもん」

「でも時々不安になっちゃう?」

「日和が時々空を見るから」

「うん、空は見ちゃうけど」

「……空なんか、雨で曇っちゃえばいいのに」

「時々、雨もいいよね。雨、小雨だと気持ちいいよね」

「……日和が空を見ないなら、ずっと雨でいい」

「スバル?」


 ふと、足を止めた。すると、手を繋いでいたスバルも止まる。

 なんか、違和感がする?

 スバル、足取りがしっかりしてて、言葉が。そう、言葉もなんだか……。


「ん? なぁに? 日和?」


 スバルが綺麗に笑っていた。



「……ちょっとそこにいる2人!」


 すると突然僕達に声がかかった。

 中庭から渡り廊下に向けて戻ったところで、前からポニーテールの女の子がやってきた。

 あ……。


せいちゃん、久しぶり!」

「あいかわらず風紀委員、いそがしそー?」


 その子――三津上みとうえせいちゃんは、資料を手に僕達の元まで来た。


「久しぶり。風紀委員は相変わらずだよ。二人は第一図書館か、第一ノ九資料室に用事? まさか生徒会室に行こうとか思ってないだろうけど」

「流石清ちゃんだね、第一図書館に用事」

「まちがってもきょーごくさんのいる生徒会室はありえないよー!」


 後ろで僕にのっかかりながら『遺憾だ!』と言わんばかりにムスッとするスバル。そんな様子に気にも留めず、清ちゃんは時計を見た。なんだか仕草がデキる女子だ。


「……昼休みから20分過ぎてるね。またじゃれてたの? 背中に草ついてるよ」


 指摘されてはっとする。


― じゃれた跡みられたかなー? ―

ちょっとスバル、制服汚れたらどうしてくれるの!

― そんなの力でちょちょいと ―


 風が吹く。

 背中の草もおそらく、全部落ちたんだろう。……汚れも含めて。


 ……だから無駄に力使うなってば。てへぺろじゃないからね?


 そんな僕達の様子に溜息をつく音が聞こえて振り向くと、清ちゃんが髪の毛を耳にかけながらこちらを見ていた。


「用事済んだらあんまり普通科校舎に残らないようにね。貴方達、一部の中で割と有名だから」

「おぉう。ゆーめー人はつらいよ」

「えぇ、もうめんどくさいのはイヤだ」

「……鹿島さん達の言ってる意味、ちょっとずつ違う気がするけど。まぁ、ここで会ったのもなんだし」


 手元の資料を見ると、清ちゃんは僕達を見た。


「とりあえず図書館、一緒に行っていい? 積もる話もあるし? 特進二科に用事があったけど、鹿島さん達に頼めば済みそうだしね」

「そうだんだ? あ、それ? じゃあ僕預かるよ。大した用事じゃないんだけど、清ちゃん付き合わせちゃって申し訳ないし」

「あぁ、ソレ、後でしの先生に渡しといて。私からって言ったらわかると思う」

「そーなんだ?」

「そっか。ってちょっとそろそろスバル離れて、首締まってきた」

「はいはぁーい」


 今回はすんなり言うことを聞くスバルは、すとんと地面に着地すると、一歩二歩歩くと僕に背を向けて伸びをした。


「鹿島スバルは鹿島さんを絞めるのがよほど好きなのね」

「え、それはちょっと、違うよ?」

「いつも鹿島さんの首を絞めている感じがする」

「抱き着いてるだけだからね?」


 少しばかり生暖かい目で見られたから、否定しておく。うん、それは違う。ちょっとばかし、腕に力が入っちゃってるだけで。

 そこでふと振り返ると、スバルが僕に背を向けたまま空を見ていた。


「もう、ボクを、おいてくなんて、ゆるさないから」


 だから僕はそのスバルの声を、『空』に『消されて』、聞こえなかったんだ(・・・・・・・)と思う。


「スバル! そろそろ行こうよ!」


 僕はスバルの元へ行くと、再び手を繋いで図書館へ向かった。


「……そーだね!」


 それでも、一緒にいると言う約束は覚えていた。

 だから……スバルから繋がれた手を、一言もなく僕から離したことはない。


 そんな僕らを少し、冷えた目で清ちゃんが見ていた気がする。


「……そこの馬鹿2名、少し妖力制御足りてないんだけど」




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