第16話 相棒だから
夢を見ていたんだ。
親友ができるかもって。
昔、友達に突き放されて以来、僕は友達というものに拒否感を示していた。
でも……そんな僕でも仲良くなれるかもって、思ったんだ。
気づけば僕は、ゲームセンターにいる。
目の前で、僕と陽真くんが遊んでいる。そんな、もう無い未来を目の当たりにしながら、微かな声を聞いたんだ。
「……先輩!」
景色が剥がれ、白い世界に変わっていく。ああ、そうか。ここは……夢だったんだな。
「……鍵斗先輩!!」
「……!」
黒い視界に光が入り、僕は意識を取り戻す。目の前にいたのは、ポロポロ泣いている穂火ちゃんだった。
頭には柔らかい感覚がある。そう、僕は穂火ちゃんに膝枕されていた。
何が起きたのか、その疑問はすぐに消えることとなる。
忘れるはずもない、その黒い桜の花びら。
僕は咄嗟に起き上がって、彼女を見た。
無数の花びらが動き、球体を空中に作っている。それら一つひとつはまるで意思を持っているかのように、プラネッツを襲っていた。
僕は、自分の太ももを拳で叩きながらこう言う。
「くそ……!」
これは陽向さんのアーク。しかも、アークリオンの、暴走したアーク。
つまり、アークを開かれたんだ、プラネッツの誰かに。
(命知らずめ……!)
僕はプラネッツを恨みながら花びらの嵐を見る。そして脳裏をよぎったのは、僕を信頼してくれた陽向さんの笑顔だった。
「……」
そうだな、そこに僕がいたら止められたんだ。
呑気に気絶して、大切な仲間すら守れないなんて、敵を批判する資格があるのだろうか。
いや、ない。
オレは、キーハートを強く握る。
陽真くんとは戦いたくない。これは真実だ。
でもさ、敵同士なんだから……仕方がないんだよ。
オレが落ちたら陽向さんは無防備になる。だから負けるわけにも、死ぬわけにもいかないんだ。
大切なものを見失うな、空錠鍵斗。
もう二度と仲間を捨てるなと、ここに誓え。
「陽真ぁぁあああああああ!!!」
オレは、こちらを見た陽真くんに剣先を向け、こう宣言した。
「友達ごっこはもう……終わりだッ!」
なんのためにここにいる。なんのために力を得た。
(幸せを守るためだろ!)
オレは穂火ちゃんにこう指示した。
「穂火! あそこで気絶している零を回収して今すぐ逃げろ!」
「でも……先輩は!」
「大丈夫だ、みんなを守るためにオレがいる。信じて!」
穂火ちゃんは少し考えた後、頷いた。
「……はい!」
零くんをおんぶし、この場を去る穂火ちゃん。
ここは、今はもう使われていないショッピングモール。閉鎖しているといっても、黒の鍵を使わずにこの暴れっぷりはマズい。
アークは変に利用されないように隠蔽されるべきなんだ。多くの人に見られたら、記憶を消す師匠の手間が増える。
オレは焦りながら、プラネッツに近づいた。陽向さんの狙いはプラネッツ。落ち着かせるために、まずはプラネッツを追い払う。
もとより、プラネッツがいたら鍵を挿すことすら妨害される。彼らの目的において、アークを封じるということはその目的の否定を意味するのだから。
オレは陽真くんの言葉を思い出した。
人の進化。
それがプラネッツの思想なら、必ず止める。人の進化がダメなんじゃない。その過程の犠牲を容認してしまうのがダメなんだ。
オレはキーハートに鍵を挿し、回した。そしてキーハートは炎を宿す。
今挿したこの鍵は、穂火ちゃんのアークを封じた鍵である。その際に鍵に刻まれるアークの痕跡を辿り、アークの力を引き出すのがキーハートの力。
これはある種の奥の手である。なぜならキーハートに鍵を挿すと、その鍵は粒子となってキーハートに吸収される。つまり、アークを開けられなくなるのだ。
今回は穂火ちゃんの鍵を使ったから、穂火ちゃんのアークはもう開けられなくなった。だが鍵は穂火ちゃんの体に触れながら、時間をかければ再生成できる。ただし、戦闘中には行えないほど時間がかかる。
つまり、これは穂火ちゃん達がもう戦えなくなってからの……奥の手ということだ。
「アーロイドっ!」
「空錠鍵斗ッ!?」
オレは身体能力強化の鍵を自分の体に挿し、身体能力を上げてから二階に向かって跳んだ。
屋外に面している建物ゆえに、そこに障壁はない。
「……っ!」
オレは物を操る力を持つアーロイドを警戒して、アーロイドを狙った。だが、彼女を守る騎士が現れる。
「邪魔……させない」
「そいつは任せた! キュロ!」
オレはその子を見た。背丈は小学生ほど、髪は長くツインテール、武器は双剣、その戦闘スタイルは……高速アタッカー。
可愛らしい容姿に惑わされるな、やつもまた、プラネッツの一員だ。
「お前は、キュロ・マーズ!」
「二回目の初めましてだね、空錠鍵斗」
それは、目にも止まらぬ一撃。一瞬の光が放たれ、彼女は気づけばオレの頬を斬っていた。
身体能力強化に付随する防御力が上がる効果がなければ、今頃顎は消えていたであろう。
「まだまだ……」
そのキュロの攻撃は止まらない。柱を、柵を、床を蹴り、オレを中心に動く。それはまるで踊りのよう。結果、無数の攻撃の軌跡で球体を作りながら、オレを斬り続けた。
だが、この程度では負けない。
オレは一度の攻撃を捌いた。
キュロの攻撃力は低い。それを連撃で補っているんだ。だから一撃を防いだところで、彼女の攻撃は終わらない。
でも、隙はできる。
オレはキーハートを強く握り、こう言った。
「燃えろ! フレイムなんちゃら!」
オレはキーハートを振り、オレとキュロの間に炎の壁を作った。
「その程度……」
だが、キュロはお構いなしに突っ込んでくる。でもさ、それはいいんだよ。
なぜならこの壁は守ることが目的じゃない。攻撃を隠すことこそが目的だったのだから。
「……!」
オレはキーハートのトリガーを押しながら、剣を振る。キーハートの刃はカッターのような刃。ゆえに、その切り離しは容易である。
「……うそ!?」
その刃は回転しながら進み、炎を切り裂く。そしてキュロの肩を鋭く斬った。
血が噴き出す。オレはキーハートを振り、新たな刃を出した。
キーハートはただの剣じゃない。キーハートの中には、いつだって二本の刃が眠っているんだ。
「悪いなキュロ、手加減している余裕はない」
「そんな……!」
オレはキュロから一瞬目を離した。その瞬間に、オレの髪が揺れる。オレの横を誰かが通った。
「……!?」
否、ナイフである。
「アーロイド!」
肩を斬られ、動きが鈍ったキュロを助けるために、アーロイドが現れた。
オレは、キーハートを振るが、ナイフが飛んできてそれを防ぐ。そこに、プラネッツの指揮官であろう男、エーヴェル・ジュピターがこんな指示を出した。
「全員、退避だ! キュロが傷つけられた! これ以上仲間を失うわけにはいかない!」
ザザーっと海水の波が通路を進み、オレを避けてキュロを連れていく。残ったアーロイドはオレを蹴り飛ばして、吐き捨てるようにこう言い残した。
「偽善者め!」
「……何を!」
そしてアーロイドもこの場から逃げるように消える。ナイフが妨害してきて、追うことはできなかった。
だが問題はない。もとより今は、陽向さん優先。
最後に残ったプラネッツの男を見て、オレはその名を呼んだ。
「……陽真!」
「……鍵斗」
それは、オレの元友達。大切な思い出を斬り捨てるように、こう伝える。
「次は勝つ! 絶対に負けないからな!」
そんな言葉を聞いた彼は笑みをこぼす。オレはふと、ゲームセンターのことを思い出していた。
あの時も、こんなことを言い合ったんだっけ。
陽真は真剣な顔でこう言って、この場を去った。
「次も負けねえよ」
そしてオレは、微笑む間もなく彼女に視線を移した。
黒い着物に身を包み、桜の装飾が施された刀を持つ。そんな黒い桜の花びらを操る、アークリオン。
この場には、君とオレしかいない。
そんな、君であって君ではないアークリオンにこう言われる。
「余を止めるつもりか?」
だからオレはこう返したんだ……君の信頼に応えるために。
「ああ、オレは君を止める」
「なんのために?」
「相棒だからさ」
そう、オレは陽向さんの相棒なんだ。彼女のことくらい、支えなきゃな。




