魔王軍の焦り
「うん?」
戦況の報告書を見ていた所、今回の人間サイドの交代以降、魔物の損傷率が大幅に上がっている事に気が付いた。
「何かありましたか? Hādēs参謀」
参謀室の職員が、ワシの呟きに気付く。
「この数字の異変は、今回の交代の時だけか?」
ワシの問い掛けに、職員が前回、前々回の数値も調べ報告する。
「これだけ損傷率が上がるのは、今回が初めてのようです」
定時の報告書のみで内容の説明は無しか……。
「前線で何が起こっているのか、調べて報告させるように伝令を送れ」
そう職員へ伝え、ワシは魔王様の様子を見に王の間へ行こうとした所、前線からの緊急の連絡文が届いた。
連絡文を読むと、突然人間どもの魔法の威力が上がり、魔物の損傷が激しく前線が崩壊しそうだとの事。至急増援を頼むと言う内容だった。
「何をやっておるのだ!」
貴重な戦力の魔物を簡単に潰しておきながら増援だと? 今の魔王軍の何処にそんな余裕があると言うのだ!?
今、前線の指揮官を務めているのはAnemoiか。
「至急Izabellaを前線に送って、何が起こっているのか調べさせろ!」
あの若造が、もし勝手な事をしておったのならワシの槍の錆にしてやるぞ!
◆◆◆◇◇◇ ◆◆◆◇◇◇ ◆◆◆
「まったく、何で私がアイツの尻拭いをしなければならないんだ……」
作戦参謀のHādēs様から呼び出された時は内心喜んだものだが、前線でAnemoiがやらかした失敗の原因を調べて来いだとか。私を何だと思っているんだ!
魔王城の参謀本部から、人間どもと戦っている前線までを空を飛びながら移動する。
私は、この空を飛んでいる時が好きだ。
この時間だけは、私は自由になれる。誰にも干渉されずに好きに何処へでも行けるから。
まあそのお陰で一度死にそうな目にも遭ったが……。
ふと、あの時の子供の事を思い出した。確かアイツは私達の言葉を理解していた?
今回の件にアイツが絡んでいるのだとしたら。
前線基地が見えてきた事で、私は頭を振って不確定な要素は捨てて、いつも私に突っ掛かって来るAnemoiをどう揶揄ってやろうかと考えていた。
「Anemoi司令官、Izabella様がいらっしゃいました」
前線基地に着くと、奴の部下に案内されて司令官室へと通された。
「よおIzabella、何の用だ?」
コイツめ、分かっているクセに白ばくれてからに。
「誰かさんが人間相手にヘマをしたと聞いてな、そいつの顔を見に来たんだよ」
「チッ!」
途端に不機嫌な顔になるAnemoi。
「何があった?」
こちらも参謀に報告しなければならないので、真面目な顔で何が起きたのかを聞き出す。
「なるほど、人間が我らの言葉の詠唱を使っていた……か」
「まだ確実じゃねぇ、部下の報告だけで俺が聞いたわけでは無いからな」
ここに来てもコイツは、自分が悪いとは思っていないようだ。
「それで報告をせず。魔物に多大な被害を出した訳か」
「詠唱が使える人間はまだ少ない、これから打って出れば全滅させられると思ったんだよ!」
アホかコイツは!
「馬鹿者が!! 魔王様が常々言われていたであろう! 人間は一人一人の力は弱いが数が多い! 奴らが集まり集団になればどんな力になるのか分からぬのだと!」
私はこのアホと話しをするのも馬鹿らしくなり、部屋を出ようと踵を返す。
「この件は早急に戻って魔王様にも報告させて貰う! お前は司令官失格だ!」
「まてIzabella!」
待てと言う言葉を聞かずに基地の外へ出ると、私はすぐに空へと上がった。直後『我々の言葉を使った』このフレーズに一抹の不安を覚え、人間どもの基地の方向を見る。
「!? まさか……いるのか?」
私はすぐに魔王城へ戻るのを辞めて、人間どもの基地のある方向へと向かった。
「アイツ……何処へ行くんだ?」
私の姿を追っているAnemoiの事など、微塵も気に留めずに……。




