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アークロック  作者: 加鳥このえ
第二章 激突! 修行編!!
26/30

第26話 修行開始!

「さあ、お前たち。明日から修行が始まる。これはそんなお前たちへ向けた私からのプレゼントだ」


 僕の目の前に広がるのは、色とりどりの海鮮であった。


 豪華に並べられた海鮮の皿の横に、寿司、揚げ物、果物などが一つの皿に盛り付けられている皿鉢(さわち)という料理が並んだ。


 僕はふと思い出す。師匠が僕たちに向けて「海鮮は食べれるか」と、今日の朝、車で聞いていたのを。


 全会一致で食べられるという答えだったので、問題は無いだろう。


 特に陽向(ひなた)さんが目を輝かせており、彼女はすぐに席に座って僕たちを()かした。


 僕は言われるがままに座り、アークロックのメンバーと師匠の五人で食卓を囲む。


「いただきます!」


 そして食事を始めた。


 僕は海鮮を取って取り皿に乗せる。醤油を付けて食べてみた。ここは島だからか、とんでもなく新鮮な魚を食べている気がする。


 残念ながら僕は神の舌を持っているわけではないため、詳しい違いはわからなかった。


 さて、そんな食事中だが、師匠が聞き捨てならないことを言ってきた。


「明日からは自分たちで作るんだからな、今のうちに豪華な飯は食べておけ」


 僕の箸を動かす手はぴたりと止まる。


 どうやら、明日からは忙しくなりそうだ。


 僕はそう思いながら、皿鉢のエビフライを取って、食べた。


 そして夜。


 お風呂に入り終え、寝る準備ができた時間。みんなは海で遊んで疲れたのか、すぐに寝てしまった。


 だが僕だけは呼び出され、帰りの支度を済ませた師匠に玄関でこう言われる。


「一週間、私は鍵斗(けんと)たちのフォローができない。鍵斗がアークロックのリーダーなんだ、私の代わりに、みんなを守ってやれよ」


 そんな親みたいなことを言われたので、僕はみんなの前ではやらない、師匠との会話をした。


「師匠こそ、僕がいないからって夜ご飯ゼリーで終わらせないでくださいね」


「ははっ、大丈夫だ。鍵斗が作ってくれた作り置きがあるだろう」


「まあ……」


「だから私の心配はするな。明日からはおそらく大変になるだろう。頑張れよ、鍵斗」


「……」


 その、師匠からの激励は、僕の心にじんわりと響いた。いつも言われているような言葉なのに、リーダーという責任のせいか、初めて受け止めたような気さえする。


 僕は素直に返すのが恥ずかしくて、師匠の心配をしてしまった。


「作り置き三日分しか無いんで、ちゃんとお弁当買ってくださいね」


「ああ、了解だ」


 そして師匠はドアを開ける。最後にこう会話して、別れた。


「またな、鍵斗」


「はい、行ってきます」


 バタンと音を鳴らしながら閉まる扉。不思議と閉塞感を覚える。


 始めて来た島で、僕らは学生だけで残された。


 少しワクワクするけど、心配にもなる展開。でも、別れ際の師匠の微笑むような表情を見たから、何事もなく修行を終わらせようと思えた。


 僕は、みんなの眠りを覚まさないように優しく階段を上り、自室に戻る。そして、明日の目覚ましのアラームを準備した後、寝た。


 バカンスはもう終わり。明日から始まるんだ、修行ってやつが。


 □■□■□


「……おはよう」


「おはよう! 鍵斗(けんと)くん!」


 突然ですが、自己紹介です! 私は陽向灯里(ひなたあかり)。現在私は、鍵斗くんを優しく起こしました。


「……え、え!? なんで陽向さんが!?」


 鍵斗くんの顔はみるみる内に赤くなっていきます。それもそのはずでしょう! 考えてみれば、異性が寝ている間に部屋に入って来て、顔を近づけていたら、誰だって赤面する。


 私はそれに気づき、急いで訂正した。


「ち、違うよ!? やましいことはしていません! 私は知らない場所で起きたのが怖くて、鍵斗くんに会いたかっただけなの」


「……そ、そうですか。とりあえず、寝癖とか見られるの恥ずかしいから後ろ向いて」


「は、はい」


 私は言われるがまま、鍵斗くんに背中を見せた。チラッと振り返ると、肌が見えたので急いで目を()らす。


 寝ぼけているのだろうか、それともお馬鹿さんなのだろうか。


 先ほどから服がすれる音が聞こえる。


 そう、鍵斗くんは私の後ろで着替えていた。


 何をしているのだろうか。


「……」


 いくら男の子の裸を見てもなんとも思わないタイプだとはいえ、赤面くらいはします。


 私はドキドキと跳ねる心臓を抑えながら、そっと後ろを覗いてみた。


「待たせてごめんね、陽向さん」


 はい、着替えは終わっていましたよ。私は安堵(あんど)して、こう返す。


「もー! 女の子がいるのに着替えるのはやばいよー!」


「……た、確かに!?」


 鍵斗くんは寝ぼけていたようだ。彼は急に赤くなりながら、焦っていた。


 思えば全て、勝手に部屋に入った私が悪いのだが、謝る鍵斗くんを見てまあいいかと思えた。


 私は「ごめんよ」と言い続ける鍵斗くんに「いいよ、別に」と返しながら一緒に部屋を出る。偶然にも、ピンク色のパジャマを着た穂火(ほのか)ちゃんがそこにはいた。私たちを見た穂火ちゃんは赤面しながら、なぜかこう言った。


「い、一緒の部屋から出てきた!? あ、あうう……」


 そして(れい)くんのように気絶してしまう。横で「ち、違うよ!?」と焦っている鍵斗くんを他所に、私は穂火ちゃんの頬を優しく叩く。


 目覚めた穂火ちゃんはボソボソと何かを言っていたが、私は強引に笑顔を浮かべ、二人を連れてリビングに向かった。


 まだ朝の八時。修行が始まるのは九時からなので、一時間の余裕があった。


 私はみんなと朝ごはんを食べた後、お風呂に入る。服を着替えて、準備万端で九時を迎えた。起きるのが遅かった零くんも起きたようで、みんな揃ってシーラさんが手配した人を待つことができた。


 そしてついに九時、時間ぴったりに玄関のチャイムがなった。私はすぐに立ち上がって行こうとしたら、ドロンと煙と共にお婆さんが現れる。


「良い反射神経じゃ。流石はシーラんところのガキじゃな」


「どわっと!?」


 驚いた私とは裏腹に、鍵斗くんは落ち着いてこんなことを()いていた。


「あなたが……?」


「うむ。ワシこそがお前たちの師範となる者たちを管理する、月江満夜(つきえみちよ)じゃ。まあ、ツキバアとでも呼べ」


「つ、ツキバアさん……」


 私はそう呟く。そして気づき、こう続けた。


「待って? 管理する?」


「よく気付いた。ほら、出てやりなさい。ずっとドアの前で待っているぞ、彼女らは」


「ええ!? ドロンしてくれないんですか!?」


 私は急いで玄関に向かい、ドアを開ける。そこにいたのは、怒りにより血管を浮かばせている、袈裟(けさ)を着た女の人。いや、それだけじゃない。


 なぜかその後ろにはエプロンを付けたお姉さんたちがいる。


 そして最後には、この島の管理者、その妻である、桃木(ももぎ)さんがいた。


 大所帯と思いながら、私は彼女たちを部屋に通す。


 そして、彼女たちはリビングに集まり、私たちの前に立った。ツキバアはこう言い始める。


「お前たちには、シーラから渡された情報をもとに適した修行を受けてもらう。まず、山田穂火(やまだほのか)!」


「え、は、はいっ!」


「お前は私が師匠じゃ」


「……!?」


 穂火ちゃんの師匠となるのは、多分一番強そうな、ツキバアさん。私はドキドキしながら、次の言葉を待つ。


「山田穂火、お前には巫女としての修行を積んでもらう。そして水沢零(みずさわれい)!」


「はい! は、はぃ……?」


 零くんの前に立つのは、三人のお姉さん。年は三十路あたりだろうか。彼女たちは頬に手を当てたり、胸の前に手を持って行ったりして、零くんをうっとりと見つめていた。


「あらあら、いい男の子ね」


「一緒に働くのが楽しみ」


「こら、あんたら既婚者でしょ!? そんな顔しちゃダメ」


 エプロン姿のその人たちは、零くんを囲む。零くんの身長が百八十を超えているからまだマシだが、背が低ければ目も当てられない程のプレッシャーだ。


 そんな零くんへ、ツキバアは言った。


「お前はまず、人を守るという意識を持つ必要がある。五日間、保育園で働き子どもと接するのじゃ! そして最後に! 陽向灯里(ひなたあかり)!」


「は、はいっ!」


「ちっ!」


 私が返事したと同時に、舌打ちが聞こえる。袈裟を着た、怖そうなお姉さんは私を(にら)んだ。


「お前は寺で静の心を学んでもらう。アークを掴む修行じゃ」


「……! はい!」


 私はその明確な目標にワクワクしつつ、ツキバアの「終わりじゃ」という言葉に違和感を覚えた。


 そして気づく。


「鍵斗くんは……?」


「あの、僕の修行はなんなんですか?」


 鍵斗くんは前に出てそう()いた。しかしツキバアさんは、突き放すようにこう言う。


「無い。空錠鍵斗(くうじょうけんと)、お前の実力はもう頭打ちだ。修行しても意味はない」


 そしてツキバアは「では、修行に移る。陽向灯里は宮島霊奈(みやしまれいな)と寺、水沢零は保育園に職員と共に向かえ。山田穂火はワシと共に動くぞ。ワシは腹が減った、まずは腹ごしらえだ」と言ってこの場を去ろうとした。


 私はどうしても我慢できなくなり、こう言った。


「ダメです! 私は、鍵斗くんを残してはいけない。なぜ修行が無いなんて言うんですか!?」


 するとツキバアは呆れたようにため息を吐いて、こう言ったんだ。


「意味がないからだ……私たちの修行はな。結論から言う、好きにしろ。空錠鍵斗、お前は私たちでは強くできない。自分で課題を考えて、自分で乗り越えろ。軽いアドバイスはくれてやる、なんでも聞きに来い、以上だ」


「……っ!」


 私は鍵斗くんを見た。でも彼は強くて、微笑みながら私に向けて親指を立てて見せたのだ。


 本当に、強がりなんだから。


 私は「困ったら、なんでも相談して」と言い残して家を出た。これ以上は、宮島さんに怒られそうだったから。


 一人だけ家に残った鍵斗くんのことを考えながら、私は寺に向かう。道中の会話は無く、山を登った先で私は作務衣(さむえ)という服を渡されて、それに着替えた。


 そしてフローリングの上に座って、悶々と鍵斗くんのことを考えた。


「かっー!」


 しかしそれが悪かったのか、警策(きょうさく)で肩を叩かれる。


「ぎゃああああああああ!」


「うるさい! 黙れ! 心を鎮めろ、これはその訓練だ!」


「ううっ」


 私は思考に逃げすぎていた。考えている間に修行は始まり、私は坐禅(ざぜん)をさせられていた。


 なぜ、こんなことをしなければならないのか。


 ううっ。


 地獄の修行が始まりました。


 鍵斗くん……意外と何もしないのと同じくらい、こっちも大変かもです。


「かっー! 邪念! 邪念! 鎮めるべしー!」


「うぎー! 痛いいいいいいい!!」


 私は、叫びまくって喉を枯らした。

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