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不遇スキル「わらしべ長者」で殺せぬ勇者 〜魔力ゼロでも無双します〜   作者: カジキカジキ


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それぞれの進む道

 ヒッポと言う魔獣に引かせた荷車に寝かされて運ばれる勇者テツと第二王子。


 ニヤはヒッポが珍しいみたいで、ちょくちょく体を触っては離れる、を繰り返している。その度にヒッポの尻尾がクリクリなるのが可愛い。

 

 撤退中、ずっと勇者の側にいる聖女と呼ばれる女性に、テツが何故こうなったのか聞いた。


 勇者が前線に入って暫くは、魔物も少なく戦闘も散漫で落ち着いたものだった。

 そして先日の交代要員が入り、あの凄い威力の魔法を使い始めると、魔物や魔族の反撃すら減り始めた。


 それをチャンスだと考えた勇者と第二王子は交代をせずに戦場に残り、兵士の士気を高めて魔族を追い下げようと考えた。


 そして三日前、いよいよ反撃をしようと部隊を纏めていた時に魔族の大攻撃が始まり先制されてしまった。

 天幕から飛び出した第二王子を流れ魔法が襲い、気が付いた勇者が身を挺して庇い大怪我を負ってしまったのだそうだ。


 聖女の『はいひーる』でも中々治せないで焦っていた時にさらに魔族の攻撃が始まり、いよいよ終わりかと覚悟した時。


 急に戦場が鎮まり返った。何一つ物音が聞こえない中で、今の内にと『はいひーる』を使おうとしたが、全く魔法が使えなくなって困っていた事。


 ガタゴトとヒッポの引く荷車が進むが、前線基地まで戻るには三日掛かる。戦場から離れた事でアルフ先輩が聖女に『High heal』の新詠唱を教えて無事に発動、テツの怪我も第二王子の怪我もすっかり治す事が出来た。


 その詠唱の効果の高さに、聖女も凄く驚いていた。

 そして、兵士達の使う魔法の威力が高まっていた事にも納得した様子だった。


 怪我が治った第二王子が前線に戻ると言ったが、第二王子も勇者も体力までは戻っていない事、魔族も退いて直ぐには戻って来ないだろうと言う事。

 イグルの連絡を受けて緊急で駆けつけたので戻った兵士たちへの新詠唱を教えられていない事を伝えると。一旦前線基地に戻る事に賛同してくれた。


 そして、前線基地まであと一日となった日の野営地で、俺は割り当てられたテントを抜け出してテツのいるテントへと向かった。


「くると思ったよアベルくん」


「俺と分かってたんだ、テツ」


「僕って言わなくなったんだねアベルくん。僕は、勇者になって強くなったと思っていたけど。またアベルくんに助けて貰ったね」


「そんな事はないよ、テツはすごく強くなっている、この戦場で大勢の命を救っているんだから。俺はやっと二人を助ける手助けが出来ただけだよ」


 テツは以前の優しい笑顔をふっと見せたかと思うと、急に厳しい顔つきになって。


「だけど、もう大丈夫だよ、聖女の回復魔法も強力になったし、ほかの兵士や第二王子のまわりもあの詠唱が使えるようになるんだろ? アベルくんは下がって、安全なところで待っててよ」


「テツ」


「昨日は助かったよ、ありがとう」


 テツはそう言うと振り返りもせず自分のテントに戻ってしまった。

 ボーッとしてテツが入っていったテントを見ていると、横に聖女の女性が立っていた。


「少しお話ししても大丈夫ですか」


 聖女さん、名前はリリアンナさんと言った。


 出会ったばかりのテツは、とても怖がりで武器を手に持つことも恐れていたけれど、騎士団に入らされて毎日しごかれて、武器で殴られ、その内感情が抜け落ちたようになってからは、武器を振るう事に戸惑いが無くなっていったとの事。

 

「それでも、内面は悲しそうに見えていました。

 私はスキルの効果でそれがすごく伝わってくるんです。嫌だ、苦しい、本当はこんな事したく無いのに、何故皆んな殺し合いなんてするんだ、さっさと辞めちゃえばいいのに、辞めたいって」


 リリアンナさんは、戦場に出る度にそんなテツの心が流れて来て、自分も一緒に苦しみながら戦っていたと話してくれた。


「先日、貴方の姿を見たテツの心は、一瞬でしたけど以前の怯えた優しいテツの心に戻ったんですよ」


 そう言って寂しそうな顔をテツのいるテントへと向ける。

 

「でも、やっぱり自分が戦わないと、魔族を追い払わないと他の大勢の人たちが死んでしまうという強いプレッシャーに押されて、すぐに無感情のテツに戻ってしまいました」


 それを聞いて僕は決心した、テツの勇者のスキルはどうにかして僕が貰う!

 テツには勇者は似合わない、優しくてお花が大好きなテツは、こんな戦場ではなくて町でお花を育てているのが一番似合っているんだ。


 話を聞けて良かったとリリアンナさんにお礼を言って、僕はテントへと戻った。


 テントに戻るとニヤの側に、また別の人影があった。


「先生……」


 ジルヌール先生と、隣にはアルフ先輩もいた。


「一人で行くのか?」


「一人じゃありません、ニヤもイヅミもいます」


「僕も!」


 俺はアルフ先輩の言葉を手で制して、その言葉の先を止めさせる。


「先生とアルフ先輩には伝言をお願いします。俺は魔族との争いを終わらせて絶対に戻って来ますから、そしてテツを勇者から解放してやるんです。

 先生は、軍の人達に俺が戻るまで魔族への攻撃を再開しないように説得をお願いします。

 それと、あの詠唱はもう使わないでください」


 そして、収納からあの日見つけた本と、もう一冊の本を取り出した。三冊の本を手書きで翻訳して纏めた物だ。


「その理由はこの本に書いてあります。書かれた内容は全て真実です。そして、この本を書いた本人にこれから会って来ます」

 

 そして、収納に入れておいた上級ポーションの殆どを先生に渡して、僕とイヅミとニヤの三人は魔族の土地、極北の大地へと旅立った。


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