第6話 アークロックはブラック企業
「やっほ! 学校お疲れ様!」
「は、はは……」
突然ですが自己紹介を! 私の名前は陽向灯里。
突然できた後輩を優しく出迎えています。
その後輩とは、山田穂火という一年生の女の子。
そう! 炎のアーク使いである。
「今日からよろしくね!」
「え、あ……は、はは」
おさげにソバカスが目立つ女の子。そんな貴女が可愛らしくてたまらない。
そんな彼女は、先日アークロックに加入したのだ。
そう、学校とアークロック、二重で後輩といえる。二重で後輩、二重輩……可愛くないわけがない。
しかし彼女の反応が悪いので、私は心配してこう言った。
「……大丈夫? 元気ないの?」
「え、あ、はは……」
どこか遠慮気味な穂火ちゃん。特に連絡もなく、校門で待ち伏せしていたのが間違いだったのだろうか。
そう、私は学校が終わりすぐに校門へ向かい、穂火ちゃんを待っていたのだ。
これも全て、連絡先を交換していなかったゆえの手間。
昨日、「ようこそアークロックへ」と言った後にいろいろアークについて説明して、普通に穂火ちゃんを帰してしまったのだ。
ここがアークロックのいい加減なところ。私もこれをされて、不安な気持ちになったのに。いつの間にかそれを忘れてアークロックの空気に適応してしまっていた。
私はそんな自分に悔しがって、グヌヌとうねりながら穂火ちゃんを見た。
ここまで話したがまだ気まずそう。どうやら彼女は大人しい女の子らしい。
でもでも! 私は知ってるんだから!
どんなタイプの子も、笑う時は楽しく笑うんだって!
「さあ、穂火ちゃん!」
「は、はい……!」
「ついて来て、ミッションの開始だよ」
「……み、ミッション」
私がそれを見逃さなかった。彼女の口角が緩んだのを。
ふふふ、知っているぞ、君は中二病なんだもんね。
私も中二の頃は、
国に任命されたスパイ陽向は、イケメン男子を極秘で護衛するために中学に送り込まれているのである。
とか妄想してたもん。鞄にこっそりとモデルガンを潜ませたものさ。
だからわかるよ、穂火ちゃん! 君の欲望はね!
私はしてやったりと片方の口角を上げた。目論見通り、穂火ちゃんは乗ってくる。
「あ、あの……」
「なんだい?」
「じ、地獄の力とか使えるのでしょうか!?」
彼女は目を輝かせながらそう言った。
しかし私は申し訳なく思い、微かに笑いながら心の中で謝罪した。
地獄の炎、そっちかぁ。ごめんね、もしかしたら私の専門外かもしれない。私の中二病はスパイ系だったから。
中二病は、十人十色という事か。
私は騙すように、そして呆れるように、謝罪を隠してこう言った。
「うん。使えるかもね〜」
■□■□■
オレの名前は空錠鍵斗。『鍵使い』だ。
鍵使いはアークを目覚めさせることができ、悪い思想の鍵使いは度々、普通に生きている人をアーク使いにして暴走させる。
昨日の火事や、陽向さんの暴走もそれだ。
だからオレは鍵使いとしてその落とし前をつける。
オレはアークを目覚めさせる事は苦手だが、代わりにアークを閉じるのは得意分野だ。だから、やってのけるのさ。
「よっと!」
サッと立ち回り、分離したアークリオンを倒す。今回のはシャワーのような水を操るアークリオンであった。
そして暴走したアーク使いの元へ行く。
彼はスーツ姿であり、おそらく会社員である。ぐったりと疲れたように道に倒れていた彼の体を起こして、僕はこう言う。
「もう大丈夫ですよ」
そして僕は彼の胸に刺さった鍵を抜いた。その白い鍵は、抜くと同時にその人の色に染まる。今回は鮮やかな青に、水色の雫が描かれていた。
「よし」
そしてこれでアークは封印完了。暴走することも無いだろう。
改めて僕の仕事の流れを言うが、第一形態のアークリオンを見つける。第一形態のアークリオンに白い鍵を挿す。すると人とアークリオンが分離するから、第二形態となった分離したアークリオンを倒す。そして最後に白い鍵を抜いたらアークは封印できる。
これが仕事の流れであるが、これで終わりではない。
「師匠」
「ああ、あとは任せろ」
そう言う師匠に、会社員さんが尋ねた。師匠は淡々と返す。
「何をするんですか?」
「健康診断だ、車に乗れ」
「……はい」
そして車に乗って連れて行かれる会社員さん。健康診断と言われているが、まああれは記憶消去だ。
それを可能とするアークを師匠は持っている。
そう、倒した後のケアもアークロックの仕事なのだ。
「……」
僕は会社員さんのアークを閉じた鍵を見た。
アーク。それは人の『願い』の顕現化。
つまりあの人は、
シャワーを浴びたい
という願いがあったのだろう。お仕事お疲れ様です……と、僕は心の中で思った。
そこへ仲間がやって来る。
「コードネーム:シャイン、現着」
「……え、しゃ、社員?」
僕は現れた陽向灯里さんを不思議に思いまじまじと見た。少しずつ彼女の表情は崩れ、最後は泣き出しそうになってこう言った。
「合わせてよ」
「……何を?」
その時、ふわりと焼きたてのトーストみたいな匂いがした。気づくとそこには女性がいる。僕は驚いて「うわっ」と身を引いてしまった。
そう、そこにいたのは……昨日仲間になったばかりの、山田穂火さんであった。
「……山田さん」
「え、あ……や、山田です……」
なんとも微妙な空気になってしまう。うちの明るい係の陽向さんがおかしくなっているのだから仕方ないか。
「……陽向さん。じゃなくて、社員さん」
「いいよう、もう! 私はシャインじゃなくて灯里ですぅ!」
プンスカと拗ねる陽向さん。何も言わずに気まずそうにこちらを見る山田さん。
これが、感じる地獄というやつだろうか。
僕はため息を吐いた。なぜ、こんな思いしてまで仲間を増やしたのだろうか。
昨日のシーラさんの言葉が脳裏をよぎる。
「山田穂火も陽向と同じように、強力なアーク使いだ。記憶の消去は可能なレベルだが、面倒だから仲間にしよう」
その一言は僕を唖然とさせる。僕が正式にアークロックに入ってから三年。三年間も仲間を増やさなかったのに、なぜ急にそんな気になったのだろうか。
「……とにかく。なんでここへ来たの?」
僕がそう問うと、陽向さんは不思議そうにこう言った。
「スマホ見てないの? シーラさんからアークリオンが現れたから訓練がてら見に行けって」
「……え?」
僕はスマホを見る。確かにそう書いていた。
同時にさっき倒したアークリオンを思い出す。
よし!
どのタイミングでもう倒してしまったと伝えようか……。
「よーし! この辺にいるらしいから倒すぞー! ほら、穂火ちゃんも!」
「え、あ、お、おー」
僕はアークリオンを探す二人について行く。悲しいかな、どこを探してもいないのだよ。
なぜなら僕が倒してしまったから。
□■□■□
「うっそ、まじか!」
朗報、アークリオンを発見した。
どんな確率だろうか、道を歩いていたらアークリオンに会った、こんなこと滅多にない。
僕は、やけに大人しいアークリオンを見ながら、山田さんに解説した。
「アークリオンは弱い個体は大人しいんだ。でも、分離すればどんなアークリオンだって暴れるから気をつけてね」
「は、はい!」
「私それ初めて知ったわ」
「……」
僕は『私それ初めて知ったわ』と言った陽向さんをじっと見た。そして白い鍵を創る。
「僕は鍵使いだからアークを封じられる鍵を作れるの」
「私それ初めて知ったわ」
「……」
僕はそう言った陽向さんをじっと見た。そして鍵を見せる。
「この鍵を挿して閉めるとアークは使えなくなる。同時にアークリオンになる危険性もゼロになる。逆に開けるとアークは使えるんだ。でも、アークリオンになる可能性がでるから、すぐに閉めたほうがいい」
「私それ初めて知ったわ」
「……」
僕はそう言った陽向さんをじっと見た。そして耐えきれずに冷や汗をかく。
山田さんが困惑しながらこう言った。
「え、陽向先輩は経験者じゃ……?」
僕は怯えながらこう返す。
「何も教えずに実践投入してすみませんでした……」
山田さんが「ブラック……!」と言う。だが陽向さんは優しく微笑んで「ばか。これから教えてね」と言ってくれた。優しくて、惚れそうになる。
そして僕はしゃがんで丁寧にアークリオンに近づいて、鍵を挿して回した。
「これで分離完了。みんな、アークリオンが襲ってくるよ!」
僕はアークリオンと分離した小学生くらいの女の子を受け止めた。アークリオンとの分離後は、だいたい宿主は気絶している。
小学生の女の子をお姫様抱っこして、走って山田さんに近づく。同時に、彼女の真っ赤に燃える赤い鍵をポケットから取り出した。
そしてこう伝える。
「……じゃあ、山田さん。実践訓練してみよう」
「……え?」
僕は問答無用で彼女の体に鍵を挿す。そして回した。
山田さんの肩が、足が、髪が、赤い炎に覆われる。
「え、え?」
「よし! じゃあ始め!」
僕は後輩育成などやったこともない。ゆえに自己流で彼女を育てることにした。
「ぶ、ブラックだあああああああああ!」
刹那僕は気づいた。彼女に戦闘のやり方を教えてなかったことに。
陽向さんと僕は顔を合わせる。そして陽向さんは、最後にこう言って山田さんを送り出した。
「ブラック……地獄の力にピッタリだね!」




