第20話 寿司屋
「なあ、お前たち、腹は空かないか?」
「……?」
突然ですが自己紹介を! 私の名前は陽向灯里。凛果さんのアークリオンを倒した後、私たちは『ガッチャン』に戻ってきました。
この『ガッチャン』という店は鍵屋であり、鍵斗くんの家でもある。そして……私たちアークロックの基地でもあるのだ。
表向きは鍵屋、裏の顔はアークロックの基地。そして二階は鍵斗くんとシーラさんの家。
そんな場所で、私たちは零くんが目覚めるのを待っていた。そしてそんな時に、シーラさんが突然こんなことを言う。
「私はお腹が空いた」
鍵斗くんがシーラさんにこう言う。
「師匠、今日は焼きそばの予定なんですが」
「すまない、私は外食したい気分だ」
「ええ……」
私はガッカリしている鍵斗くんを見て、ふふふと笑ってしまう。そんな私にシーラさんはこう言ってきた。
「灯里も食べたいだろう? そうだな、寿司でも行くか」
「お寿司!?」
鍵斗くんの目が輝く。私は彼の自己紹介を思い出し、そこで寿司が好きと言っていたのを思い出した。なので援護する。
「いいですねー! 寿司! 行きたいです!」
「なら決定だ。零が起きたら行こう」
私は冗談で「回らないやつですか?」と訊くと、シーラさんは「回るやつだ」と返した。
穂火ちゃんはあわふたしながら、気まずそうにこう言った。
「あ、あの! わ、私も行っても良いやつですか……?」
その言葉に全員の動きが止まる。私は笑っちゃって、こう答えたんだ。
「いいに決まってるじゃん、仲間でしょ!」
そう言うと、穂火ちゃんはパッと笑顔になった。シーラさんはふふふと呟き、こう続ける。
「今日は私の奢りだ。金はある、若者の胃袋を見せてくれ」
「はーい!」
私はそう答えた。シーラさんの腹がすぐに鳴る。
彼女はこう続けた。
「零はまだ起きないのか?」
「起きなさそうです」
「よし、ビンタだ」
「ええ!?」
鍵斗くんが驚き、零くんの前に立って「させない! 僕が守る!」と言った。だが私が鍵斗くんに飛び乗って、馬乗りで動きを止める。その先に穂火ちゃんの名前を呼んだ。
彼女は戸惑いながら「ごめん!」と言って零くんの頬を叩く。彼は目を覚まし、近くにいた穂火ちゃんの顔を見てまた気絶した。
「零ィィィイイイイイイイ!!!!」
シーラさんの、怒号が響く。
□■□■□
僕は空錠鍵斗なんだけど、今、回転寿司に来ている。
僕と気絶している零くんが並んで座り、机を挟んだ先には穂火さんと陽向さんと師匠が座った。
師匠が我慢できずに、零くんを気絶させたままここに来たのだ。そしてたった今、彼は目覚める。
「がはっ! ここはどこ? 私は誰?」
「君は水沢零。回転寿司に食べにきたんだよ」
「……なるほど!」
零くんは頷く。おそらく理解できてないだろう。
さて、僕は寿司が好きだ。だから回転寿司にはワクワクしている。
なかなか来られない場所だし、今日はお腹いっぱいになるまで食べたかった。
みんなは何を食べるんだろう。僕はハマチを頼みながら、みんなの注文に注目した。
「はーい! じゃあ私はポテト!」
「私は……へへっ、カルビ寿司で」
「なら私はラーメンにしよう。そういう気分だ」
「え、えっと、じゃあ僕は茶碗蒸しで」
どうしよう、ツッコミが追いつかない。
とりあえず陽向さんのポテトはまあいい。穂火さんのカルビもまあ寿司だからいい。
「ほんと、なんで師匠はラーメンなんですか? ここは回転寿司ですよ。そしてなんで零くんは初っ端から茶碗蒸し!? それ、中盤から終盤にかけて食べるやつじゃないの!?」
タララランっ! と音楽を鳴らしながら、頼んだハマチがやってくる。陽向さんはそれを取ってこう言った。
「まあまあ、これでも食べて落ち着いて」
僕は、ここは一体、なんて名前の店なんだろうと思いながら、ハマチの寿司を食べた。
久しぶりの寿司で、溶けるような旨味を感じる。舌の上で溶けるようなハマチは、シャリと合わさって幸福感を与えてくる。
ああ、幸せです。
僕は届いた商品を受け取る仲間を見た。
ポテトを美味しそうに食べる陽向さん。カルビ寿司を頬張る穂火さん。茶碗蒸しで温まっている零くん。ラーメンを啜る師匠。
まあ、幸せは人それぞれかと思いながら、僕は納得した。
なのに、急に陽向さんはポテトを僕に向けてきた。しかも、挑発的な小悪魔の笑みで。
「はい、あーん」
「……え!?」
「はははっ、なんてね! はい、あげる、美味しいよ」
陽向さんは僕を揶揄ったのか、普通にポテトを僕の皿に置いた。
僕は不貞腐れながらポテトを食べる。陽向さんは他の人にもポテトをシェアしていた。
そして注文していたのであろうハマチがやってくる。陽向さんはそれを取って、「誰の?」と訊いた。零くんが手を挙げたので、陽向さんはそれを渡す。
そして陽向さんは流れて来たオニオンサーモンを取って、食べ始めた。
僕は彼女を見る。
食べ方も綺麗で、周りのことをちゃんと見ていて、学校では友達も多くて勉強もできて運動もできる。
「あ、鍵斗くんのお茶少ないねー。入れてあげる」
「え、いいよ……あ!」
断ったが、入れてくれた。なんだか申し訳なくて、僕は「ありがとう」と言う。陽向さんは「いいってことよー」と軽く言った。
本当に、彼女は凄い。
何でもできる、女の子だ。
だがオニオンサーモンのオニオンとサーモンを分解して、オニオン大量の寿司とサーモン二枚重ねの寿司を作って「見てみてー、オニオン寿司とスーパーサーモン寿司だよ〜」などと言っているのを見て、僕は完璧な人はいないのだなと思う。
この奇行がなければ、完璧美少女だったのかな……と、ありもしないことを考えてみる。
でもそれは、あまりにも陽向さんではなかった。
僕はマグロを取って食べる。すると零くんはマグロを頼んだ。
僕がサーモンを食べると彼はサーモンを頼む。そしてカツオを頼むと、彼もカツオを頼んだ。
僕のことを慕ってくれているのは嬉しいけど、真似されるのはなんだか複雑な気分でした。
そしてついにやらかす奴が現れる。ハンバーグ寿司が十皿並んで届いたのだ。
ハンバーグ寿司を食べるのは一人しかいないだろう。僕含めたみんなはその人物を見た。
そう、穂火さんである。彼女は冷や汗をかきながら「ミスりました」と言っていた。
僕たちは仕方がないので、五人でハンバーグ寿司を食べることにした。初めて食べたけど、ジューシーで美味しかった。
ちなみに、シーラさんは黙々とラーメンを食べている。三皿目だ。
なんやかんやで、楽しい食事であった。しかし楽しいことはすぐに終わるもので、終わりはすぐにやってきた。
「美味しかったねー」
そんなことを言いながら、僕たちは満足する。いつの間にか陽向さんは皿の数を数えていたようで、まとめてくれた。
「鍵斗くんが十五皿、零くんが十皿、穂火ちゃんが二十六皿、私が十一皿か〜。穂火ちゃんに負けちゃった」
それを聞いて真っ赤に照れる穂火さん。僕は「やっぱり、美味しそうに食べる穂火さんを見てると食欲が湧いてくるね」と伝える。
師匠は三皿のラーメンの皿を見つめた後「いっぱい食べられるのは若者の特権だ。良いことだな」と言った。
穂火さんは照れながら「へへ」と笑う。
そしてお会計の時間。僕は師匠の横に立っていた。合計金額は一万円を超え、かなりのものになった。払えるのかと思ったが、それは杞憂に終わる。
しかし新たな謎が出てきた。
師匠の財布には一万円が十枚以上入っており、一体何をしてお金を得ているんだと不安になる。
だが詮索しない方がいい気がして無視した。
払い終わり店を出て、みんなで歩いて帰ろうとなった時、陽向さんが自撮り棒にスマホをセットしてこう言った。
「せっかくですし! 写真撮りましょう!」
「ああ、いいな」
シーラさんがそう答える。僕は写真なんてほとんど撮らないから、どんなポーズをすればいいんだろうと悩む。
陽向さんは喜びながら、みんなを集めた。
陽向さんに連れられて、僕は真ん中に立つ。リーダーだからだそうだ。
横に立っている陽向さんの体が触れて、変に緊張してしまった。
僕の横には零くん。陽向さんの横にシーラさんがいて、陽向さんとシーラさんの間にちょこんと穂火さんが立つ。
僕はとりあえず親指を立てて、サムズアップした。
「それじゃあ撮るね! はい、チーズ!」
「え!?」
突然、陽向さんが僕の体に近づいてくる。肩が触れるなんてレベルじゃない。体ががっつりくっついて、僕は目を丸くしてしまった。
そして見返した写真は酷いもの。
陽向さんの写りはいい、師匠も良かった。でも、穂火さんは目が閉じていて、零くんは気絶寸前。近づいた陽向さんの匂いにやられたのだろう。ギリギリ耐えたが、白目だった。これでも見栄えが良さそうに感じるのは、イケメンゆえだろう。
そして僕は、陽向さんに近づかれ、あからさまに赤面している。こんなの嫌で、撮り直しを要求した。
陽向さんは「ごめんごめん」と言いながら、素直に撮ってくれる。
次に撮った写真は、なかなかいいものであった。
その写真はアークロックのグループメッセージに載せられる。僕はその写真をダウンロードした。
その集合写真がなんだか嬉しくて、微笑んでしまった。
みんなが笑顔で、ありきたりなポーズを取っている写真だ。僕はサムズアップ、陽向さんはピース、穂火さんは笑顔のみ、シーラさんは腕を組んで微笑んでいる、零くんは首に手を当てていて格好良かった。
そんな写真。
そっちの方がいいと思ったのに、後日、ふとスマホを触っている陽向さんを見てしまった。
彼女は集合写真をスマホの壁紙にしており、その写真は……最初に撮った方、僕が照れている方だった。
写真は拡大されていて、僕と陽向さんがアップで映されている。
それがなんだか恥ずかしくて、僕は見てないふりをした。
画面全体に広がった、僕と陽向さんだけが写っている写真。早く変えてくれないかなと思いながら、僕は今日も、アークロックの日常を過ごす。
□■□■□
鍵斗たちが回転寿司にいた時、離れている場所に彼らもいた。
「陽真、醤油」
「自分で取れよ……はい」
「ありがとう」
そう、プラネッツのメンバーもそこにいて、陽真はハマチ、マグロ、サーモン、カツオなどを食べていた。
周りは何故かラーメンやハンバーグ。何故魚を食べないのだろうと思いながら、陽真もまた、それも一つの幸せかと、納得した。




