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~ IF ~  作者: 名城ゆうき
断章1
22/30

断片 祷1:静、在りて優に包むは……

「おっそい。なにやってたの?」


 扉から出て早々、詠里の冷ややかな声で迎えられた。

 見ると拗ねたような顔の彼女と苦笑した千弦。あぁ、千弦は怒ってなさそうだ、よかった。千弦が怒ると僕には扱いづらいものがあるからね。その時は伊成にパスだけど。


「ごめんね、少々所用で時間がかかっちゃってね」

「ごめんごめん、お待たせ。電車の時間はまだあるけど……どうする?」


 伊成が千弦、詠里そして僕へと顔を向けながら言う。


「そんなめんどくさい手段で帰りたくないわ。手っ取り早い方法があるでしょ」

「まぁ詠里の言うとおり、その意見には僕も賛成だけど」

 

 通常電車で帰るのが普通だろうけど、4時間かかる。その時間がもどがしくて仕方がないし、詠里が落ち着かないだろう。

 けど。


「うーん確かにそうなんだけど、緊急用の手段でしょ、アレ。そう易々許可下りるもんなの伊成?」

「いや、千弦の言うとおり易々は下りない、けど」

「――けど降りるんでしょ? さっさと連絡入れなさいよ」


 僕はにっこり笑いながら彼らのやり取りを見つめる。

 こういう時、詠里が場の流れを作ってくれるから、すごく助かるんだよね。

 時々、詠里は僕の気持ちを代弁するかのような発言をすることがある。性格は違うけど、気が合うんだろうね。


「……心配なの、二人が」


 不意にぽつりとつぶやく詠里。それに場が静かになる。


「早く、そばに、行きたい」


 その言葉に僕たちは顔を見合わせた。

 くすりと笑いながら肩をすくめる千弦、頭をかいて仕方なさそうな顔をする伊成。皆、考えていることは一緒なんだなと、わかった。

 それに。


「詠里、今日はやけに素直だね?」

「な、なに。変?」


 にっこり笑いながら近づくと、若干顔を赤らめながら不安そうな顔する彼女。


「ううん、可愛くていいんじゃない?」


 せっかく珍しく素直な詠里だし、僕も皆も日和とスバルの顔を見たいんだから満場一致で問題ないでしょ?

 くるりと振り返って伊成と千弦を見た。


「そーだね。素直な詠里に免じて特別大サービスしたっていいんじゃないかな、伊成?」

「俺もいいと思うんだけど……千弦も賛成なんだし……まぁ、いっか。ごめんな狭霧さん。とりあえず狭霧さんと日和達へのお土産兼差し入れを買ってから行こうか?」

「そ、そうね! その間に狭霧さんに連絡入れて、準備して頂こ!」


 ぱっと表情を明るくして詠里が言う。

 それを見て、表情を出さずに僕はほっと息をついた。詠里……今朝の悪気に障った影響とか、なさそうで安心した。

さっそく、近くの土産物屋に向かおうと早足で歩き出している。

 それに僕たちは続いて歩く。その時肩を叩かれた。

そちらへ向くと物言いたげな笑顔の千弦。

 彼女も、特に体調に変わりはなさそうだ。そうわかって、肩の荷が下りたように気が緩む。


「なに?」


 若干自分でも驚くくらい優しい声になって一瞬戸惑ったけど、そのまま彼女を見つめ、話の続きを促した。


「んー、安心して?」

「何を?」

「私達、そんなやわじゃないから」


 一瞬何かわからず、言葉に詰まったけど、息を吐いた。


「……気づいてた?」

「まぁね、多分詠里も知ってるんじゃない? お灸はほどほどにしないと呪い返しされんぞ」


 どうやら僕たちが、悪気を飛ばした犯人にお灸をすえたことがばれたらしい。

 くすりと笑うと、僕は口の端を上げた。


「僕たちは『相応』の対処をしただけだよ? 呪い返しされるいわれはないね。それにもらう理由のないものは、ちゃんと返品するから安心して?」

「あーこわこわ。でも――――ありがと」


 微笑みながら言うと、だいぶ先に歩いている詠里の元へ千弦は走っていった。


「先、お土産を物色してくるわ!!」

「おっけー、いってらっしゃい」


 大声で呼びかける詠里に隣の伊成が答えたのを見て、二人はそそくさと大通りへ歩いていった。それを見届けると僕は息をついた。


「……伊成、気づいちゃったじゃんか」

「ん? まぁ、千弦の勘を欺くのは至難の業だからなぁ。詠里は無意識に気づいてるだけだろうけど」

「隠の能力は詠里より上だからね。詠里にはわかりにくいだろうけど、千弦のは野生の勘。なにアレどうしていつもわかるの」


 若干、悔しくてつぶやくと伊成が笑った。


「何気に縄張り内のことは把握しちゃう性質だろ? 千弦は」

「君に似て案外さっぱりと怖いからね」

「なにそれ、味付けみたいな言い回しするなよ。……ああそうだ」


 ふと思い出したように言うと、にっこりと伊成が笑った。……うわ、なんか嫌な感じ。


「さっき何気に詠里を誘導してたろ?」

「そうかな?」

「厄介事俺に押し付けようとしたのバレバレ。代わりに狭霧さんに連絡。よろしくな!」


 肩を叩かれて爽やかに笑うと、伊成は詠里達の後を追った。ちっ、逃げたね。

 仕方なく、僕は携帯電話を取り出すと電話をかけた。式でも連絡できるけど、霊力の無駄使いをしたくないのと、携帯だと相手が誰かを確認せずに狭霧さんは電話を取るから。

 案の定、すぐに電話に出た。


「はい、片吹かたぶきです!」

「こんにちは、狭霧さぎりさん」

「…………」


 一瞬沈黙が落ちる。

 ちょっと携帯を遠くに離す。

 ……そろそろかな。


「……っつあああああ! 出るんじゃなかった! なんですか!? また無茶振りですか!? そうですね!? いつもですもんね! なんで私は出てしまったんだ!」

「いやだなぁ、僕、まだ何も言ってませんよ」

「もうやだ、なんで祷さんなんですか。伊成さんならまだ交渉できたのにっ」

「そんなこと言わないでください。寂しくなるじゃないですか」

「貴方はそんな可愛らしい性格はしてないです」

「時々日和達には可愛いと言われるよ、僕」

「日和ちゃん達が天使しぎるだけですよ!!」


 その言葉に僕の周りの空気が一気に冷たくなる。

 ああ、なんだかね。小さなことだってわかるけど腹が立つんだよね。


「……狭霧」

「あ、すみません。日和さん(・・)達でした」


 知らず低い声音になってしまったようで、狭霧さんが大人しくなった。若干声が震えているようだけど別にいいか。


「……転移術式の使用許可、ですか」

「お察し頂けたようで嬉しいです」


 けど。不意に疑問が浮かぶ。狭霧さんは、言ってはなんだけど、少々気が抜けた人。あらかじめ僕の行動を読むなんて出来ないと思うのに。

僕はもしもの可能性に気づいて眉を寄せる。


「狭霧さん、もしかして知ってるの?」

「えーと、日和さん達が養生中ってことは知ってますよ。あ、言っときますけど別に探りに行ったとかではないですから!」


 慌てたように言い繕う狭霧さんに、僕は確信した。


「ただ、司様がお見舞いに行ってきた話をされたので存じてるだけですよ!」

「……あの親父、僕より先に日和達の顔を見やがった」

「え、え、祷さん? あの、その、とりあえず! 詠里さん達もご一緒ですよね? 頑張って準備しますよ!」

「即座に」

「はいぃ!」


 悲鳴じみた返答を最後に電話を切ると、僕は顔を上げた。

 太陽の日差しが暑い。

 どうせ、転移術式は人の目がつかなくて条件のいい、神社の境内の影がいい。人ごみは苦手だし、僕は術の展開場所になるだろう神社に目指して歩き出した。……暑いのは苦手だしね。

 


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