第24話 光属性なわたし
突然ですが!
夏といえばかき氷! 夏といえばスイカ割り! そして、夏といえば海でしょう!!
「てことで! 海! 来たぞー!」
「い、いえーい」
私、陽向灯里は現在、アークロックのみんなと桃木島という、自然が美しい島に来ています。
そして今は、後輩の水沢零くんと一緒にいるのである。
しかし彼のテンションは低く、その白い肌は今にも日光で焼けそうだった。
「さて! なんでそんなに億劫そうなのかなー?」
「だ、だって……至る所に女の子が」
「ほうほう。まあ、零くんには刺激が強かったか」
周りを見ても、男女共に水着。海だから当たり前であるが、極度の女性耐性の無さを持つ零くんにとっては地獄だったか。
穂火ちゃんの為と思って強引に海に引き込んだのは誤りだったな。
私はミスったな、と思いながら、零くんを見た。
まさに思春期の息子。
つまらなそうに海を見つめる零くんを見て、自分の不甲斐なさに心を痛める。
私ではどうにもできんな。こんな零くんのメンタルを回復できるのは、私の相棒だけだろう。
「なのになぜ! 鍵斗くんは来ないんだー!」
待つこと三十分。鍵斗くんと穂火ちゃんは現れなかった。
私は待ちきれず、パラソルをブサっと刺した後、彼らを迎えに行った。
後から知ったが、どうやら私と鍵斗くんは入れ違いになっていたらしい。
□■□■□
「う、うおー」
私は漆黒より誘われし乙女、山田穂火。そんな私でも難しいことはあるもので、壁にかけたビキニを見て未だに勇気が出ずにいた。
先日、陽向先輩と買いに行ったこの水着。
明るい陽向先輩と一緒だからって、私は勘違いしてしまったのだ。私も陽キャなのだと!
こんなことならもっと地味なものを買うんだったと後悔する。
着れないよ、ビキニなんて。しかも赤……。
陽向先輩に褒められて、似合うのではと思い、先程まで男子たちに見せるのをワクワクしていたのに、いざそれを着るとなると足踏みしてしまう。
大人の女になりたくて、陽向先輩みたいにオシャレになりたくて、一歩進んだはずなのに。それはおんぶに過ぎなかった。
私は何も成長していなかったんだ。
「やめよ」
私は結局、その水着をバッグに片付けた。虚しい気持ちが心に広がる。自己嫌悪が加速する。
でもその時、私の視界にキラリと入ったものが、私に希望を与えてくれたのだ。
それは、一つの香水。
陽向先輩と一緒に買った香水。
大人の女になりたくて、手に入れた香水。
私には似合わないと敬遠してた香水を手に入れた夜は、大事に抱きかかえて寝たものさ。
その香水の匂いを、誰よりも愛したのは私だろ。
「逃げちゃ……だめだ」
私は、頭の中の陽向先輩にこう言われる。
「綺麗、可愛い! 穂火ちゃん! 絶賛ビューティフルレディ〜!」
そうやって頭の中の陽向先輩が背中を押してくれるから、私は前に進めるんだ。
「……っ!」
私はすかさず服を脱いで、ビキニを着た。そして鏡に映るのは、大人っぽい魅力を持たない私。
ここが個室で助かった。誰にも見られないから。
「……」
胸も小さけりゃ、くびれも無い。髪もナードで、表情も暗い。
でも、頑張るって決めたから。
「力を貸して、香水さん!」
私は香水を手にとり、プッシュした。
そして一種の疑問に襲われる。
果たして、香水とはどこに付けるものなのか。
私は馬鹿なので、スマホを宿に忘れてきた。ゆえに調べられない状況。
私は考え抜いた末に、全身に塗ることにした。
水滴がハッキリ見えるくらいに吹きかけて、それを伸ばす。そして腕が終われば胴体、足に首、顔を除く全ての部位に香水をかけた。
ふわっと香る柑橘系の匂い。私はそれに満足しながら、更衣室を出た。
心臓が爆発しそうなほど動いており、私の体はロボットのように動く。
そして空錠先輩と水沢を見つけた私は、彼らに近づいたんだ。
きゃっきゃうふふ。おーい! かわいい後輩が来たぞー!
などと言われるのを想像しながら。
優しい二人ならきっと褒めてくれる、私も大人になれるんだ。
なのに、そんな幻想をぶち壊す勢いで、彼らは私に罵倒を浴びせた。
「あ、穂火さん……って! クサっ!」
「お、おげええええええ! 山田さん! なにその匂い!」
「……え、え?」
私は何がなんだかわからず、呆然と、わたし何かやっちゃいましたか? とした表情で固まった。
「香水の匂いだ。う、うおえええええええええ!」
バタンと、水沢は気絶する。私はやっと臭いと言われていることに気づき、空錠先輩を見た。
優しくて頼りになる空錠先輩なら、きっと!
そう思っていた時期が私にもありました。戦闘中に私を助けてくれる格好いい空錠先輩は、鼻をつまんでいました。
「う、うう……」
私はその事実に耐えられずに、目頭に涙を溜める。
初めてのビキニ。初めての香水。全て失敗して、もうこの場にいるのすら嫌になった。
友達が少ない私は海に行く経験などほとんどない。
ゆえに、私の中でビキニと海は嫌いに変わろうとしていた。
でも、そんな時に女神が現れたのだ。
「こら! 女の子に向かって臭いなんていうな!」
そう、私の憧れの先輩、陽向先輩が空錠先輩の頭をコテンと叩きながら現れたのだ。
そんな彼女は私に近づいて、顔を顰める。そしてこう言った。
「こ、香水つけすぎた!? ほら来て、落とさなきゃ!」
私は陽向先輩に連れられて、シャワールームへ向かう。無駄金を払った後に、私は男子たちと合流した。
わかったことが一つある。
私にオシャレは向かないのだ。
そう思っていたのに、陽向先輩は男子たちに焼きそばを買いに行かせて、その間に私の髪を編んでくれた。
ハーフアップに変わった私の髪は、いつものおさげとは違って大人の女を感じさせる。
「せっかく海に来たんだから、オシャレしたいよね」
耳元でそう囁いてくる陽向先輩に、私の心臓は張り裂ける思いでドキドキした。
「はい……って! ええ!?」
陽向先輩の心臓の優しい音が聞こえる。なぜなら私は、陽向先輩に後ろから抱きしめられていたからだ。
その謎のラブラブ展開に私の心臓はもはや張り裂ける思いで音を跳ね上げた。
だが、すぐにその暖かさになれて、落ち着く。
すると陽向先輩は優しくこう言ってくれたんだ。
「ごめんね、鍵斗くんのこと。ちゃんと可愛いよ、穂火ちゃん」
「……っ!」
先輩は、ズルい。
卓越した感受性を持つ陽向先輩は、こうやってすぐに涙に気づく。
私の頑張りが肯定されて気がして、私はポトポトと涙を流したんだ。
それを見た陽向先輩は「あっ! メイク落ちちゃう〜!」と言う。
私は、先輩は私を高く見積もり過ぎていると思い、小さく笑ってこう返す。
「メイクなんてしてないです」
「ええ!? それでその可愛さ!?」
「でも……」
それでも、今日は頑張ってみたいから。私は陽向先輩にお願いした。
「メイク、教えてほしいです」
陽向先輩は、微笑んでこう返す。私はそれに、救われたんだ。
「合点承知っ!」
そして、私は軽くメイクしてもらう。陽向先輩は自分のコスメで私を可愛くしてくれた。
手鏡に映る私は別人のように綺麗で、惚れちゃいそうなくらい輝いている。
そんな私を見た、焼きそばを買って帰ってきた男子たちはこんなことを言ったんだ。
空錠先輩にはもう幻滅です。
「え、だれ……?」
「穂火ちゃんだよ! ほんと無関心!」
「え、ええ!? 凄く、変わりましたね」
空錠先輩はそんなことを言った。陽向先輩のフォローだけが頼りである。
私はプンスカと怒っていた。そこに、新たな火薬が投与される……と思っていたが、予想外に水沢はこう言ってくれた。
「先輩、こういう時は変わったじゃなくて、可愛くなったって言うんですよ。ね、山田さん」
その、甘い笑顔。カッコいい声にカッコいい顔、優しい配慮もできる水沢。
そんな彼だからこそ……私は「おえー」っと言った。
それに水沢は驚きこう言う。
「は、はあ!? なんで嘔吐の真似!?」
「イケメン苦手ですので」
「な、こいつ……!」
水沢に呆れ顔で睨まれながら、私は先輩たちを見た。相変わらず、空錠先輩は陽向先輩に説教されている。
本当に、不思議な気分だ。
赤い水着も着れないのが私だと思っていた。でも、着れた。
メイクして、髪型を変えて、ほんの少しの香水で、生まれ変われるって知れたから。
私は少しだけ、自分を肯定できたんだ。
「ふふっ」
私はこの空気が好きだ。だからアークロックにいる。
今日は海を楽しもう。
燦々と照らす太陽は、私の漆黒のダークネスハートを照らす。
今日の私は、少しだけ光属性です。




