第22話 合宿開始!
合宿前日、僕はどうってことない普通の一日を過ごしていた。
なぜなら旅行の道具はすでに一式揃っているからである。師匠に連れられ何度も旅行しに行った経験が役に立つとは、感動で涙が出る。
さて、そんな僕は今、師匠と二人でアークロックの基地にいた。そこで、師匠と話す。
「合宿はいいですけど、その間に出てきたアークリオンはどうするんですか? やっぱり僕だけは残ったほうがいいんじゃ……」
「いや、問題ない、行け」
「でも……」
「行けと言っているんだ。まだ学生だろ、イベントに、仕事があるから行けませんと言う年齢じゃない。こっちの事は私に任せろ」
「師匠一人に任せるのは……」
「いや、一人じゃない」
扉を開ける音が響く。奥から出てきたのは、鍵屋『ガッチャン』の唯一の店員である、大学生の絵美さんだった。
「え、え!? まさか……!」
絵美さんはフフフと微笑み、こう言う。
「はい。私もアークの使い手です」
「ええ!? じゃああなたもアークロックの一員?」
「いえ、私はしがない店員にすぎません」
師匠は小さく微笑み、こう続ける。
「……と、いうことだ。プラネッツの動きも活発ではない。それに、今は灯里にやられた事が堪えているのか、大きく動く気配もない。だから心配いらないということだ」
「……なるほど」
「このチャンスを生かさない手はない。敵がビビって動けない間に、強くなれ。勘違いしているようだから改めて言うぞ。お前はまだまだだ、鍵斗。確かに他のメンバーとは違い、三年の経験がある。だが、それで満足ではないだろう? もっと強くなれ。お前はアークロックのリーダーなのだからな」
「……はい!」
僕は、その言葉を強く抱きしめた。
そしてふと疑問に思い、こう訊く。
「思ったんですけど、リーダーって師匠なんじゃ……?」
「何を言っている。私はアークロックの一員ではない。アークロックに命令を出す上位組織の一員だ、そっちの方が格好いい」
「……な、なんじゃそりゃ」
今まで、僕は師匠と僕の二人でアークロックをしていると思っていた。そこに陽向さんが入ってきて、穂火さんが入ってきて、零くんが入ってきて……そんな流れだと。
だがどうやら、元は僕一人でやっていたらしい。
師匠は元から、僕の上位組織であったのだ。
意味がわからないと思うが、これが師匠だと納得した。
そして僕はこう言う。
「とりあえず、旅費はそっち負担ですよね?」
「ああ、君たちが出すのはお土産代だけでいい。最初の日は私も引率として同行する。残りの六日間は学生だけで楽しめ」
「はい」
僕は納得する。そしてほんの少しだけ、未来に希望を持った。擬音で表すなら、ワクワク。
みんなは何をしているのだろうと思いながら、僕は明日の準備を始めた。
□■□■□
そして、アークロックの四人は明日に向けて動く。
陽向灯里と山田穂火はショッピングモールにいた。
二人は、明日のために必需品を買う。日焼け止めを買って、お風呂用品を買い、着替えを買い……。
「いいね〜、似合うよー!」
「ううっ、ちょっと派手じゃないですか?」
二人は、和気藹々と水着の試着をしていた。
そんな女性陣とは対照的に、男性陣は家にいた。
「零〜! 明日旅行に行くようですね!」
長い髪はいい匂いがし、目は大きく丸い、そんな美形も美形な人が、水沢零に抱きついた。
零はその子を撫でながら、こう言う。
「いつも言っているだろ、百。僕のことはお兄ちゃんと呼びなさい」
「だってー! 寂しいもん!」
「はいはい。お兄ちゃんは一週間だけ家を出るだけだからさ」
「むー」
その子は、駄々をこねるように零の服に顔を埋める。
ここは、大きな家。ししおどしの音が響く庭があり、木材と畳でできたまさに和風邸宅であった。
そんな場所で、百はこう言った。
「でも大丈夫? 海があるんでしょ? お兄ちゃん、女の人が苦手だから」
零は百を撫でて、こう言った。
「大丈夫。お兄ちゃんには頼れる先輩がいるから」
「そっか。じゃあいいや!」
百は楽しそうにそう言って笑う。そこに父がやってきて、二人にこう言った。
「兄弟揃って何してる?」
「にししー! お兄ちゃんと遊んでた!」
そう、百は弟であり、その美貌は女の子と勘違いさせるほどのものであった。
そんな穏やかな零とは違い、空錠鍵斗はキャリーケースにプレスをかました。
上から全力で押して、強引に閉める。
「うおおおおおお!」
そう、彼は『鍵使い』。そして閉じる才能を持つ。
キャリーケースを閉じるなんて、朝飯前なのだ。
「ふいー」
汗を拭き取って、やってやったと言わんばかりに安堵する鍵斗。彼はキャリーケースを見て、ニマニマと笑った。
明日から始まる合宿を妄想して。
そして、ついに合宿は始まる。
「あ、おはよー!」
「おはよう」
早朝、陽向灯里が基地につき、アークロックのメンバーが揃う。
全員でシーラの車に乗り、移動する。
道中のドライブを楽しみながら、朝の九時にはフェリーに乗ることができた。
シーラはフェリーの中で、四人にこう解説する。
「これから君たちが行く島は、桃木島という。そこは、鬼が住む島とも呼ばれ、桃太郎という男が鬼を倒したという伝説がある島だ。そこで君たちには合宿をしてもらう。宿はすでに用意してある。着いたらそこに行こう。まあだから、着くまでは自由時間だ。私は寝る。みんなは海を見るなりなんなりして時間を潰せ。以上」
四人は、アイマスクを着けて眠るシーラを置いて、デッキに出る。
そして、海を切り裂くように進んでいくフェリーとともに、潮風を浴びた。
「うわー! 凄いね!」
「うん……! って! 陽向さん危なくない!?」
「大丈夫だよっ!」
灯里はスマホを構えて、風で崩壊した髪型のまま、鍵斗とのツーショットを撮る。
穂火はデッキに置かれてあるベンチに座りながら、先に見える小さな桃木島を見つめる。
零は船酔いでダウンしていた。
灯里と鍵斗は海を見つめながらこんな会話をする。
「ひゃー! 落ちたら終わりだね」
「だね。でも、助けるよ」
「えー? できるのー?」
「できるよ。相棒だもん」
ふと光に照らされて、灯里の桜のヘアピンがキラリと光る。
灯里は微笑んでこう返した。
「じゃあ、私も助ける。相棒だから」
「うん」
そして、二人はまた写真を撮る。灯里が鍵斗を連れて、穂火と零のもとに行った。
船酔いでダウンしてた零の横に穂火は座っており、そんな二人と共に写真を撮る。
灯里は穂火を連れて、デッキの端へ向かう。鍵斗は零の横に座り、二人の帰りを待つ。
近づく島。少しずつ大きくなる島を見て、灯里と穂火は笑顔を見せた。
「大きくなってきた!」
「も、もう少しですね!」
そのフェリーは多くの観光客と共に、アークロックを送り届ける。
ついに、彼らは桃木島に足を踏み入れた。
「ここが、桃木島」
大きな山があり、綺麗な海があり、石で作られた壁が象徴的な自然豊かな島。
目を閉じると、さざなみの音が聞こえる。それはピアノで弾かれたメロディのように心地いい。
そんな場所で、彼らの合宿は始まる。
全員がワクワクを心に宿しながら、今……一歩を踏み出した。




