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~ IF ~  作者: 名城ゆうき
断章1
20/30

断片 千弦1:天、仰いで凛と翔るは……


 踏み出す足の裏に感じる土の感触。

 少しヒンヤリとした清々しい空気と風が頬を撫でる。

 木々の間から漏れる朝日が背中に当たり、温もりを感じながらあたしは神社への参道を走っていた。

 

 いつからだっただろうか。詠里えいりが巫女関係の集会やら会合やらに召集されるたびにこうして、あたしも一緒に付き添うようになった。

 多分出会って、仲良くなってそんなに時間が経たなかった頃からだったと思う。そもそも、初めて会った時から詠里にしては珍しく、あたしは気の許せる相手だと思われたみたいだ。だからかれこれ5・6年は経ってるのかな。そう、思い出しながらあたしはいったん足を止めて上を見上げた。

 そこには朱色の大きな鳥居。

 参道の横の木々はさわさわと優しい音を経てる。

 ……それはここを守護する祖霊や精霊達だ。


「おはようございます。今日もいい天気ですね」


 あたしはそう言うとにっこり笑った。

 そして鳥居の前で一礼。真ん中の道を避けて、神社の中に入る。

 昨日はここの宮司さんが主催で、内々の例祭と会合が行われた。その中にあたしがいるのは少し……うーん、ちょっと異例だったかもしれないけど。占の一族でも巫女でもないからね、あたし。ま、詠里と一緒に毎年毎回来てるから、慣れたものだし顔見知りも出来たから今ではそんなに気にしなくなった。

 なにより、詠里があたしを頼ってしおらく……可愛らしくなるし、あたしがいると安心するみたいだから。

 ……いのり伊成いなり達とちょっとした旅行しているようで楽しいってのもあるけど。


「そんなことを考えたら、日和やスバルが焼きもち妬くよなー」


 二人の大親友を思い浮かべ、笑みが浮かぶ。……というか、ちょっと寂しくなった。賑やかだもんな、二人がいると。というか、二人には詠里もついツンデレ根性出しちゃうのと、本気でぶつかれる相手だから遠慮なくじゃれるのもあるんだけどね。

 御手洗場で両手をすすぎ、口を清めるとハンカチでぬぐった。

 日和とスバル、詠里達と一緒にいると、本当に楽しい。生まれ持った力を、隠して無理に抑え込む必要がないから。自分も、皆と変わらない、安心していいんだって思えるから。

 あたしは少し一般の人の基準を超えた『力』を持っている。

 わかりやすい一言で言えば、あたしは『超能力者』である。どんな力かと言うと、映画とか漫画とかによくある透視とか遠視、何もないところから水や火、雷、風とか起こしたりとか様々。想像するだけで、出来てしまうものだから幼い頃は困ったっけ。

 こんなあたしはある種、巫女に通じるからというのもあって、一応ここの会合に参加しても文句言われないみたいだ。あ、あと師匠の口添えとかもあるんだけどね。


「でも、時々ほんと心配だわ」


 あたしはふっと息を吐くと、誰ともなく言った。それにこの神社の神木の主に仕える神使がひょこりと出てきて、こちらをうかがった。青い目をした白い子猫の新米神使だ。ここに来てちょっと仲良くなった。


「うん、あの子、結構繊細で敏感だから」


 しゃがみこんで、頭を撫でると子猫神使は気持ちよさそうに目を細めた。手に伝わる毛がものすごく滑らかで、こっちの方が気持ちいいわ。

 そう、詠里は昔から周りの『気』に敏感な子だった。一般的に感じることができない清廉な空気を感じたり、何も話してなくても共感してしまったりするんだ。それが悪い影響を与えないのならいい。でもそれを気味悪がられることもある。悪意や敵意、害意とかも感じてしまう。それも海の中に放り込まれたスポンジのように察知して自分の内に溜め込んでしまう。

 だから……無意識に、詠里は人との間に壁を作る。

 自分が傷つかないように壁を作ると共に本心を読ませなくするし、言葉も少し突き放した言い方もする。

 あたしや日和やスバル達は、その点信用されてるし、懐かれてるみたいだけど。


「ま、あたしが出来ることはそんなにない。けどそばにいることは出来るし、あの子も傷ついてばかりじゃないから」


 それに周りの人皆がそんな悪意のある人ばかりではないんだ。

 あたしは「ね?」と子猫神使に声をかけると、相手はすっと目を細め一声鳴いた。

 それに満足すると、少し神社の周りを回ってから外へ出て再びジョギングを15分ほどしてから泊まっている部屋へ戻った。

 まだ、詠里は寝ているみたいだ。

 時間は5時半手前だし。詠里はあまり朝、こんな早く起きないだろう。あたしは 毎日軽くジョギングするのが習慣だし、朝は早く目が覚めちゃうんだよな。

 ということで、いい汗もちょっとかいたことだし先にシャワーを浴びさせてもらうことにした。




 思えば、思った以上に詠里は繊細で寂しがり屋だったのかもしれない。


 シャワーから出てきてみれば、詠里が起きていたようだったから声をかけた。けれど様子が変だった。見ると 周りには少しうっすらと澱んだ黒い気が漂っていた。

 あちゃー、気が詠里を包んでいる。これは詠里には辛いわ。

 さり気なく気を浄化して、詠里と会話していると段々彼女は気を取り直したようでほっとした。まったく、世話が焼けるわ。シャワーを浴びに行った詠里の後ろ姿を見ながら思った。

 あと……。


「うん、しおらしくなった詠里はめちゃくちゃ可愛いわ」


 彼女がいないことをいいことにあたしは呟いた。


「ということで、こっちは大丈夫だよ――――祷に伊成」


― うん、ありがとう千弦。彼女の気が結構澱んでたからちょっと心配したんだよな ―

― ま、大丈夫とは思ったけど念のためにね? ―


 あたしの言葉に伊成と祷が念話で話してきた。

 少し前からだけど、実は二人がこちらの気を探る気配がしていた。詠里は寝起きで気づかなかったかもしれないけれど。これが様子を透視して見てきたりしていたら、二人をはったおしていた。や、あたしも女の子だしいくらなんでも覗きは許されないからね。

 あたしは二人がいるだろう部屋の方へ向いてにっこり笑みを浮かべると、意図をくみ取ってくれたらしい。気配を探るのを止めてくれた。

 うーん、言ってなんだけど実は伊成達も、そして日和達も詠里に過保護なところあるよね。


「ただいま……ってなに一人でにやにやしてるの。気持ち悪いわね」


 そこにいつの間にか詠里が帰ってきた。どうやらわりと時間が経っていたらしい。


「んーん? 思い出しニヤけやら想像ニヤけやらしていただけ」

「……千弦、それ傍から見たら不気味極まりないわよ」

「ごめんごめん。それよりさっさと片付けて朝ご飯食べに行こっか」

「そうね。ご飯も早めに食べて帰る準備もしないといけないし」


 ふっと息を吐いて鞄を漁りながら言った詠里の言葉に首を傾げる。

 あれ、予定は昨日で終わってたよな? 今日何かあったっけ?

 それが顔に出ていたのか、服を手に振り替えると詠里が顔をしかめた。


「……はじめから、連絡あったでしょ」

「え? 用事頼まれたの? もしかして。あたし聞いてないけど」

「朔じゃないなら……あいつから何か聞いてないの?」

「ん? 白夜びゃくや? あたし、白夜の話は話半分しか聞いてないわ。あいつの言動結構ふざけてるしね。もしあいつのお使いなら無視したらいいと思うけど」

「違う! だから……っ」


 詠里は徐々に険しい表情を浮かべると、言葉を一度詰まらせた。

 どうやら話が食い違っているらしい。……となると、あれ? もしやこれは。

 あたしが目を瞬かせて詠里を見ると、顔赤くしながら彼女は言った。


「だからっ! スバルと日和がまた『風邪』引いたって聞いてないの!?」


 あ、やっぱりそのこと?


「聞いてるよ」

「――っ。早く準備して、二人のところへ行くわよっ」


 そう宣言すると、少し黙って持っていた服をきゅっと握った。そしてしばらく握った服を睨むと、聞こえるギリギリくらい声を抑えて小さく詠里は呟いた。


「―――――病気の時は、寂しくなるんだから。見舞いに行ってやるのっ」

「……うん、そうだねー」


 返事を期待してたわけじゃなかったのか、あたしのちょっと間抜けた答え方が悪かったのか、キッとこちらをひと睨みされた。そしてすぐに詠里は服を着替え始めた。

 や、だってびっくりするじゃん。

 普段あれだけ二人を突っぱねているのに、今のって…………かなり心配した顔で赤面されたら、ねぇ。

 スバルじゃないけど、うん、これはツンデレ効果の萌えだと思う。この状況知ったらなんか、日和とスバルが焼きもち妬きそうだ。というか、悶え倒れて過呼吸起こして更に熱出そうかな、あはは。……ちょっと真剣にそんな気がしてきた。話すのはやめておこう。





千弦のイメージは『鳥』。

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