聖女様(ただし帰りたい)
「……あれ?」
目を開けた瞬間、私は思った。
――知らない天井。
やたら高い、やたら豪華、やたら金ピカ。
…金の無駄遣い
さっきまで私は、自宅で洗濯物を干していた。
しかも片手にハンガーを持ったまま。
……そのハンガー、まだ握ってるし。
「……え、これ持ってきたの私?」
意味がわからない。
「成功だ……!」
「聖女召喚の儀は完璧だ!」
正面から、感動で震える声が聞こえてきた。
見ると、豪華な服の大人たちと、イケメン軍団がずらり。
……何だこの顔面偏差値の高さは。
「ようこそ、聖女様」
中央の金髪青年が、優雅に一礼した。
…鬱陶しいくらいにロイヤルだな
「私はこの国の第一王子、レオンハルト・アルヴィスです」
…あ、知ってる。
これ、異世界テンプレだ。よくある聖女召喚だわ…
大体この後に続く言葉って…
「突然ですが、あなたには我が国を救っていただきたいのです」
…はい出たーーーーーー
救済ミッション。異世界から聖女召喚してまで助けてほしい原因って絶対、この金の無駄遣いでしょうよ。やたらゴテゴテしたこの場所だって、もうちょい質素でいいと思いますけどね!!
「……あの」
私はそっと手を挙げた。
「はい、聖女様!」
「すみません。まず一ついいですか」
全員が息をのむ。
「私、帰りたいんですけど」
一瞬、空気が凍った。
「……え?」
「いや、だって。今日カレー作る予定だったし。子ども迎えに行かなきゃだし」
「……こ、こども?」
王子の顔が引きつる。
私は胸を張って宣言した。
「私、日々野凪。32歳。既婚者。二児の母。以上」
「え……?」
「き、既婚……?」
「……子持ち……?」
周囲がざわつく。
「いや、ちょっと待ってください。聖女って、普通……」
後ろの騎士っぽい人が小声で言う。
若くて、清楚で、独身で……」
「知らんがな!!」
思わずツッコんでしまった。
「こっちは望んで来てませんから!」
王子は青ざめながら言った。
「で、ですが……あなたには強大な聖女の力が……」
「いや、世界救うとかこの国救うとかは100歩譲って良しとしましょう。いやよくはないけども!!こちとら、これから子どもの迎えに晩ごはんの支度だってあるのに!!召喚されたんですからね!!ちゃんと帰してもらわなっ!!うわっなに!?」
その瞬間。
私の体が、ぼわっと光った。
「うわっ、まぶしっ!」
「こ、これは……歴代最高クラスの聖力……!」
…え、なにそれ。
聞いてないんですけども。
「……とにかくですね」
私は深呼吸してから、きっぱり言った。
「世界救う前に、帰る方法探してください」
沈黙。
「とりあえず、帰れるまで付き合いますけど」
「その代わり」
ニッコリ笑う。
「ちゃんと帰る方法探してくださいね?」
こうして――
人妻聖女・日々野凪の、
前代未聞の異世界生活が始まったのであった。




