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~ IF ~  作者: 名城ゆうき
断章1
18/30

断片 スバル1:虹、渡る



 ボクと日和は白夜に『瘴気』を『食べて』もらっている。


 ずずいと柚子ジュースを飲みながらチラリと片割れを見る。

 幾ばくか顔色が良くなったかな。

 気づかれないように小さく、ほっと息をつく。


 日和はしょっちゅうそれはもうしょ――――――っっっちゅー『瘴気』をもらってくる。


 それはそれはもう呆れてため息ついて無表情に冷たい目で見つめて差し上げたくなるほどに。

 ちっちゃい頃から何かにつけ、というか動くたびに吸い込んで取り込んで自分の中で消化させようとする日和。無意識でしちゃうそれを、ボクと朔を含め、家族みんなが止める方法を模索していた。けれど、止めさせることなんて出来なくて、いち早く『瘴気』の存在を知れるボクは、消化を手伝ったり、時々代わりに引き受けたりすることもある。

 今回はそれのちょっと厄介バージョン。


 日和の『染化』が間に合わなかった。

 ボクの『転化』がしきれなかった。

 朔の力で『滅化』してもよかったけど――――白夜に『喰らって』もらうのが一番だった。


……もし、祷と伊成達がそばにいてくれれば、下手な『瘴気』を取り込むことはなかったかもしれない。


― ボクのワガママだけど、二人にそばにいて欲しかった ―


 そうしたら、日和のそばにあんな『瘴気』なんて寄らないはず。

 ボクも『瘴気』に心をアテられなかったはず。

 白夜は『喰らう』ことが出来て、朔は『滅化』することが出来る。

 でも『昇華』と『浄化』は祷と伊成の専売特許だ。

 なにもしなくてもその存在がいれば、呪詛とか故意でない限り元から『瘴気』なんて寄らない。


 知らずと、ボクはきゅっと口を噛む。


― なーにが家業の恒例行事さ! ボク達がこんな目に会うのに千弦と詠里まで楽しく五槻宮ブラザーズと一緒に修行という名のきゃっきゃうふふお泊り会に行っちゃってさぁあ。さーいーあーくぅううううっっ!! 胸糞わああぁあるぅいぃ!! ―


― ……スバル ―


 そんな時、日和が思念でボクに語りかけてきた。


― 拗ねちゃあダメだよ。一緒にお泊り会行きたかったのはわかるけど。それに『瘴気』寄せはあの四人のせいじゃないから ―


 その声は苦笑が混じったような、どこかボクのことを微笑ましく見てるような雰囲気がした。なにさ、日和だって羨ましくて、寂しいくせに。いー子ぶっちゃってさー。大人で物分りがよさげにしちゃって白々しいね!

 だけどそれは口には(念話には)出さずにした。言ったら日和泣いちゃいそう……ボクもだけど。


― 千弦だけでもいてくれたらこんなことなかったもん。ボクも日和に怒られなくて……すんだ、もん ―


 気持ちを抑えて、選んだ言葉だけど……若干怒った時の日和を思い出して落ち込んだ。普段怒らない子が怒ると、ダメージおっきいってほんとだよ。みんな気をつけてよ。

 でも……


― ボクだって、日和につっかからなくてすんだし。ボクも、怒ってたんだよ? ―

― そ、そのことは……うん。お互い様だね ―


 お互い様……ねー?

 日和が病気にかかるたびにヒトがどんだけ心配するかわかってるのかなー、もー。

 微熱と食欲不振と眠い状態が1週間くらい続くだけ。日和はそう思うけど、実際は無呼吸睡眠になってたり、元々体温低いから微熱でも本人には普通に熱で、食欲ないとエネルギー不足で生命維持に支障を来すこともあること知らないとは言わせないんだけどなぁあ?

 などと、ぶちぶち内心で(念話ではなく)文句言ったら、すごく落ち込んだ気配がした。念話じゃなくても考えてること結構わかっちゃうんだよね……。

 むう、わかってて今後気をつけてくれるなら許すよ。ボクも大概日和にあまあまだよねー。

 くすりと笑いながらボクは日和に擦り寄って、日和も微笑みながら額をボクの頭に乗せてきた。


― 僕も確かにスバルに甘いと思うよ ―

― 水アメのようだよね! お互い! ―

「あーぁ、いい加減二人のらぶらぶ見聞き飽きたよ。こっちも構って」


 が、突然そんな声と頭を叩かれた。あ、白夜だ。

 カーペットに雑魚寝していたボク達が見上げると、にっこり笑顔を張り付かせた彼。あ、放置されてちっと怒ってる。というか朔も……無表情でこっち見てるねー、アハ。


「え、えとごめんね? あとやっぱ聞いてたんだ念話」


 あわあわしながら笑みを作ろうとして引き攣る日和。ダメだよそれ、そんな顔朔の嗜虐心をそそーる……ってボクの今の顔もダメだったぁー。わーい。

 日和の顔を見て微笑む朔に気を取られてたら、バッチリドッキリ白夜が口の端を上げてボクを見てましたー。ガン見テマシター。 


「俺達の間にはどんな『壁』だって無意味」

「肉体、心の壁とかなにそれ美味しいの? あ、二人のなら美味しいのかなぁ?」


 この時、ボクと日和は同化した。


 ……愛情やら執着やら興味やらが全面的にこっち向くから早くカエッテキテー。

 早く帰らないと、そのうち軟禁されてもボクも日和も許容シチャイソウダヨー。


 日和と一緒に曖昧な笑みを浮かべながら、祷と伊成、詠里と千弦に想いを馳せたのだった。これがボク達の日常茶飯事で、じゃれ合いみたいなもの。まだキケンじゃない。……うん、まだ、ねー。


 あ、そういや白夜の『お食事』終わった。






●補足


・『消化』

 意味は言葉そのままの、吸収消化の方ではなく、何らかの形で消え去ることを指す。広義では『咀嚼』でも可。

・『瘴気』

 人の悪意や淀んだ空気などが凝り固まったもの。普段歩いているだけでも、多少は身に触れるものだが、身体にたまり続けたり、特殊な体質で吸い取り続けたら危険。あと濃度の濃い瘴気は気配で通常の人でも悪寒がする。また、直接触れなくてもあてられる。

 これに対して、対処する方法が複数ある。日和達が個人の能力や適正別に対処している方法は以下の通り。


日和:『染化』

 同化と転化に近い。限りなく許容できるものに他己を変える。イメージ:ワクチン 

スバル:『転化』

 本来の性質を別のものへ変換する。イメージ:化学反応

朔  :『滅化』

 消滅させる。イメージ:ブラックホール

白夜 :『食事(喰らう)』

 そのものを喰らい、動力として取り込む。イメージ:調理

祷  :『昇華』

 性質を細微に分解分離して還元させる。消えてなくなる。イメージ:腐葉土

伊成 :『浄化』

 無害化してあたりに漂わせる。イメージ:熱除菌 

詠里 :『鎮火』

 勢いを静めて、自然消滅(循環)。勢力を抑える。イメージ:鎮静剤

千弦 :『生進』

 自己の治癒力を増長させ、消化させる力を増強する。イメージ:ユンケル



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