日常
それから僕の日常は一変した、なんて事はなく。
「行ってきます!」
週に三日は教会へ行き勉強をして。
「お兄ちゃん待ってよー」
三つ下の妹を連れて遊んだりして過ごしていた。
「ルル!」
町で見かけた友達のルルに声を掛ける。
「あっ、アベル! リリーちゃんも。こんにちは」
「ルルお姉ちゃんこんにちは!」
ルルは、リリーの頭を優しく撫でてから僕の顔を見て何をしているのかと聞いてきた。
「アベルは、何をしているの?」
首をコテンと傾けて聞くのはルルの癖だ、前に「ソレは何故するの」と聞いたら、コレをすると大抵の男は言う事を聞いてくれると言っていた……女の子怖い。
「何って、リリーと散歩さ。あと、帰りに薪を買って帰るお使い」
「そうなんだ」
ルルを見ると、肩から斜めに掛けた小さめのポシェットの他は普段着というかエプロンかわいいね。
「ルルは、何をしているの? 見た所、お店の手伝いでは無さそうだけど」
そう言うと、ルルはキッと僕を睨みつけて。
「私はお母さんの代わりに買い出しに来てるのよ! 変なスキルしか貰えなかったアベルとは違って役に立ってるんだから!」
ええー?! 変なスキルって、何で僕のスキルの事知ってるの?
「神父様が言ってたわ。それに私は、この前教会で祝福を貰ってスキルがレベルアップしたんだから」
フンス! っと胸を張るルル。
「レベルアップ?」
「そうよ! 何と『目利き」と『交渉』が増えたのよ。昨日まではお母さんと一緒に買い出しに来てたけど「もうルルに任せて大丈夫ね」ってお母さんに言われて、今日から私だけで買い出ししてるんだから!」
何と! あの時祝福を貰ってスキルが進化したのは僕だけじゃなかったんだ!
(この子のスキルはレベルアップなので進化ではないにゃ、アベルのスキルは進化なのでもっと凄いにゃ)
え? どう言うこと。
(それは……)
「おっと! ごめんよー」
ドンッ!
その時、通りの脇から現れた男が僕にぶつかると、慌てた様子ですぐに去って行った。
「何だったんだろ?」
「大丈夫アベル?」
「お兄ちゃん大丈夫?」
二人ともケガをしていないかと心配してくれたけど、大丈夫ちょっとぶつかっただけだよ。
「あれ? お兄ちゃん何持ってるの?」
「え? あれ? コレは?」
いつの間にか僕の手には、茶色い布の袋が握られていた。
「何だろこれ?」
布の袋を持ち上げながら、僕の心臓はドキドキしていた。これ『わらしべ長者』のスキルが発動してる!
「あの野郎、どっちに行った?!」
その時、男が現れた場所から別の男の人たちが現れた。手には長い棒を持ち、腕に腕章を付けた人。町の犯罪者を捕まえる兵士の人達だ。
「君達、さっき此処で慌てて走って行く男を見なかったかい?」
後から来た若い兵士の人が、僕たちに声を掛けてきた。
(さっきのぶつかった人かな?)
(アベル、さっきの男なら向こうの角を左へ曲がって行ったにゃ。あそこに立っている女の人達も見ていたにゃ)
僕がイヅミに教えてもらった通りに兵士の人に説明すると、兵士の人はお礼を言って角に立っている女の人の方へと向かって行った。
「よく見てたわね」
「たまたまね」
さっきの布袋はとっさに収納に入れてしまったのだけど、そこに表示されたのが『布袋に入ったクスリ(痛み止め)』となっていて。もしかして誰か困っているのかと思ったんだ。
「!」
「あっ! じゃあルル。また明日! 教会でね!」
スキルの強制イベントが発動した僕は、慌ててリリーの手を引いてルルと別れた。
(アベル、強制イベントを止めないの?)
うん、ちょっとこのまま行ってみよう。
リリーの手を引きながら、強制イベントで体は勝手に何処かに向かって歩き続ける。暫くすると何かを探すように下を向いてウロウロしているお婆さんの前で体が止まった。
「お婆さん、どうしたんですか?」
僕がお婆さんに声を掛けると、ハッと顔を上げて僕たちを見た。その顔はとても困った様子で。
「あ、ああ坊やたち。何、ちょっと落とし物をしてね。それを探していたんだよ」
お婆さんは、僕たちの姿を見てもオロオロして。辺りを見回していた。
「何を探しているんですか? 良かったら僕たちも手伝いますよ」
そう言うと、お婆さんは少しだけホッとした顔をして。
「この位の、茶色の布袋さ」
そう言って、お婆さんが手のひらであの布袋くらいの形を作った。
僕は、それを聞いた後で辺りを見回すフリをしてから、少し端の方へと歩いてゆき。
「お婆さん、コレですか?!」
と、収納から取り出した布袋を上げて見せた。
「おお! そう、そう。それだよ、よく見つけてくれたね。お爺さんの大事な薬だったんでね、無くしたらどうしようかと思っていたんだ。見つけてくれてありがとう」
そこまで言われて、まだその布袋は僕の手からは離れない。
「そうだ、何かお礼をしないとねえ。家に何かあったかねえ」
お婆さんが、お礼を何にしようか悩んでいると。
「ねえねえ、お兄ちゃん。早く薪を買って帰らないとお母さんに怒られるよ?」
「おや? 坊やたち、薪が必要だったのかい?」
リリーの声に反応したお婆さんの顔がパッと明るくなる。
「丁度いい。家には薪がたくさん余っているから、好きなだけ持って行くが良いよ」
その言葉を聞いた途端。僕の手から布袋は離れて、無事にお婆さんへと渡す事ができた。
僕たちはお婆さんに付いて、お婆さんの家へと向かっていた。お婆さんの話によると、歳を取って薪を使うのは危ないからと、町を離れて王都へ行った息子さんが、最新式の魔導コンロを送ってくれたそうだ。
それからは薪は殆ど使っていないそうで、余っているので幾らでも持って行っておくれと、家に連れて行って貰っている所だった。
「えっ!? こんなにあるの!」
お婆さんの家に着き、薪の置いてある小屋へ案内されると。薪は本当に沢山あったので、一度リリーを連れて帰ってからまた来ますと言ってお婆さんと別れた。
それから、リリーを連れて家に帰った僕は。お母さんに説明してもう一度出掛け、お婆さんの所で薪をたくさん分けて貰って家へと帰った。




