第18話 幸せを守る仕事①
突然ですが、自己紹介を!
私の名前は陽向灯里。アークロックの一員です!
そんな私は今、穂火ちゃんと一緒にターゲットを尾行しています。
「はむっ。……おいしいです」
黒色と茶色のワンピースを着ている穂火ちゃん。大きなリボンが付いてて、お人形さんのような服だ。
そんな可愛い服を着ている穂火ちゃんは、パフェを食べていた。
そう、ここはカフェ。窓の向こうで蝉が鳴いているのに、店内は別の季節みたいに涼しい。
私たちはカフェにいるターゲットを監視していたのである。
今日は夏休み。カフェに行くということで私もオシャレして来た。
白い半袖の無地のTシャツに、デニム生地のショートパンツ。オシャレポイントはこの無地のTシャツが目立たせているネックレス。
それと今日は髪型も変えてみて、クネクネと髪を巻いてから、ポニーテールにしてみたのだ。
穂火ちゃんが「可愛いです」って言ってくれてすごく嬉しい。
私はそんなことを考えながら、サングラスをクイクイっと動かしながらジーっとターゲットを見た。
「先輩、見過ぎですよ……」
「……バレちゃうかな」
「はい」
私はやってしまったなと思いながら、穂火ちゃんを見る。彼女は甘いものが好きなのか、カステラのパフェを美味しそうに食べていた。
私はバニラアイスの入ったメロンソーダを飲む。
カランっと氷が動く音がした。コップに滴る水滴が手に触れて、改めて夏を感じる。
(日焼け止め……もっと買わなきゃいけないなぁ)
そんなことを考えた。
さて、なぜこうなっているのか。それは昨日の夜まで遡る。
シーラさんから二つのアークリオンの発生の可能性を伝えられた。シーラさんは何故かそれを知っており、アークが開けられたであろう人の居場所を教えてくれたのだ。
私たちがプラネッツに負けてから三日が経ったが、あれからプラネッツの音沙汰がない。ゆえに私たちは通常業務に戻り、アークリオンの退治をしているのである。
そして現在に戻り、私は穂火ちゃんとペアで、あるアークリオンを追っていた。
そのアークリオンに目覚めそうなのが、カフェの店員である女性だ。
ここはオシャレなカフェで、予約制。学生が利用しやすい場所で、十代の溜まり場になっている。そんなところでバイトしている大学生なので、当然のように彼女もオシャレだった。
私はメロンソーダを飲みながら、その店員を見る。
名前は真中凛果。大学二年生。アークは不明。そしてここまで見た感じ……何かに不満を持っていそうだった。
注文を取る声は丁寧なのに、語尾がほんの少しだけ疲れていたのを思い出す。
「ずずずー」
「……」
「ずずずー」
「……先輩」
「なに?」
「もうメロンソーダないですよ」
「……ほんとだ」
観察に夢中になり過ぎて、メロンソーダを飲み切っていたことに気づかずに、底に残っていた水を吸っていた。
私はもっと飲みたいと思い、次なる注文をする。見ると、芋ジュースというものがあり、気になり注文した。
飲むと、芋をそのまま使っているのかと思うほど味が濃い。美味しかったが喉が痛くなった。なんでも濃ければいいというものでもないのかもしれない。
そして時は流れ、夕方。私たちは店を出た。
閉店のシャッター音が鳴る。
「閉店時間になりましたね。結果、何も得られませんでした」
「そうでもないよ」
私は自信満々にそう言って、穂火ちゃんにこう伝えた。
「六時間以上滞在してるくせにあんまり注文しない嫌な客っていう称号はもらえたから」
「いやそれ、ダメなやつ……」
肩を落とす穂火ちゃんを見て私は笑ってしまう。そんな時にターゲットである凛果さんが店の裏口から出てきた。バイトも終わったようだ。
私はニヤリと笑い、こう伝えた。
「でも、それだけじゃないよ。私、わかっちゃったもん」
「……?」
私は凛果さんを追いかけた。そして声をかける。
「あの! 凛果さん!」
「……? だれ?」
「わたし、陽向灯里っていいます。今日は話を聞いて欲しくて来たんです」
私はスマホの送信ボタンを押しながらそう言った。
凛果さんは不思議そうに、そして警戒しながらこう言った。
「ど、どういうこと? てかだれ?」
「ファンです!」
「ファン!?」
その凛果さんの豹変に、穂火ちゃんは肩を震わせて驚く。私は穂火ちゃんに説明するようにこう言った。
「リンチューブ。それがあなたのヌーチューブのチャンネル。オシャレな服を紹介しているヌーチューバーです」
凛果さんはそんな私の言葉を聞いて、嬉しかったのか自信満々にこう返してきた。
「そうなの! で、そのファンがなんのよう?」
私は微笑んでこう言った。
「でも、最近はあまり動画を上げませんよね?」
「それは……。てか、まって。あなたは何? 厄介ファン?」
「あ、いえ違っ!」
それが何かを刺激したのか、彼女の瞳は闇を纏う。そして、足が伸び、腕が伸び、背丈は伸び、関節が軋む音がして、骨格が『願い』に組み替わっていく。
服装は奇抜なものに変わった。
「……陽向先輩!」
「下がって! 穂火ちゃん! アークリオンだ!」
アークリオンの第一形態。それは、人を宿主として現れるもの。大体は、その宿主の願いがこもった姿となる。
だからわかったんだ。
「やっぱり、嫌なんですよね? 今の自分が」
「……!?」
アークリオンは私を襲おうとした。だがその言葉を聞いて、動きを止めた。
私は続ける。
「実は私は古参ファンじゃなくて、昨日、貴女について調べているときに好きになった新規ファンなんです。でも、昔の動画の貴女を見たとき、ああ、いい人だなって思えた。好きな服を、好きなように紹介する貴女が」
穂火ちゃんはこの間に調べたのか、目を丸くしてこう言った。
「全然違う、紹介している服の系統。今と昔で……!」
私は頷いて、こう続けた。
「なんでも濃ければ良いってものじゃない。でも、自分の思いがこもっている奇抜な服を紹介している貴女は、どこか楽しそうで、惹かれました。今は万人受けする服を紹介してますけど、わたしは……! 昔の貴女も好きなんです!」
「……!?」
それが、彼女の不満。
SNSを見ていて、その情熱の失われ様は目に見えていた。その、昔を取り戻したいという願いが、プラネッツに利用されたのだろう。
きっとファンが望んでいるものは、今の貴女だ。でも、昔の貴女もちゃんとそこにいるって、知って欲しいから。
「……陽向さん!」
「……!」
夕方の空が、一気に禍々しい紫の空へ変わる。これは、虚空の空間とかなんたらの、黒の鍵を挿して変わる、暴れても問題のない、別の世界のような空間。
私は助けに来てくれた鍵斗くんを見て、口角を上げる。
彼は動きを止めていたアークリオンに白い鍵を挿して、アークリオンを分離した。
もはやモデル体型を超えて、棒人間のように引き伸ばされたアークリオンが現れる。
あれがアークリオンの第二形態。宿主を失ったアークリオンの暴走形態だ。
私はアークリオンから引き離され、気絶し倒れそうな凛果さんを受け止める。
「穂火ちゃん! あとは任せた!」
「え……え!?」
私の声に困惑した穂火ちゃんに、鍵斗くんは鍵を挿す。つい昨日作ったばかりの新しい鍵だ。
そして穂火ちゃんのアークは開き、穂火ちゃんは困惑しながらも、詠唱を始めた。
「え、えっと! 深淵より誘いし炎の精霊よ、我に力を貸したまい、高貴なる力を与えたまえ。紅の灯、天を焦がし、我が身を捧げ奉る。願わくば、闇を祓い、穢れを焼き尽くさん。我が字に共鳴し、今ここに炎を! 『焔ノ舞』!」
現れた炎はクロスを描いてアークリオンを焼く。そしてアークリオンは倒され、鍵斗くんはこの空間を壊して、元の空の色へと戻す。
シーラさんもやって来て、彼女は気絶している凛果さんを連れて行こうとした。
だが寸前で目が覚めて、私を見た彼女は微笑んだ。
「ありがとう。わたし、ずっとモヤモヤしてたの。やりたいことやらなくなって、ウケることしかやらなくなって。でも、嬉しかった、貴女のようなファンがいてくれて。……応援ありがとう、わたし、元気でた」
「いえ、頑張ってください!」
私は笑顔でそう返す。彼女は満足そうに微笑んだ後、目を閉じた。
それを見たシーラさんは、凛果さんを担いでこう言う。
「それじゃあ、連れて行く」
シーラさんは凛果さんを車に乗せて去った。私は微笑んで「ミッションクリア」と言った。
ふと穂火ちゃんが鍵斗くんに「空錠先輩、早かったですね」と言っていた。
私は穂火ちゃんに、鍵斗くんへのメッセージを見せた。そう、あの時に助けを呼んでいたのだ。
まあそれはそれとして、私は次の話題に移る。
「……てかさ、そっちは上手くいったの?」
私がそう訊くと、彼は苦笑いした。そしてこう語ってくれる。
その語りは面白く、私たちはその話を聞いた。
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これは後日談だが、凛果さんのチャンネルであるリンチューブは奇抜なファッションの紹介も始めた。最初こそ戸惑われて、登録者も減ったらしいが、今ではニッチなファンも取り入れて、前よりも人気になっているらしい。
でも、彼女はそれを喜ばない。そもそも、気づいていないのだろう。
そんなに熱中できる何かがあるのは良いことだ。
何でも濃ければ良いものではないが、濃いというのは薄いものよりは良いもので。私は今日も、リンチューブを見て笑っている。
お供に持って来たメロンソーダに入っている氷が、カランと音を鳴らした。
それがどうにも心地よくて、私はスマホに映る高評価のボタンを押す。
エアコンの効いた部屋で、今日もまた、幸せを享受した。




