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アークロック  作者: 加鳥このえ
第一章 アークロック結成編
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第4話 地球温暖化、全部お前のせい

 アークリオンは度々現れる。


 心の中に眠るアークという力は、大小あれど全ての人に存在するのだ。それが現実に出た時、人は暴走する。


 アークを扱える人間などほとんどいない。


 ゆえに、オレはアークに体を乗っ取られ、アークリオンになった人を戻す活動をしている。


 そんなベテランなのだが……。


「ゴホッゴホッ」


 煙が肺を焦がす。


 こんな現場は初めてだ。


 オレは泣き叫ぶ一年生を押しのけて前へ進む。


 目標は一年五組。


 先生に「おい! 君、そっちじゃないぞ!」と言われるが、今は無視して前へ進む。


 人に見られるわけには行かないから、キーハートは持っておらず、今は隠している。


 今この手の中にあるのは、黒い鍵。


 これで現実世界を分断する。


「……着いたっ!」


 オレは階段を駆け上がり、東棟の最上階にたどり着いた。


「……ゴホッ」


 ここは、まさしく地獄だった。


 肺を焦がすなんてレベルじゃない。近づく事すら躊躇うほどの熱。ここまで離れているのに、体が溶けそうだ。


「うう……苦しいよぉ」


「……!?」


 教室から這い出てくる男子生徒。彼の皮膚は爛れていた。


 流石に可哀想に思い、オレはキーハートを、まるで空間に手を突っ込んだかのように取り出した。


 そしてキーハートに、治癒の力が宿っている鍵を挿(さ)した。それを回す事で、キーハートはアークの力を宿す。


 オレは治癒の力を持ったキーハートで男子生徒を刺した。


「痛いが我慢しろよ」


「……っ!」


 そして、その皮膚は元に戻り、キーハートで傷つけた部分も無事に治る。


 パニックから帰ってきた男子生徒は不安そうにこう訊(き)いてきた。


「なんで? あなたは?」


 オレは答えることもせず、彼を急かす。男子生徒は物分かりが良くて、すぐに指示に従ってくれた。


「走れるか? とにかく逃げろ」


「は、はい!」


 オレはその子を逃し、ポロポロと光となって消える鍵を見た。


 アークの力は有限。


 アークを持たないオレは、こうやって外部から抽出したアークを鍵とキーハートを経由して扱うしかないのだ。


「さて、ご開帳だな」


 オレは熱にやられながらも、汗を垂らしながら教室の前に立つ。馬鹿なので窓のサッシを触ってしまった。


「熱っ!?」


 それは熱を帯びており、もはや教室は火山のようである。


 しかしオレが注目するのは窓のサッシでも教室でもない。


「……くそ」


 案の定、これはアークリオンの仕業であった。


 オレの目に映るのは、魔女のような格好をした女子生徒。教室から推測して、おそらく一年の女子。


 彼女は完全にアークリオンとなっており、オレの封印タイムが始まる。


「……っ!」


 オレは黒い鍵を地面に挿そうとした。だが熱波が襲ってきて、黒い鍵から手を離してしまう。


「しまっ!」


 そこに、彼女が来た。


 オレの仲間である、陽向灯里(ひなたあかり)。


「ばっきゃっ! ろう!」


 走って近づいてきた彼女は、それを空中で受け止め、オレに投げ渡す。


 それを見たオレは、助けられたことを理解して目を見開いた。


 そして、ふと微笑み、こう返す。


「ありがとう」


 そのまま流れるように床に鍵を挿した。それを回し、この空間を分断する。


 人を寄せ付けない、我々だけの戦場。


 闇が走り、空が黒く染まる。


「ここは!?」


「ここは……って! なんでついて来てるの!?」


 緊張から解放されたオレは、陽向さんが来ていることを改めて理解した。


 そして彼女を逃がそうとするが、陽向さんは強情にもこう言ってくる。


「いいから教えてよ!」


 オレは圧に負けて、渋々陽向さんに説明した。


「ここは、現実とは違う場所。だからどれだけ暴れても被害はゼロなんだ」


「了解!」


「理解が早いね! 流石天才!……じゃないよ! 早く逃げ」


「鍵斗(けんと)くん!」


 陽向さんは近くの消化器を取って、それを扱う。噴射される白い煙と共に彼女の想いが詰まった本音が投げられる。


「信じてよ! 仲間でしょ!? 私だって、活躍したい! 鍵斗くんと肩を並べたい!……って、これじゃあ消化が間に合わない!」


 その、仲間という言葉が……オレの心で反響する。


「お前なんて友達じゃねえよ!」


 そんな昔の記憶がうっすらとよぎった。


 仲間、仲間……か。


 オレは陽向さんに黒の鍵を拾ってもらった事を思い出した。


 助けられたんだ、オレは。なのに、彼女の思いを、彼女の実績を見ずに、突き放すのはダメだろ。


 信じろ、仲間を。初めての、仲間を!


「……じゃあ! フォローしてよ!」


 友達なんていなくて、人を信頼する方法なんて知らないけど、でも、彼女を信じてみたいと思った。


 だって彼女の目は……あんなにも挑戦的なのだから。


「合点……承知ッ!」


 彼女は消化器を振り回して勢いをつけてから、アークリオンに消化器を投げる。


「まじか! 豪速球! 野球部だった!?」


「まさか、帰宅部!」


 その消化器はゴツンとアークリオンの頭に当たる。その時初めて、魔女のアークリオンはオレ達に気づいたようだ。


「ゴツンって、人に当ててるみたい……」


「そこから!?……って、やばい!」


 空中を自在に動く炎が、まるで質量を持っているかのように拳に変わり、オレ達を殴り飛ばした。


 アークリオンから飛んできた、ロケットパンチ。


 それはオレ達を吹き飛ばし、割れた窓ガラスと共に外へ放り出された。落下まで五秒もない!


 風に吹かれながら、陽向さんは叫ぶ。


「嘘嘘嘘! 死ぬ! 死んじゃああああああう!」


「……っ!」


 オレはポケットから鍵を取り出す。それをキーハートに挿して、回した。


 その鍵に宿るアークは、鎖の力。


 キーハートのカッターのような刃はジャラジャラとしなるように動き、オレはキーハートを振って四階の窓に刃を括りつけた。陽向さんの腕を掴む。巻き取られる刃に引っ張られて、オレ達は四階に戻った。


「死にかけた!」


「三途の川、綺麗だったね……」


「死ぬまでに一回は行きたい絶景だよ」


 そしてオレと陽向さんは窓を超えて中に入る。


 陽向さんは賢い。簡潔に必要な事を話した。


「この白い鍵を彼女に挿したい! 挑発でもして注意を引いてて!」


「了解!」


 オレと陽向さんは廊下で二手に分かれる。オレは後ろのドアから、彼女は前のドアから姿を現す。


「一発ギャグやります! どんぶらこ、どんぶらこ、桃が流れます」


 ドアに体を隠したり、移動したりする陽向さん。彼女はサッと体を出してこう言った。


「ジャラジャラ、ジャン! 中から現れたのは桃でした! 人が出るわけないじゃーんっ! ていう!」


「……」


「……」


「……があああああああああ! 面白くないいいいいい!」


「めっちゃ怒ったんだけど!?」


 意味不明なギャグだけど、ナイスだ陽向さん!


 あのタイミング、あの場所でギャグ言えるメンタル! やっぱり彼女は凄い!


 完全に注意を引けてる!


 行ける! このタイミングで!


「……」


 ギロリと、アークリオンの額に三つ目の瞳が現れる。それは、オレを見た。


 そして、詠唱が走る。


「紅の炎、我が手中に宿りたまえ。願わくば、闇を払いつかまつる。我が名に答えよ。いざ鎮め奉らん! 黒炎葬(こうえんそう)!」


 黒い炎がオレを襲う。これは、守らなきゃ死ぬ。


 オレは咄嗟に防御を取り、そのアークリオンに向かう足を止めた。


 さあ、三つ目の瞳が現れた。あれはオレを見続けている。意識外から近づくのはもう無理。


 陽向さんは一般人、長くはもたない。


 どうする、どうやって近づく?


 考えろ、きっかけを見つけろ。


 アークリオンは分断しない限り人なんだ。意識はある。


 だから、動きを止めるような言葉を……!


 探せ……。


 オレの思考は加速する。その思考で導き出した答えは、たった一つだった。


 オレの脳裏をよぎるのはあの謎の詠唱。つまり!


 炎を避けて、悔し紛れにこう言った。


「黙れよ、中二病」


 その言葉が刺さったのか、アークリオンの動きは止まる。


「……」


 その回想を、鍵斗が知ることはない。アークリオンは、過去の記憶を思い出していた。


 これはアークリオンとなった女の子の記憶——。


 中学二年の春、寝たふりをしていた私の横で、わざと聞こえるようにギャルが言ったんだ。


「こいつさ、ノートに人の殺し方とか書いてたんだぜ! 呪いの方法とかさ。まさしくブラックノート。漆黒極まる混沌のカオスワールド。まるで運命を否定するかのような虚構のアクセルイマジネーション。まじコイツって……中二病だよな」


 気持ちの悪い笑いを浮かべるギャル。彼女は周りからこんなことをいわれていた。


「ずっと思ってたけどあんたも中二びょ」


 ここで回想は終わる。


 ああ、そうだ。


 私は……ずっとずっと、気持ち悪い中二病なんだなぁ。


 ぽろっと、一滴の涙が流れた。


 この熱の中、熱い熱い雫が魔女のアークリオンの頬を伝う。


「止まった! 動きが! この一瞬を、掴む!」


 突然ですが、私はその涙を見ました。私の名前は陽向灯里(ひなたあかり)。


 鍵斗くんが動きやすいように注意を引いていたのですが、そんな相手の涙を見て、それは間違っていると、心が叫んだのだ。


 鍵斗くんの手段は間違っていない。


 動きを止めるのは成功した。


 でも……あまりにもその方法は、悲しすぎた。


 その涙に心が打たれた私は、静かに否定する。


「黙らなくていいよ。カッコいいじゃん! 中二病!」


「……!」


 再び動き始めたアークリオン。オレは咄嗟に陽向さんを見た。


 やはり素人を連れてきたのは間違いだったかと、思ったんだ。


 だがそんな自分を殴ってくれ。


 アークリオンは、その優しい肯定の言葉に、じっと感動し始めた。


 オレとは違う方法で、オレ以上の成果を出した。


 まったく君は凄いやつだよ。


「……っ!」


 オレは近づき、アークリオンに鍵を挿して、回す。


 心の箱の中のアークを、閉じるように。


「陽向さん! ナイス! 第一形態! 突破だ!」


 彼女は何も言わず、ただ格好つけて親指を立てる。


 だが油断するな、ここからが本番だ。


 アークリオンは人から剥がれるように分離する。オレは中から出てきたおさげの女の子を受け止めた。そして近づいてきた陽向さんにその女の子を預ける。


 そしてアークリオンを見た。


 魔女のようなアークリオンはもういない。


 そこにいたのは……炎の魔人だった。


「ここからは任せて、陽向さん」


「うん! 任せる!」


 オレは炎の魔人にキーハートを向けて、こう宣言した。


「暑いんだよクソ野郎。地球温暖化、全部お前のせいにするぞ!」

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