はじまりの音
「真野かなめです。噂の四つ子の三番目です。楽器めちゃくちゃ初心者です!」
よろしくお願いしますと言い終わらないうちに、調子よく頭を下げる。
「お!噂の四つ子の子か!うち来てくれたんだね」
「あ、わたしも四つ子で末っ子で、羅野まひろっていいます」
少し気まずそうに、でも丁寧に深々と頭を下げるまひまひ。
「え、四つ子、流行ってんの?」
「二組もいるのは知らなかった」
先輩たちは驚き、ざわめく。
そんな中、少し落ち着いた雰囲気のある先輩がまひまひの前に立った。部活紹介でギターを演奏していた人だ。
「よろしくね。ちなみにまひろちゃんは経験者?」
まひまひは「ドラムを少々……」と答える。
途端にその先輩は目を輝かせた。
「まじ?あたしのバンド、ドラムが先輩で卒業しちゃったから今いないんだよね。よければ一緒に叩いてみない?」
これからあたしのバンドの練習枠なんだよねと先輩はニカっと笑う。
「ぜ、ぜひ……!」
せっかくだからとオレや他の一年生もその様子を見させてもらう。
部室奥に置かれたドラムセットの前にまひまひが立つ。
「スティックある?なければ貸すよ」
「あ、持ってます……!」
まひまひがケースからスティックを取り出す。ギュッと握りしめるまひまひは今まで見たことがないくらい、真剣な顔つきをしている。
「この曲いけそう?」
「大丈夫です」
カウントが鳴る。ワン、ツー、スリー、フォー。
ダンッと鳴った一音で部屋の空気が変わった。
壁際に立っていたはずなのに思わず一歩前に出てしまう。
まひまひが先輩たちと叩いている。
「かっけえ……」
その曲が終わってもなお、オレは感動の震えを止めることができなかった。
「お疲れ!ありがとう!まひろちゃんすごいうまいね!?」
「あ、ありがとうございます……!」
先輩たちに詰め寄られてまひまひは一瞬たじろぎながらも、とても嬉しそうにしている。
オレはそんな様子を見ながら少しぼーっとしてしまっていたようだ。ようやく解放されたらしいまひまひに何回か声をかけられて我に帰る。
「ごめん、なんだった?」
「ううん、ずっと固まってたから大丈夫かなって思って」
気になるの?とギターを指差し、まひまひが微笑む。
「え?何で?」
「だってずっとそっち見てるから」
「お、じゃあ真野君もやってみる?他の一年生も気になる楽器持ってみて」
差し出されたギターを思わず受け取る。結構重い。
「ここ指かけて、こっちはこう」
先輩に言われるがまま、指を動かす。
これがかなり難しい。
「どう?初めてギター触った感想は」
思うように指が動かない。それに痛い。
「楽しい…‥けど悔しいです!」
そんな感想が自然と出たことに自分でも驚いた。しかも悔しいと本気で思っているのに、なぜか胸が高鳴り、そして自然と口元が緩んでしまう。
「いい表情してんね!もう一回やる?」
「お願いします!」
もう一度指をかける。
たった一音。ぎこちない。でも確かに自分の音が鳴った。
「鳴った……」
「おー!いい音だね」
思わずまひまひの方に振り向くと、おめでとうとハイタッチしてくれた。
「悔しいけどやっぱり楽しい……」
いつか、オレも先輩と、そしてまひまひと一緒に演奏したい。いや、演奏する。
そう密かに決意した。
ーーー
定期テストの実施内容に目を通す。
最後の一文で目が止まった。
本テストで提示する目標ラインより成績が下回った生徒は、部活動を二週間停止し、補講を受けるものとする。
「まずいな……」
二週間。
そして返却された小テストの結果を見る。
「このままじゃ……」
楽しかった部活の時間を思い返す。
絶対に補講は避けたい。
やるしかない。
ギュッとシャーペンを握りしめた。




