断片 日和1:雲間に青
「ところで、俺に何か頼むことがあるんじゃない?」
白夜のその言葉に、僕は顔を引き締めてうなづく。
そう、僕が取り込んでしまった『瘴気』。今回は相当僕とスバルにとってタチの悪いものだった。
いつもならそんなに僕の病気を吸い取るスバルの行為を咎めなかった。ほんとに、いつもちょっと怒るけど、今回は別。
普通の『瘴気』なら僕もスバルも消化――――つまり、消し去る。いつの間にか朔も消してくれることもある。ただ、それがやりにくいものも確かにあって、今回がそうだった。そういった類の『瘴気』に当てられると、僕の場合は微熱が続く。食欲が無くなる。眠たくなる。それがちょっと1週間くらい続く。
けれど、スバルがかかったり、身代わりになると症状が変わる。
全身の関節痛、偏頭痛、痙攣。
そんな苦しくて痛い思いをさせるくらいなら多少の微熱や食欲のなさとか、全く比較するまでもないじゃん!!
と、一瞬再燃しそうになった怒りを沈める。
「うん、白夜にちょっと『瘴気』を、穢れを消化して欲しいんだ」
「日和の頼みなら、喜んで」
そう言うと白夜は優しげに目を細めると、労わるように僕の手を取った。
あ、ちょっと今すぐやるつもりだ。
「ま、待って! スバルが来てから!」
そう言うと、白夜は笑顔のまま空いた手で頭を撫で、そのまま僕を胸の中に押し込めて顎を頭の上に乗せてきた。
そして……唐突に空気が重くなった。
「ねぇ朔くん? スバルをほっぽって来たんだ? スバルに非道いことしたら俺許さないんだけど?」
「身支度整えてからこちらに来る、先行けって追い出された。今終わった」
「チッ」
なんだか一オクターブ低い声で朔と白夜が会話している。
顔は見てない。見えてないけどちょっと怖い。
けどいつもの応酬。じゃれあっているみたいなもんなんだよね。
― こわーい。けどそんなとこはボクもカワイーって思うよ ―
スバルの声が聞こえてもぞもぞと白夜の腕から振り返って見る。
空中に大きなシャボン玉のようなものが現れて、スバルとさっきまでいた部屋が見えた。かと思うと、ぷるんと、中からスバルが出てきた。
それに朔が手を伸ばして抱きかかえて下ろした。
スバルの足が若干床についた時点でシャボン玉は消えた。
― 白夜、おジャマするねー ―
「スバル、別に俺はパジャマでもよかったんだけどな」
― 『瘴気』を落とすにはまずカタチから! ―
「ん、そうか。えらいえらい」
― うへへぇー ―
挨拶をしながら頭を撫でられるスバルは実に嬉しそうだった。
ん、僕もさっき撫でられたからいいよ。……ちょっとスバル血色良くなった。流石白夜、撫でながら『瘴気』を消化していってる。
「とりあえず、俺の部屋でいつものようにくつろぎながら消化してあげる。おいで二人とも」
僕とスバルの手を掴むと白夜は自室に連れて行ってくれた。
言葉通り、体にほとんど負担をかけないように僕たちにかかる重力を最小限にしてくれながら、連れて行ってくれた。白夜、優しい。
それを見て、朔はくるりと背を向けると台所に足を進めた。
「じゃあ、俺、飲み物とか適当に用意してくる」
「男の部屋に大事な子達を連れても、いいのかなぁ?」
一瞬立ち止まって白夜は後ろを振り返った。
それにぷっと笑う朔。
「俺は相方を信用してるから」
面食らった顔をする白夜を面白そうな顔で見ると、朔はそのまま奥に消えた。
「……苦手だ、あいつ」
なんだか拗ねたように顔を背けると、白夜と三人で部屋に入った。
ちらりと横を見る僕。
同時にこちらを見るスバル。
― なんか、白夜可愛かったね? ―
― ボク、朔のおもしろそーな顔、スキー ―
― 確かに朔の顔若干悪戯っ子みたいな感じで僕、眼福だったかも ―
― 目のホヨーだね! 白夜もちょーくぁーいかった ―
うへへぇと笑うスバル。
うぇへへと応える僕。
憎まれ口をたたきながらも、やっぱり朔と白夜は仲がいい。