表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アークロック  作者: 加鳥このえ
第二章 激突! 修行編!!
17/30

第17話 この平凡な毎日に刺激を!

 相棒という言葉を聞いたアークリオンは、舌を鳴らしてこう言った。


侮辱(ぶじょく)しているのか?」


 そして始まるのは、花吹雪による攻撃。この花びらは一枚一枚が刃物のように鋭い。だが、今のオレなら回避できる。


 窓ガラスを、コンクリートの壁を、スパスパと切り裂くその花びらは、大きな音を立てずにオレを追尾した。


 オレはキーハートを振って、炎を飛ばして花びらを焼く。


 この穂火(ほのか)ちゃんの力は、花びら程度なら通用する火力を持つ。


「……っ!」


 だが、それでも生き残る花びらはある。オレはそんな花びらから逃げながら、隙を探った。


「起きて! 陽向(ひなた)さん!」


「……」


「答えてよ、仲間でしょ!?」


「はははっ、涙ぐましい努力だな。残念だが……陽向灯里(ひなたあかり)はもういない」


「どういう意味だ?」


 オレは考える。だが答えは出ない。


 アークリオンが宿主である人間を乗っ取ることはある。だがここまで知性のあるアークリオンは珍しい。それに、陽向さんの面影(おもかげ)を感じない。


 アークリオンは宿主をエネルギーとして生まれる。それは人間の赤ちゃんと同じで、宿主のDNAを受け継ぐんだ。


 アークリオンの場合は記憶も受け継ぐため、宿主の性格が反映される。


 でも、この桜を操るアークリオンは、本当に陽向さんから生まれたのか疑問に思うほど似ていない。


 何が起きているんだ。


「よそ見か? 余裕だな!」


「くっ……!!」


 オレは桜の波のような攻撃をモロにくらってしまう。


 カミソリの嵐に襲われた気分だ。


 全身が切り刻まれ、血が吹き出る。キュロとの戦いの傷がさらに開き、このままでは大量出血で死んでしまうだろう。


 息を吸うたび、鉄の味が舌の奥に広がる。不快な展開。


 でも、それでも君を見捨てたくないから。


 オレは倒れずに、アークリオンを見つめる。


 考えろ、勝てる方法を。


 思考を止めるな。


「……っ!」


 オレは剣を振り回し、炎の斬撃を飛ばす。そして花びらが消えた部分を()うように走り、この桜の花びらの群れを抜ける。


 そして()んだ。


「何をしている?」


 アークリオンにそう言われた。


 なぜなら空中では踏み込みはできず、身動きも取れない。ゆえに、迫ってくる花びらはオレの体を今度こそ斬り刻むだろう。避けることは不可能。


 だが、その隙は与えない。


「……くらえ!」


 オレはキーハートに新たな鍵を()した。するとキーハートの刃の部分が変形し、盾のように変わった。そしてスラスターが現れ、勢いよく噴射し、前へ進んだ。


 これは、(れい)くんの鍵。防衛の力だ。


 その盾となったキーハートはアークリオンに向けて進んだ。


 盾が一直線に突っ込み、アークリオンの視線が盾に集中する。


「何度でも言おう。お前は私を……侮辱しているのか?」


 桜の根っこが風を切り裂きながら、盾を穿(うが)いた。貫通した盾は、それを持っていたオレの体ごと貫く。赤い血が噴き出す。


 ……と、彼女は思っていたのだろう。


「なに!?」


 そこにオレはいない。手放した盾は、ひとりでに進んでいた。


 そう、盾だけが、ひとりでに。


「どこだ!?」


 その間にオレは、壁走りの鍵を自身の体に挿し、その力を得て、二階にいたアークリオンの後ろまで近づいていた。


 でも、寸前で気づかれる。


 アークリオンは刀を構えた。そしてそれはオレを()ろうと振られる。


 それでも、オレは止まらない。桃色の、陽向さんの鍵を構えて、走り続けるんだ。


「陽向さん!」


「……!?」


 一瞬、アークリオンの動きが止まる。


 そのおかげで、オレはナイフを刺すように鍵をアークリオンに挿すことができた。


 柔らかい力に押されながらアークリオンはこう呟く。


「私を封じるつもりか? 無謀だな」


 だが、鍵は回る。


 『類い稀なる閉じる才能』


「なに?」


 アークリオンは(いぶか)しむようにオレを見た。オレは、そんなアークリオンを睨み返す。


 それを見た彼女は、不敵に笑ったんだ。


「そうか、なるほど! ははっ! お前は……!」


 □■□■□


 突然ですが、わたし、陽向灯里(ひなたあかり)は目を覚ましました。


 何があったのか、覚えていない。


 いや、わかる。


 瞬時に私の脳に流れ込んできた記憶は、プラネッツの襲撃を思い出させた。


 私は体を起こして、その名を叫んだ。


「みんな! 鍵斗(けんと)くん!」


 何があったのか、建物は崩壊。プラネッツの人も、アークロックの人もいない。


 残されたのは、私一人。


「……!」


 そうじゃなかった。みんながいなくなっても、彼だけはいてくれたから。


 私はその血だらけの彼に近寄って、安否を心配した。


「鍵斗くん! 目を開けて! 起きて!」


 壁に寄りかかって目を閉じていた鍵斗くんを抱きしめながら、私は泣いた。


 ずっと、私は空っぽな人間だと思っていた。冬のように、冷たくて乾燥している性格で、それを隠そうと強引に明るく振る舞って。


 だから私は、大切な人が死んでも、何も思わないんだろうなって思ってた。


 でも、でもさ、嫌だよ。


 君と一緒にいた毎日が、溢れるように心に残るから。


 まだ、離れたくないんだ。


 その手を握りしめて、私は涙した。その溢れた想いは雫に乗り、彼の手に落ちた。


 その波紋は空間を支配し、見る見るうちに鍵斗くんの体を癒していく。


「え……?」


 鼻水をダラダラと垂らしながら泣いた私は、唖然とする。傷が消えた鍵斗くんは、ゆっくりと目を覚ました。


「……」


 私はその瞬間、何も言えずに、ただズズっと鼻水を吸い込んだんだ。


 そんな、可愛くもない姿を見せたのに、鍵斗くんは微笑む。


 そしてゆっくりとこう言ったんだ。


陽向(ひなた)さん? 生きてて……よかった」


 そして再び彼は目を閉じる。焦った私は鍵斗くんの身体を揺さぶった。そこに、声をかけられる。


「やめてやれ」


「……シーラさん!」


 現れたシーラさんは私にボックスティッシュを渡しながら、鍵斗くんの身体を見る。そしてこう言った。


「不思議だな、無事だ」


 そう言ったシーラさんは鍵斗くんをおんぶして、私にこう伝えてきた。


 私はズーッと鼻を噛んで、それを聞く。


「逃げるぞ、警察が来る」


「……はい」


 どうやら、私たちの行動は新聞の見出しを飾るほどのことだったらしい。


 あの後、逃げ切った私たちは後日その新聞を見た。


 その内容は『ショッピングモール謎の爆発』であった。


 テレビを見ていた穂火(ほのか)ちゃんと(れい)くんはニュースに釘付けになる。そこには、上空から見下ろされたショッピングモールが映し出されていた。あれは、私たちがいた場所。


 アナウンサーは言った。


「今はもう使われていないショッピングモールが突然崩壊したという事件が起きました。警察はこれを事故ではなく事件だと考えており、経年劣化ではないと確証を持っているようです。近隣住民の声では、爆発音のようなものを聞いたという人もおり、ガス爆発ではないかという声もあるようです」


 そんなテレビを見て、私は一人気まずくなる。


 なぜなら、私だけ何も覚えていないのだから。


 いつもなら笑う声が響く部屋で、コップの氷が当たる音だけが鳴った。


「……」


 それに、みんなから聞いたところ、その犯人は私であったらしいのだ。


 証言を合わせると、私はプラネッツの人にアークを開けられて、アークリオンとなって暴走したらしい。


 いつもなら、ふざけて空気を良くするが、今の私がそれをやるのはヤバいと思い、黙って新聞で顔を隠す。


 気まずい、ごめん、と心の底から謝っていると、救世主がやって来た。


「いやー、大変だね」


 砂糖いっぱいのコーヒーを飲みながら、鍵斗(けんと)くんはそう言う。


 ぬいぐるみを抱きしめていた穂火(ほのか)ちゃんも察したのか「ですね。ほんとです」と言った。(れい)くんも頷いている。


 そして鍵斗くんは、私を見てこう言ってくれた。


「だから気にしなくていいよ、陽向(ひなた)さん」


 穂火ちゃんもこう続けてくれた。


「そうです。アークリオンの時は意識がないと、私たちも知っていますから」


 零くんも頷く。私は安堵して「ありがとう」と返した。


 だがシーラさんはこう言ったんだ。


「だからと言って、なあなあで終わらせるなよ。今回の一件で全員の弱点が判明した。零は女耐性の無さ、穂火は緊張に弱い、鍵斗は情に脆く、灯里(あかり)は制御ができない」


 その鋭い指摘に、私たちは全員黙る。


 みんな、その敗北を噛み締めていた。私は私のことを考えていた。たぶん、他の人も自分のことを考えていたのだろう。でも、一人だけみんなのことを考えていた人がいた。


 そう、鍵斗くんである。


「僕は思う。こんな危険なことはやめるべきだと。穂火さんも、零くんも、震えていた。アークリオンとの戦いは危険だし、プラネッツとの戦いはもっと危険だ。だから、やめるべきだ」


 穂火ちゃんと零くんは反論できない様子。おそらく図星だったのだろう。怖いという感情は誰にでもあるものだから。


 だから私は、こう()いた。


「でも、それじゃあ被害が増えるよ?」


「増えない。増やさない」


 私は、そう言い切った鍵斗くんを見て、意図を察した。その悲しい結論を胸に刻みながら、鍵斗くんが言う前に私がこう言った。


「鍵斗くんが一人で戦うから?」


「うん。元々そうだったんだ。僕一人でもやれる」


 それを聞いて、私はカチンと来たんだ。


 今回の敗因は私のせい。それはわかる、だから反省してるし、今回の会議は息を潜めていようと考えていた。


 でも、これだけは我慢できないから。私はガツンと言ったんだ。


「なんで、そんなに私たちを突き放そうとするの?」


「守りたいから!」


「でも!」


 大声を出した私に怯む鍵斗くん。私はソファーから立ち上がって、鍵斗くんの前に立つ。そして本音を伝えた。


「私だって! 守りたい! ボロボロの鍵斗くんを見て、私は辛かった。だから……!」


 穂火(ほのか)ちゃんと(れい)くんも近づき、こう言う。


「こ、怖いけど……私はここにいたいです。その後の幸せを守りたいから、この仕事に、惚れたから」


「僕にとって日常は、恐ろしいものでした。でも、鍵斗先輩が守ってくれるから、安心するんです。貴方がいたら、僕は何も怖くない」


 私は二人の答えを聞いて、鍵斗くんに私の思いを伝えた。


「私も好きだよ、このチーム。だから、一人でやるなんて言わないで。私も足を引っ張らないように頑張るから。もう一度、チャンスをください」


陽向(ひなた)さん……」


 鍵斗(けんと)くんは、私の名前を弱々しく呼んだ。そして、シーラさんの「いいんじゃないか?」という言葉を聞いて、彼は決心する。


「そっか……強いね、みんな」


 私はその表情で、すべてを察する。なぜなら私は彼の相棒なのだから。


 そして私は鍵斗くんの腕を引っ張って、シーラさんの近くへ連れていく。穂火ちゃんと零くんも自然とついて来た。


「ほら、こっちに来てよ、リーダー」


「え、り、リーダー!?」


 シーラさんはそれを聞いて笑う。そして、席に座るシーラさんの前に私たち四人は集まり、私はこう宣言した。


「私たちはアークロック。リーダーである鍵斗くんを中心にまとまるチームであり、幸せを守る戦士。だよね、鍵斗くん」


「うん」


 私はその答えを聞いて、微笑みながらこう続けた。


「負けてもいい、その度に進化する。そうやって、どこまでも成長するチーム。そんなアークロックは、今……正式に結束します」


 穂火ちゃんは自信のある笑みを浮かべ、零くんは照れる。鍵斗くんは、少し嬉しそうだった。


 今日からは誰かの肩が触れても、誰も離れない。


 私は横に立っている鍵斗くんを(ひじ)で押して、私を見た彼にウィンクした。


 声を出さずに驚いた彼は、照れながらこう続ける。


「え、えっと。ごほん! それじゃあ、アークロック! これからもよろしく!」


「おー!」


 私の声に遅れて、穂火ちゃんと零くんの「おー!」が聞こえる。


 そんなチーム。まだバラバラだけど、いつかはこの掛け声が様になるから……私はみんなを支えようと決めた。


 もう、ここは私の居場所だから。


「じゃあ! みんなでピザ食べよー!」


「ほんとピザが好きですね、陽向先輩」


「あたぼうよ!」


 私はそう言って、穂火ちゃんと零くんと肩を組む。早速、零くんが気絶して、穂火ちゃんは足を滑らせて転んで、鍵斗くんは零くんの名前を叫んで、シーラさんは笑う。


 そんなバラバラなチーム、アークロックはここから始まる。


 敗北を超えて、私たちはまとまったんだ。


 賑やかなチームを見て、私はふと笑った。


 『この平凡な毎日に刺激を!』


 今ならこのタイトルのラノベを書けると、昔の私は思っていたが……昔の自分よ、もうすでにそのラノベは、私の手の中にあるみたい。


 幸せとは、相対的なものなのかもしれないな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ