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アークロック  作者: 加鳥このえ
第一章 アークロック
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第8話 モテる男は逃げられない

 すごいもの見てしまった。


 これは歴史的な事件になるだろう。


 この衝撃は生まれて以来のもの。右も左もあやふやな子どもでも理解できる異質さ。


 そう、僕は見てしまったのだ。


「『焔ノ舞(ほむらのまい)』!」


 赤き炎を操る、巫女を。


 その衝撃は僕に大きなダメージを与えた。果たしてあれが現実だったのか、夢だったのかは、逃げてしまった僕にはもうわからない。


 あの後、事件現場に戻っても巫女はいなかった。


 あの力はなんなのだろう。そしてあの謎の化け物はなんだったのだろう。


 世界には、僕の知らない不思議が隠れているのだと思うと、怖くて怖くてたまらなかった。


 おっと、自己紹介が遅れたね。


 僕の名前は水沢零(みずさわれい)


「ゼロ王子〜! きゃー!」


「零くん大好き! 結婚しよ〜!」


「好き好き! ちゅっちゅっ!」


 クラスで二日前に見た謎の事件について考えていると、クラスメイトの女子が僕に抱きついてきた。刹那、僕は泡を吹いて倒れる。


 そう、僕の名前は水沢零。女の子が大の()()な……男子である。


「ぶくぶくぶくぶく」


「零く〜ん!!」


 □■□■□


 スポーツ万能にして成績優秀。全てを持ち合わせている王子様フェイスの甘いイケメン。


 学園の女子は一人残らず彼を好いている。


 そんな学園は彼にとっての地獄。


 あらゆる女子にモテている彼は……女子が苦手であった。


 誰が呼んだかゼロの王子。


 あらゆるプラスをマイナスにする、究極の異性耐性の無さ。


 それがこの学園、水面学園(みなもがくえん)の王子様、水沢零(みずさわれい)であった。


「零くん! 好き! 結婚しよー!!!」


「好き好き好きー!」


「赤ちゃん産みたーい!」


 そんなトロけた声と共に、ダダダッと埃を上げる足音が聞こえる。


 男子生徒は「またか、モテ男はつらそうだな」と、笑ってそう言う。


 零は、まるで蝗害(こうがい)のような女子の大群から全力で逃げながらこう叫ぶ。


「なんで! 断ってるのになんで嫌われないのおおおおおおお!?」


「きゃー! 零くんの声聞いちゃったー!」


「私に甘い言葉を伝えてー!」


 零は、なんでこうなるんだ……と、涙目になる。


 彼の悩みは理解されない。


 彼はあらゆる女性を惚れさせるような特異体質である。それゆえに、若い頃からトラブルの渦中に彼はいた。


 十年ほど前、幼稚園で、彼を取り合う女子同士のバトルがあった。殴り合い上等のそのバトルで、最後に残ったのは上腕二頭筋が発達しまくっている女の子。


 彼女が強引にした初キスは、今でも零にとっての悪夢である。


 零は女の子を顔で見ない、性格で見る。だが全ての女子は無理やり彼とキスをしようとするため零にとっては恐怖でしかなかったのだ。


 先生が叫ぶ。


「こら! 廊下を走るな! 零は個別の指導だぞぉ? はぁ、はぁ」


「先生よだれ垂れてますよ」


 近くにいた男子生徒は呆れたようにそう言う。


 零は、叫びながら廊下を走った。


 そして逃げ切り、保健室から教室へ無事に移動する。


 クラスメイトの女子たちは同じクラスという圧倒的な余裕からか零を襲ったりはしない。しかしその野獣のような視線は、他クラスの女子に向けられるのだが……。


 そんなクラスメイトの威嚇で他クラスの女子は教室から追い出された。


「……ふう」


 ようやく息を整えられた零は、静かに外を見つめた。


 彼の席は窓際の一番後ろ。一番景色の見やすい席で、零は窓から入ってきた小さな風に髪を揺らした。


 その姿は、まさに儚い王子様。彼は今……何を考えているのでしょうか。


(……女の子って、怖いなぁ)


 彼は恐怖していました。己を脅かす大群に……。


 □■□■□


 運命というものは突然やってくるものだ。


 意識せずとも、目の前を通り過ぎていく。


 それはチャンスであっても、そうでなくても、目に見えない運命という列車が待っている。


 その汽笛の音を聞き逃さないように、人は物事に打ち込むのだと言えるだろう。


 そして彼もまた、謎の生物を探すことに全力だった。


 だからこそ邂逅(かいこう)してしまったのだろう。


 不幸という……絶望に。


「やあやあ、君は昨日も近くにいたね? 何を嗅ぎ回っているのだい?」


「……誰ですか?」


 ゼロの王子、水沢零(みずさわれい)は謎の女性に出会う。


 通常の女性なら、目がハートになってキュンキュンしていたことだろう。だが、使命を持っている女性はそう簡単にはなびかない。


「私かい? 私はアーロイド。アーロイド・マーキュリー。プラネッツの一員さ」


「プラネッツ?」


 彼女は目にも止まらぬ速さで零に近づいて、零に抱きついた。


「温かい。イケメンはドキドキするね」


「……え、は?」


「でも、例外は無し」


 零の体に鍵が挿さる。そう、彼女は……鍵使い(キーユーザー)だ。


「行ってらっしゃい、願いの世界へ。君の夢は何かな?」


 鍵が回った。零の心の中の箱が、ゆっくりと開く。


 光が溢れて……彼は、獣となった。


「……さあ、アークを解放しろ。そして力を捧げたまえ」


 水沢零。


 放課後、彼はアークリオンの正体を探るべく街を散策している途中、鍵使いと思われる女性と出会う。


 そして彼は……アークリオンとなった。


 シーラはそんな内容の書類を、紅茶を飲みながら読んだ。


 そしてあちらでワチャワチャしている学生を見た。


「えー、でも私は卵が先だと思うな〜。だって鶏は卵から生まれるし」


「で、でもその卵は鶏から生まれるんですよ?」


「どっちでもいいけど早くチキンを頼むか目玉焼きを頼むか決めようよ」


 空錠鍵斗(くうじょうけんと)陽向灯里(ひなたあかり)山田穂火(やまだほのか)は意味のない会話を続けており、それを聞いていたシーラは呆れたように微笑んだ後、冷静にこう伝えた。


「君たち、任務だ。ここから電車で三個先の駅の近くでアークリオンが出現。出動してくれ」


 真っ先に反応したのは鍵斗だった。彼は「はい!」と答える。


 そして二人を連れて向かおうとしたが、シーラはそれを止めた。


「待て、鍵斗だけで行ってくれ」


「……なんでですか?」


「どうやら彼は……女の子が苦手なようだ」


 鍵斗は不思議そうにシーラを見つめつつも、心の中ではシーラの言葉を信じていた。


「わかりました。行ってきます」


 そして鍵斗は基地を出る。ここは鍵屋の奥に隠された秘密の基地。彼は店番をしていたバイトの絵美(えみ)さんに挨拶しながら店を出た。


 そして基地に残った陽向と穂火はお互いを見てこう言った。


「とりあえずピザ頼んじゃおっか!」


「チ、チキンか卵か、どっちにするかって話はなんだったんですか……!?」

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