第15話 甘い時間の、ビターな終わり
夏休みが始まってから十日ほど経ったある日のこと。
日課の陽真くんとのゲームだが、昨日はいつもとは違い誘いを断られた。毎日はやりすぎだったかなと思いながらも、少し悲しい思いをしていた時。
相変わらずはちゃめちゃなアークロックの基地で、僕は陽真くんとのメッセージを見返しながら彼女たちを見た。
「見て! 穂火ちゃん!」
「は、はい……!」
「うおおおお! 空手チョップ! いてえええええええ!」
木の板を割ろうとしたのか、陽向さんは木を叩いて手を痛めていた。
アホなのだろうか。僕は呆れながらソファーに座る。
そんな僕のところに零くんが来た。
「もう慣れた?」
僕がそう訊くと、零くんは僕の横に座って、疲れたようにこう言う。
「めっちゃ疲れますよ。あの二人、特に陽向さんが元気ありすぎて……」
「ははっ、わかるよ」
この、いつもの空気を吸いながら、僕は笑っていた。
そこに、シーラさんから出動命令が出される。
それを聞いた僕らは四人で出動した。
陽向さんだけが「サーイエッサー!」と言う。
そして四人で電車に乗り、現場へ向かった。そこにいたアークリオンを手順通り、弱らせてから白い鍵を挿して分離する。
相変わらずこのチームは凸凹で、零くんはいざバトルとなった時に、女の子が被害者だったため気絶してしまい、穂火ちゃんはお昼にご飯を食べ過ぎたせいで動けずにいた。
でも今日は陽向さんがいる。これは集中力を使うからあまりやりたくないけど、今回は陽向さんのアークで、分離したアークリオンを倒した。
「桜決! 花雷迅!」
そして僕は陽向さんのアークを閉じる。本当にこれは集中力を使う。疲労が溜まるのだ。
なのでいつもは穂火ちゃんにメイン火力として頑張ってもらっている。零くんは強いのに、女の子がいると七割以上弱くなるから、局所的に活躍してもらっている。
だがまあ、陽向さんがいればすぐにアークリオンを倒せるから楽っちゃ楽だな。
僕はそう思いながら、手の平の上の三本の鍵を見つめる。
桜のような桃色の鍵、真っ赤に燃えるような赤い鍵、防衛のイメージなのか紺色の鍵。
これは、アークロックの三人のアークの鍵だ。
僕はそれをポケットに入れる。
思い返せば、夏休みが始まってから同じ毎日を繰り返しているような気がする。
あの日、陽真くんと会った日のような刺激が欲しいと感じた。
また彼と遊びたい、また彼と話したい。
僕にとって彼は、初めての親友のようなものであった。流石に早いので、親友だとは相手には伝えていないのだが……まあ親友に時間など関係ないのだ。
本音を伝えられる相手というのがどれほど大切か、毎日の通話とゲームでそれを感じた。
彼とは、生涯の友達でいたいなと、心から思う。
でもさ、そういう時に限って不幸になるんだ。それが運命のジンクスなのだから。
「なるほど、確かにアーロイドの言うとおりだ。あの力、あのエネルギー量、確かに計画の鍵になる」
「……!?」
オレは勢いよくその声のする方向を見た。
ここは黒の鍵を使っていない現実世界。今はもう使われていないショッピングモールの庭。
二階建てモールの上から、噴水のある中庭を彼は見つめていた。
「だれ!?」
陽向さんがそう言う。彼は、陽向さんを見てこう言った。
「私はプラネッツの一人」
その一言を聞いた瞬間、全員にプレッシャーが走る。
キーハートを握る手に力がこもった。
やけに屈強で、ローブを着ている落ち着いた中年の男はこう言う。
「私は木星担当、エーヴェル・ジュピターだ。要求を述べる。陽向灯里をこちらに寄越せ」
「……無理だ」
オレはそう伝える。陽向さんの前に立って、エーヴェルという男を見た。すると彼はため息を吐いて、こんなことを言い出す。
「全面抗争も厭わないぞ」
「かかって来いよ」
オレはそう言った。それは、ミスだったのかもしれない。でも、陽向さんを失うわけにはいかなかったから。
ザザっと、オレたちがいる庭を囲むように奴らは現れた。
「わかってないねぇ、君たち」
その声の主を見て、零くんの表情は固まる。
オレはそいつの名前を呟いた。
「アーロイド」
「やあ、水星担当、アーロイド・マーキュリーだ。前はよくもやってくれたね、君たち」
そして、そんな彼女の横にいるのは、知らない男。
「フィアードを倒したそうだな。許さんぞ、お前ら」
ハゲた頭はキランと光る。スキンヘッドの威圧を感じるその屈強なスーツの男は、サングラスの先からオレたちを睨んで腹の底からこう言った。
「オレは土星担当、ライガー・サターン。お前ら、潰される覚悟はできてるのか!?」
「……くそっ」
オレは、無意識のうちにそう言っていた。次々と現れるのは、おそらくプラネッツのメンバー。
合計で、六人。
エーヴェル、アーロイド、ライガーという奴らに加えて、色っぽい妖艶なドレスを着た女、上裸で三又の槍を持っている男、小さな背丈で二本の剣を持つ女がいた。
対して、こっちの人数は四人。
まさに絶対絶命。
エーヴェルは手を振ってこう言った。
「やれ」
それは、目にも止まらぬ速さ。
一瞬のうちにオレたちの横に並んだ上裸の男は水を操り穂火ちゃんの炎を無力化した。そして変形した槍は刺股のようになり、その男はそれを投げる。
投げられた刺股に押され、穂火ちゃんを捕えるように壁に刺さった。
「がはっ!」
「穂火ちゃん!」
陽向さんはそう言った。
そんな陽向さんは、瞬きの間に姿を消す。
「そんなこと言っている場合ではないだろう」
気づけば、エーヴェルが陽向さんの口を押さえて二階に移動していた。
「……!? いつの間に!? 零くん!」
「はい!」
零くんのアークは開いている。あの力なら、この場を乗り越えられ……。
「あーらやだ。可愛い男」
「……っ!」
色っぽい妖艶なドレスを着た女が、零くんの横に移動しており、彼を抱きしめていた。ボボボボボと泡を吹きながら零くんは気絶する。
オレは、敗北を感じていた。
……否。
まだだ。まだ、オレがいる……!
「悪いな、鍵斗。オレはお前と、できれば仲良くしたかったよ」
コンコンと足音を立てながら、一人の男が現れる。オレはその真実を認めたくなくて、動きを止めたんだ。
「鍵斗と遊ぶのは……楽しかった。誰よりも一緒にいて気分のいい友人だった。でもな、オレたちは相容れない立場だったんだ」
「嘘だ……」
「嘘じゃねえ」
彼は、バツが悪そうに頭をかいた後、こう続けた。
「地球担当、アンロック・アース。いや、お前はもう本名を知っているもんな、必要ねえか。……オレは地球担当、封刃陽真。本当に、悪いと思っているよ」
それは、瞬きも許さぬ一撃。オレの体に弾丸が撃ち込まれ、その衝撃でオレは倒れた。
貫通はしていない。打撃を与える謎の弾丸。
オレは、いや僕は……もはや戦闘を諦めていた。
陽真くんを、キーハートで斬るなんて、僕にはできない。
倒れた僕に、陽真くんはこう言った。
「自分勝手でごめん。でも、友達は今日で終わりだ。ありがとう、そしてさよなら、空錠鍵斗」
この日、僕たちは最悪の夏休みをスタートした。穂火ちゃんは動けず、零くんは気絶し、僕は戦意を失った。
最後に見たのは、敵に囚われ、口を押さえられながら泣いている陽向さんだった。
僕は、静かに目を閉じる。
この日、僕たちアークロックは、プラネッツに敗北した。
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鍵斗くんが撃たれた。血は出てない、貫通はしてない。
死んでないよね?
穂火ちゃん、零くん、みんな、負けた。
「……」
突然ですが自己紹介を……なんて言えない。わたし、陽向灯里は、拘束から抜け出そうと体を動かした。だが、強い力に抑えられて逃げられそうもない。
それが怖くて、それよりもみんなが傷ついたことが辛くて、私は涙を流したんだ。
「……」
鍵斗くん、穂火ちゃん、零くん。
ねえ、ねえ……。
吐き気を催した。
刹那、ぐわんっと、視界が揺れる。
ああ、これ、懐かしい。あの時と同じ、全てが憎い、悪寒の衝撃。
頭が痛い、視界が揺れる、吐き気を催す、悪寒が止まらない。
まるで、心臓の奥から何かが出てきそうな、気持ちの悪さを覚えた。
「……」
もはや、陽向灯里の意識はない。陽向灯里の体は動き、ゆっくりと口を押さえているエーヴェルの手を退けた。
力を抜いていたわけではない。なのに動かされた。その怪力に、エーヴェルは目を丸める。
陽向灯里の目は動き、その鋭い視線でギョロッとエーヴェルを見つめた。そして、こう言う。
「余に触れるな、三下」
数え切れない量の桜の花びらが、空中を舞う。
今、この瞬間、プラネッツ全員に緊張感が走った。




